第30話

 それを見つけたときに、思わず笑ってしまった。

 いままでずっと。

 勘違いをしていた。

 アルから教わった方法で 360 / 7°を見つける長さが出せると思っていた。

 でも違かった。

 実際は、長さではなく傾き。

 すなわち、2つの辺の比、として見つけられるのだった。

 アルから教わった方法を見直している間に気がついた。

 いままでの苦労は、全部無駄だった。


 ――よかった。


 そう思った。

 正解に近づけたのだから。

 そして、いままでの作業を見返して、再検討できそうな部分を見つけ出す。

 それから、もう一度正しい方法で確認をしていく。

 正七角形に近い図を作図し、そこから横の長さを求めた。

 アルは横の長さに注目して式を作っていた。

 見つけるなら、この横の長さだ。

 斜辺が1mの直角三角形を作図して、そこから長さを確認する。

 そうすると横の長さはだいたい62.36cmになった。

 これを傾きに捉えなおす。

 傾きは 縦の長さ / 横の長さ で計算される。

 すなわち。

 横に1mに対して、縦に 78.18 / 62.36 cmとなるような傾きを探せばよかった。

 そこから、再度手探りの作業に戻る。


 ――そして。

         とうとう。

      見つけた。


 はじめてそれを見つけたときは、思わず声が漏れた。

 それから手が震えて。

 落ち着くように、宿の外を3周した。

 それからもう一度確認をして。

 最後に笑いながら泣いた。

 アルの式に当てはる傾きを、見つけた。

 それが出来たということは、正七角形に間違いなく近づいた証拠だ。

 キセと一緒に喜ぶと共に、アルに手紙を送って確認を求めた。

 でも、これで終わりじゃない。

 まだ傾きだ。

 これを辺の長さに直さなければならない。

 そして、それが出来たとしても、折り方を開発しなければならない。

 やることはまだまだたくさんある。

 つかの間の喜びをふりきって、次の問題へと取りかかった。

 今度の問題も、相当に厄介だ。

 いままでの折り紙は見本があったし、折り方も載っていた。

 でも、これからは自分で考えて、創らなければならない。

 そこまで考えてから。

 可笑しくなって笑った。


 傾きは手に入れたのだ。

 後は見た目なんて気にせずに、それらしいものを作ってしまえば良かった。

 求めた傾き作り、それらを7枚張り合わせても正七角形はできる。

 そう、変な拘りさえなければ、もう出来上がっているのだ。

 でも。

 そこで初めて気がついた。

 私はきっと、折り紙が好きになったのだ。

 だから、半端なことはしたくなかった。

 全力で作る。

 自分の満足をいくものを作る。

 そのために、できることはするし、使えるものは使う。


「キセ!」

「はい!」

「私たちは傾きを手に入れた。

 でもこれで終わりじゃない。

 むしろ始まりだ。

 ここからは折り紙の領域だ。

 正七角形を折り紙で折れるようにする。

 そのためには、私一人では力が足りない。

 協力してくれるか?」

「はい!」

「よし。我々は今から、新しい折り紙を創作する。

 これは数学と折り紙の未来を作る大切な一歩だ。

 二人で、未来を作ろう」

「おーっ!」


 そんな遊びをして、一頻り笑ってから二人で作業を始めた。

 折り紙において、キセは私のよりも何倍も上手かった。

 綺麗に折れるのもそうだ。

 それ以上に、折りの一つひとつの意味を、ちゃんと理解していた。

 私は折り目を見ながら、その意味を幾何学的に考えて理解をしていた。

 でもキセは、折ることで理解している。

 そうとしか思えなえかった。

 ためしに75°というと、さっと折ってしまう。

 折り方と結果がリンクしている。

 私にはできないことだ。

 でも、それがありがたい。

 アイデアを伝えると、それをちゃんと形にしてくれる。

 期限までは3日。

 残された短い時間の中で、キセの存在は貴重だった。


「どうしたんですか?」


 キセが心配そうにこちらを見る。

 私は少し笑っていった。


「キセがいてくれて良かった、って。そう思っていたんだ」

「ボクも、ジオさんの役に立てて、嬉しいです」


 できた子供だ。

 そう思いながら。


「キセは、何かしたこととか、食べたいものはあるか?」

「パルフェが食べたいです」

「じゃあ、一緒に食べに行こう」

「はいっ。頑張ります」


 そういって笑いあい、それからまた折りに戻っていった。


 残り3日。


 それは、本当に短かった。

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