第45話

 角の三等分線に挑戦してから一週間後。

 私はアルに、折り紙を見せていた。

 その折り紙には、折り線がついている。

 アルはその折り線を真剣に見つめていた。

 私はそれを、ぼんやり見ていた。

 アルは顔をあげて「いいね」


「大丈夫そうか?」

「うん。大丈夫。利用している図形がシンプルだから、すごく分かりやすいよ。ここまでシンプルだと逆に、何で今までできなかったのか不思議なくらいだ」


 アルはこちらを見た。

 そんなアルに、私は答えた。


「――折り紙か」

「だろうね。幾何学において、折り紙はあまりにも強力な道具みたいだ。きっと、コンパスと定規じょうぎは、100年後には消えてしまうだろうね」

「それは言い過ぎだろ」

「ボクはそれくらいの可能性を感じているよ」それから。

「これなら、残りの2つの証明も可能かもしれない」

「じゃあ、これはどうだ?」


 もう一枚、折り紙を取り出し、渡す。


「倍積問題について、なんだが」


 アルは折り紙を受け取って、それを見て笑った。


「どうやったの?」

「 x だよ。元の立方体の体積を 1 として、大きくした立方体の一辺の長さを x とすると、 x の性質は、 x  3 = 2 だ。だからそれを作った。相似な直角三角形を3つ作って、対応する辺の長さが x 倍になるようにして。そうして、x《  3》を作った」

「明快だね。簡潔すぎて怖いくらいだよ」

「それじゃあ、あとは円積問題だけだな」


 そう。

 円積問題だ。

 そして。


「円の絡む、一番の難問だね」


 円積問題は、円と同じ面積をもつ正方形を作図する。という問題だ。

 これは、例えば半径が1の円の面積は円周率と同じ値になる。

 よって面積が円周率になる正方形の一辺を作図できれば解決だ。

 でも。肝心の円周率の、正確な値が求まっていない。

 もちろんそれが、作図できない理由にはならない。でも、不確かなものを見つけていく難しさは、間違いなくある。

 以前、私が挑戦した。

 そして敗北した。

 円周率だ。


「あの連分数の式を発見した謎々エニグマさんとしては、どうなんだ?」


 冗談混じりで、アルに聞いた。


「あれは1000年先の神様からの贈り物だからね。ボクも理解している訳じゃない。そう言った見地から言わせてもらうと。まぁ、折り紙でも難しいんじゃないかな」

「――だよな」


 この円積問題は、他の2つの問題と違って、方針さえ見えていない状態だ。

 それができるようになるかは、まだ手探りだった。


「まぁ、やってみるさ」

「うん。もし手伝えることがあったら、言ってね」

「ありがとう。その時は、力を貸してもらうよ」


 そう言って、アルと別れた。

 家に戻って、最後の難問に取りかかる。

 それは、厳しい戦いになった。

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