第9話
…………(もう嫌だっ…!)
兄達からの魔法の修行という名の虐めを受けて数ヶ月が経っていた。
日に日にレイルの身体は傷が増え、生傷が絶えない身体になっていた。
それだけならば、まだ良かっただろう。
父親に助けを求めると「修行が足りんからそうなるのだっ!」と取り合ってもらえず、
義母からは嘲笑われ、使用人達からは当主から言われない限り基本居ないものとして扱われる。
家に居たくなくて、街に出れば周りの大人達から距離を取られる。
そんな大人達に影響されてか、子供達はレイルを見つけると石を投げつけたり、殴ったり蹴ったり暴力を振るい笑う。
「おーい!無能の三男坊がこっちに来たぜー?」
「父ちゃん達が言ってたぜ!
お前ろくに魔法も使えないんだろ?
俺達でも生活魔法は使えるもんねー!貴族のくせに情けな〜い!」
「ほら、さっさと消えろよ!無能ー!!ハハハッ!」
レイルは……限界だった。
いっその事、自らの命を絶ってしまえればどれだけ楽なのだろうと思えるほどに。
しかし、そう思うたびに優しげに微笑む母の顔が、楽しげに自分を想って微笑いかけるナナリーの顔が浮かぶのだ。
だが、レイルの中にある暖かな優しさや希望といった白が
絶望という名の黒にじわじわと染められてゆく…
(母上…ナナリー…僕はもう無理です。
このまま生きていける自信がありません…)
兄達や住民達からのイジメを止めず何もしない叱責するだけの父親を恨み…
魔術が使えないと嘲笑い何かにつけて嫌がらせし、居なくなった母への罵詈雑言をする義母を憎み…
実験と称して魔術の的にして何度も怪我をして死に掛けたのにも関わらず、なおも虐める兄を怨み…
嘲りの目を向けて来る周りの人々が怖かった。
そして才能がないと出来損ないなのだと自分を憎み、
まるでお前は必要無いと
言わんばかりの世界を怨嗟した。
レイルの心と身体は既にボロボロだった。
そしてフラフラになりながら何も考えられない頭で出した結論が、
(死んでしまおう。)
(ごめんなさい…母上、ナナリー…
僕はもう……この世界に居たくありません。さようなら。)
………自殺。
死というこの世からのさよならだった。
レイルはミリザリア皇国リッツオール家伯爵領の北西に位置する霊峰グランシェルトの麓の樹海に来ていた。
この山には1匹の龍が棲むと言われており、様々な動物や植物、果ては魔物…それも1匹で街を破壊出来る天災級魔獣などが至る所に棲まう危険な場所だった。
しかし何故か強力な魔物に限っては樹海からは出て来なかった。
まるでナニカに従う様に一定の場所まで来るとピタリと止まり引き返すのだった。
なぜレイルがこの場所を死に場所に定めたか…
それは自分でもわからなかった。
ただ誘われる様に不思議と安らぐ気持ちになり、
気が付けば樹海へと足を運んでいた。
(ここなら誰にも見つからずひっそりと死ねる…。
もう辛い思いをしなくても良いんだ。)
出来るだけ誰にも見つからないような場所を探しながら森の奥深くに進んで行く。
幸か不幸か、肉食動物や魔物にも何故か出会わず、右も左も分からない森の中を覚束ない足取りで導かれる様に奥へ奥へと進んで行く。
元々満身創痍で歩き続けてこれ以上進めないと思い辺りを見廻し徘徊していると、
急に視界が開けた場所に出てきた。
…そこには一本の巨大な樹が佇んでいた。
「ここは何なんだろう?
何処か懐かしい雰囲気がする?
……ん?あれは……?銅像??」
レイルが大樹に向かって歩いて行くと幹の根元に何かあるのを発見した。
「??…これは女神像??」
そこには苔が生え、木のツタや葉にまみれた1体の女神像があった。
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