第48話
かららん。
聞きなれたカウベルの音。
同時に、3人の視線がこちらに向けられた。
アリスさん、アル、そしてキセ。
私は少し驚いて。それから、三人に挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう」「おう」「おはようございます」
当たり前のことが、なんだか懐かしさを感じた。
「アルがここで会えるなんて、なんだか嬉しいな」
「アリスさんからスゴいことを聞いてさ。なんでも、ジオが三大問題を解決するって。一大事件だからね、キセと一緒に来ちゃった」
私はアリスさんを見た。
「オレは、ジオが三大問題について研究成果を発表する、って言っただけんなだけどな。いつのまにか解決することになったみたいだ」
まぁ、別に良いけど。
「聴衆は多い方がいいですからね」
そう言って、準備を始めた。
「これから、三大問題についての、話をします」
三大問題。
まずは、角の三等分線からだ。
折り紙を取り出す。
「左下の
これが、三等分する角になる。
「それから、適当な幅で真横に折り線をつけます。
同じ幅で、もう一つ。
こうすると、一番下、最初の横線、2つ目の横線が等間隔で並びます」
一度言葉を切った。
次が、もっとも重要な、折りだ。
「左下の
2つ目の横線の左端が三等分したい角度の折り線の上にくるように折ります。
これで、本質的な部分は終わりです」
そう言い終わると、「ハハっ」と小さな笑い声が聞こえた。
アリスさんだ。
その口許が獰猛に弧を描いている。
きっともう、その全貌が見えたのだろう。
そうしてもう、その美しさを味わっているのだろう。
私は、最後の手順に取りかかった。
「左下の
そうしたら広げて、二つの折り目をつけます。
最初の折り目は。
左下の
この2つを通るような折り目。
次の折り目は。
左下の
この2つを通るように折ります。
その2つの折り目が、最初の角度の3等分線になっています」
そう言って、折り紙を広げた。
綺麗につけた折り目は、最初の角度を三等分する線がハッキリ折られている。
「証明は――」
その言葉に。
「
アリスさんの言葉が重なった。
「平行線の錯角の性質。二等辺三角形の性質。こんなにも明快に三等分線を作っているんだ。自明と言わずしてなんという?」
アリスさんの言葉に、小さく笑った。
確かに、こんなにも明確なものを説明するのは、冗長かもしれない。
「以上で、角の三等分は解決しました」
拍手もなにもない。
ただ、沈黙と、三人の期待とだけが、広がっていた。
「次に、倍積問題です」
これは、元の立方体の体積を倍になるような立方体の作図する、という問題だ。
元の体積を1とすると新しく作る立方体の体積は2になる。では、体積が2の立方体の一辺の長さはいくつだろうか?
文字を使って表せば
作図で、この x を作ることは、未だにできていない。
それを折り紙で解決する。
新しい折り紙を取り出す。
「まずは同じ幅で2つの横線をつけます。下の横線を1番目、その上の横線を2番目と呼びます。次に左下を2番目の横線に沿って斜めに折ります。この折ってできた直角三角形を補助に縦に折り線をつけます。この折り線は幅が2になります。これを元にもうひとつ、幅が2の縦の折り線をつけます。最初の縦の折り線を1番目。今折った折り線を2番目と呼びます。左端の下から1の部分を縦の2番目の上に。左下から2の部分を、2番目の横線の上にくるように折ります。できた折り線と1番目の線の交点。横の1番目と縦の1番目の交点。この間が、求める長さ、つまり体積がもとの2倍になる線です」
言い終えると、静けさが広がった。
三人とも、その折り目と図形的な性質を確認している。
――ピューォ。
静寂を破ったのは口笛。
それから、アリスさんの声。
「なかなかにキレイじゃないか。一辺を共有した形が同じ、大きさの違う直角三角形が 3 つ。あとはそれぞれの比から、示された長さを 3 回掛け算した長さを表す部分が、ちょうど 2 と重なる。こんなにも明快な図を織り出せるとは、なかなかに素敵じゃないか」
それから。
「文句のつけようのない証明だ。倍積問題は解決された」
アリスさんに頷いてから、アルに視線を向けた。
「ボクも同意見だよ」
そういって笑って見せる。
これで、だ。
三大問題のうち、2つについて、証明が示された。
残るは 1 つ。
円積問題だ。
円と同じ面積をもつ正方形の作図する。
誰でも分かる簡単な内容が、アリスさんでも解けない難問として存在している。
もちろん、ほぼ無理だろうというのが通説だ。
でも、まだ。
証明はされていない。
その証明に、挑んだ。
私は先に、結論を言った。
「円積問題について、――」
周りは静かで、時間が流れる音さえ聞こえそうだった。
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