第8話

ボロボロになったレイルは自室のベットでうなされていた。



「うぅ……母上…

行かないで…母上!僕を置いていかないでっ………ハッ!?」


「僕はどうしてベットに……つっぅ!?」


レイルは全身の痛みで目が覚めた。



「……そうか、兄上達に魔法の実験台にされたんだっけ……」



(ははっ、情けないな。

…何故僕はまともに魔法が使えないんだろう。

そうすれば、父上に見限られる事も、

兄上に蔑まれる事も、

母上が居なくなる事もなかったかも知れないのにっ!!)



レイルは「ふーっ、ふーっ」と必死に涙を堪え身体の痛みに耐えながら何故初級以上が使えないのか考えていた。

そして1つ1つ自分の使える魔法を確かめて行った。



「ふぅー……火よ、灯せ。ファイア。」


一息つき呪文を唱えると、

レイルの指先から小さな火が出る。

そして成功すると、次々に初級の簡単な呪文を唱えていく。



「水よ、濡らせ。アクア。」

掌に水の玉が出来る。


「風よ、そよげ。ウインド。」

フワッと髪が揺れる。


「土よ、固まれ。アース。」

机にある花瓶の土が固まる。


「光よ、照らせ。ライト。」

手から光球が出る。


「闇よ…隠せ。ダーク。」

机にある花瓶が影に紛れる。


さまざまな属性の初級魔法が発動される。



そう、レイルはたったの5歳で既に6属性の初級魔法を扱えるのだった。


しかし、当の本人は「初級以上の魔法が使えない」という事にしか目がいっていないので、

自分がどれだけ規格外の事をしているか自覚していない。出来ない。


優秀と言われる兄達ですら3属性しか扱えていないのだ。


しかし、落ちこぼれや出来損ないと言われ続けているからかその影響で、周りの人間……

父や義母…兄達、執事やメイドにも魔法を見せたがらなかった。

結果、誰も指摘しないし、レイルを見ようともしなかった。


唯一、魔法を教えたミザリーと元婚約者のナナリーの2人だけがレイルの異常さを知っていた。





レイルはいつもの如く窓を開け外に向かって

中級魔法を発動しようとすると……



「大気よ、震え、響け!ソニックブーム!………

っくそぅ…やっぱり初級以上が出来ない。」



(初級なら大丈夫なのに…

中級以上になるといつも魔力が最低限しか集まってこない。いったい何故なんだろう?)




レイルは自分の身体の中にある魔力がある一定を越える出力になると途端に阻害され散っていくのを感じていた。



(母上は…「いつかきっと皆が驚くほど魔法

が使えるようになるから」と言われたけど、全然使える気がしないよ!)



(まぁ考えてもしかたない…か。

魔法の勉強をもっとすればいつか原因がわかるかもしれないし。)



この日を境にますます部屋に籠りがちになった。




数日後、気分転換の為に久しぶりに外の空気を吸いに行こうと屋敷から出て、街に行こうと思った。

案の定、屋敷の誰からも止められず見向きもされなかった。


レイルは瞳から次第に周りの景色の色がなくなっていくのが自分でわかった。



街に出ると、大人達からはヒソヒソと何か言われ目を逸らされる。

そして公園などで遊ぶ子供達からは何処で知ったかレイルの事を出来損ないと嘲笑うのだった。



そんな視線や笑嘲に耐えかねて無意識のうちに涙を流しながら走り出していた。



気がつけば自分の部屋のベットに蹲り1日中泣き叫んだ。



そこからレイルにとって長く辛い地獄のような日々が始まった。

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