第28話

 宝探し。

 その言葉が気になっていた。

 それは実際にやってみて実感できた。

 方針のない行動は、目隠しをして神経衰弱をするような感覚に近い。

 なにもないまま、さわったカードの数字を確認する。

 あっていなければ別のペアを探す。

 前の失敗がなにも活きないままに、次に進まなければならない。

 これではダメだと、やってみて分かった。

 なにか方針が必要だった。

 でも、簡単には思いつかない。

 実際に宝探しなのだ。

 そんなにいい方法なんて、思いつくはずがない。そう思っていた。

 ある考えが浮かんだ。

 それに気がついてからは、自分の浅はかさに、笑いが込み上げて来た。

 そうだった。

 私は天才じゃない。

 だからいつだって、先のことなんか考えないで、目の前にある一歩を踏み出すことをしてきた。

 今回もそれをすればいい。

 それだけのことだ。

 答えはシンプルだった。

  360 / 7 。これは大体、51.43°だ。

 そのくらいなら分度器で測ることができる。つまり、実際の値からそれに近しいものを探して確認していく。

 そこまで考えたところで、頭の中にアリスさんの言葉が浮かんだ。


――理論の程度が低い。お前は本当に数学者か?


 その言葉に、力無く笑って返すことしかできない。

 呻くように呟いた。


「でも。私には、本当にこれしかないんですよ」


 そういって、それから作業に取りかかった。


 結果は、

     徒労に終わった。


 アルから教わった判別法方があれば、もしかするとわかるかもしれないと思った。

 でもそんな簡単なことじゃなかった。

 失敗に肩を落としながら、気分転換に折り紙を折る。

 折り紙はキセと本から学んで、色々なものを折れるようになっていた。

 ツル、ボタン、カミヒコウキ、正六角形、ウサギ、などなど。

 色々なものを折りながら、折れた心が復元するのを待っていた。

 そんなとき、だった。


「ジオさん」


 キセが声を描けてくる。

「ん?」紙を折る手を止めずに、答える。


「少し頑張りすぎじゃないですか?」

「そうか? 別に普通だよ。むしろもっとやらないとダメなくらいだ」

「昨日、どのくらい寝ましたか?」

「分からん。6時間くらいか」

「1時間です」


 私でも知らなかったことなのに、よく覚えているな。


「まぁ、昼寝もしてるから」

「お昼寝は全部で30分でした」

「あー。何が言いたい?」

「休んでください」

「分かった。気を付ける」

「ダメです。今すぐ休んでください」


 なんだ。ずいぶん強気だな。


「大丈夫だよ。大丈夫じゃなくなったら、体が勝手に休むんだから。

 だから、動けている間は平気」

「ダメです。今すぐ寝てください!」

「だから、大丈夫だって」

「どうしてそんなに頑張るんですか?」


 どうして?

 確かに。

 どうしてこんなにやってるんだろう。

 そう考えて、そして直ぐに答えが出る。


「楽しいから」

「楽し、い?」

「ああ、最高に楽しい。

 寝るよりも、食べるよりも。

 人生で今が一番、楽しい」


 その言葉を聞いて、キセは言葉を飲んだ。

 それから。


「どうやったら、休んでくれますか?」


 その声は、湿っていた。

 キセの顔を見る。

 床を見るように、俯いていた。

 滴が一粒落ちる。

 すごい罪悪感だ。

 本当はずっと続けていたいけど、そうも言ってられない気がする。


「分かった。休むよ。ただ、ひとつだけ頼まれてくれ」

「……なんですか?」

「折り紙の本を、探してきてくれ」


 キセが、涙を浮かべた目で、こちらに鋭い視線を投げてきた。

 その表情は「バカ!」と書いてある。

 これは、怒られる。

 そう思ったが、キセは怒らなかった。代わりに。


「見つけてきたら、絶対寝てくれますね」


 そう、きつい口調で言った。


「寝る。約束する」

「絶対ですよ!」

「……絶対、寝ます」


 それを聞くなり、キセは立ち上がって。


「行ってきます!」


 出ていってしまった。

 なんか、申し訳ない気持ちになった。

 と同時に、キセが手伝ってくれているのだ。

 私も、もっと頑張らなくてはダメだ。

 そう強く思った。

  360 / 7°の作成方法。

 そのことに頭を使いながら、条件反射で折り紙を折り続けた。

 キセは、最高の仕事をしてくれた。

 それは同時に、私をさらに苦しめることになってしまった。

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