第33話
それからしばらくは、アルと√の話ばかりしていた。
毎日新しい発見と発展があり、充実した日々だった。
私は、発見と発展を紙に書き残した。
アリスさんが、地下書庫から出てきたら、真っ先に見せるために。
こんなにも面白い数学を、見てもらうために。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日も、アルとの研究でわかったことを書き記していた。
っらん、かららん。
ビックリしたようなカウベルの音。
それから、キセが息を切らして入ってきた。
「ジオさん! アルさん!」
「どうした? ずいぶんと急いでるみたいだけど」
「出題です!
私は、アルの顔を見た。
アルも私を見返し、頷いた。
「問題は、控えてるか?」
キセは首を振ったのを見て、私たちは
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
掲示板にたどり着き、問題を見た。
その問題を見て、思わずひきつった笑いが出た。
【問題】
正方形の角から、一つの角が60°である直角三角形を作る。
斜辺の長さが10cmの時、正方形の面積を求めよ。
私は、その問題を見たことがあった。
そう、アリスさんに出された、あの問題。
答えはもう分かっている。
――75 。
でも、そんなことはどうでも良い。
「なぁ、アル」
口の端がつり上がる。
「私の考えていることが分かるか?」
アルは少し考えて。
「晩御飯のこと」
「違うよ。なんだそれ。真面目に答えてくれよ」
「真面目に答えたんだけどな」
「ヒント。自分でも驚いている」
アルは、ふん、と息を吐いて、言った。
「 √75 って答えたらどうなるか。そう考えている」
「正解。どうだ?」
「みんな、『?』だろうね。定義も何もしていないんだから。落書きと同じだよ」
「だろうな」それから「もうひとつあるんだ」
「なんだい?」
「こいつに。エニグマに√を教えたら、どうなっちまうんだろうな、って」
アルの目が真剣になった。
「
「わかってる。自分でもおかしいと思っている。でも、気になるんだ。こいつに √ を渡したら。この天才に √ を教えたら、いったいどうなるんだろう、って」
「ジオは」アルが笑う「変わったね」
「教えたいなら、教えれば良いと思うよ。ただ、ボクはあまりお勧めしないけどね」
「やっぱり、規則違反は不味いか?」
「いや。それは些末だと思っているよ。ボクが心配しているのは、 √ はジオにとって必ずしもいいことばかりじゃないと思っているから」
「前もそんなこと言っていたな。なんなんだ? それ」
アルはそれ以上何も言わない。
「まぁ、いいや。決めた。私は、こいつにだけは話をする」
そう言って、問題用紙に 75 を書き込む。
それに加えて。
――これに関する興味深い発見がある。
興味があるなら返信をしろ。
そう書き込み、私の名前を書き入れる。
「これでよし、っと。返事は来ると思うか?」
「ああ、来るよ。きっとね」
アルは、そういった。
そしてその通りになった。
翌日には書き込みが加えられていた。
【返信】
ゴメノクレ メツヘムケエクキ 5559
そこで待つ。
これは。
横にいるアルと顔を見合わす。
「暗号か」
「暗号だね」
「解けないと、まずいよね」
「相手をずっと待たせることになるね」
「……だよな」
私は一度、深く息を吸い込んだ。
それから、暗号を解きにかかった。
一見難しそうだが、たぶん大丈夫だ。
恐らくだが、解けないほど複雑なものは持ってこないはず。
それに、後ろの数字がたぶん鍵になる。
であれば後ろの数字は、待ち合わせ時間の可能性が高い。
であれば、もとは切りのいい数字があったに違いない。
だとすれば、数字の部分の後半 2 桁は 00 か 30 あたりだろう。
そうすると、あることがわかる。
後半 2 桁は数字を 59 もしくは 29、ずらしている。
決められた数だけずらす。暗号化の
次は前半 2 桁だ。前半の前の数字は元がある程度予想がつく。
時間の表記をする際、先頭は 0 , 1 , 2 の 3 パターンしかない。
であれば、 5 個ずらしか、 4 個ずらしか、 3 個ずらし。
だから、ずらす数字として使っている可能性があるのは。
5 ? 5 9 4 ? 5 9 3 ? 5 9
5 ? 2 9 4 ? 2 9 3 ? 2 9
の6パターン。
そこで、「――はは」声が出た。
心当たりのある数字がある。
4 ? 5 9 だ。
苦い、思い出の数字。
4 ? 5 9 は、 4 1 5 9 で決まりだ。
なぜならそれは。
円周率だから。
円周率の小数数点第 3 , 4 , 5 , 6 の数字。
したがって、ずらしている数字は円周率に由来している。
3 . 1 4 1 5 9
この数字をもとに、文章を復元する。
そうすると。
ギムナジウム マチノミエルオカ 1400
おーけぃ。
いよいよ、
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