第26話

「やほー」


 アルの軽い挨拶に、どうかしたら良いか考えて、結局そのまま返した。


「やほー」

「相手の挨拶をそのまま返す人は、イイ人なんだよ」


 なんだよそれ。絶対に適当なことをいってるな。


「どうしたんだよ?」

「前にジオから聞いていたヤツが」


 ああ、あの角度を高さに変換したヤツのことだろう。


「あれがどうした?」

「調べてたら面白い性質を見つけてさ。それを教えに来たの」

「わざわざ?」


 アルはいつものように飄々としてうなずいた。


「スッゴい性質なんだよ。見つけたときには思わず声が出ちゃったくらい」

「あ、そうか。知ってると思うが、今正七角形のことで忙しくて」

「その、手助けになる。って言ったら聞く?」

「聞くに決まってんだろ。早くそれを言え!」

「そうそう。その反応が見たかったの」


 なるほど。

 要は、私をおもちゃにしたかった、と。

 なんでも良い。求めていることを教えてくれるなら。

 できることなら、なんでもやる。


「で、どんなことだ?」

「ジオは高さに注目したよね。

 つまりは縦について注目したわけなんだけど。

 それをヒントに、横にも注目してみたんだ。

 そうするとね、数字の面白い関係性が出てきてさ。

 だからみやすいように記号を作ったんだ。

 縦をsinusからとってsin。

 横はcosineからcosと書くことにした。

 そうするとね中心角をθとすると縦がsinθ、横がcosθって表せて」

「ちょっと待て。なにをいっているか分からん。丁寧に説明してくれ」

「これ以上は説明できないよ。大丈夫。ジオなら、その内わかるから」


 思い出した。アルは天才だった。

 天才は凡人のことなんてわからない。

 諦めよう。

 適当に聞き流して結論だけ聞こう。

 その後のアルの話を、目を線にして無の境地で聞き流した。


「――そうすると中心角360/7°の横は・・・・・・。――これをまとめるとcos360/7°でまとめることができて・・・・・・。――ここで、前に言った方程式が登場するんだ! なんか面白いことができると思っていたんだけど・・・・・・」


 楽しそうに喋りつづけるアルを見ながら、一通り終わったような感じのところで聞いた。


「で、結局どういうことなんだ?」

「ようは x  3x  2 - 2x - 1 = 0 となるような数字xを発見できれば、それをもとに正七角形の中心角が作れるんだ」

「どうやって見つけるんだよ」

「それは」アルは良い笑顔で言った。

「ジオが頑張るんだよ」

「――そうだよな」。うん。分かってた。

「話はそれで終わりか?」

「うん。すごいでしょ」

「ああ」凄すぎて結論しか分からなかった。

 後半は、なんとか飲み込んだ。

「じゃあ、次は私からだ」


 私はアルに折り紙の7種類の折り方について、特に6番目について話をした。

 その話に、アルは目を丸くした。


「やっぱりジオは、天才だね」

「なにを言ってるんだ?」

「その問題の捉え方、言い換えれば視点のことだよ」

「何を言ってるかわからないけど、とりあえずありがと」

「角度を高さでとらえ直す発想だったり。今回の折り紙のことだったり。明らかに視点が異質だ。天才だよ」

「お前、本当に何を言っているんだ?」

「称賛してるんだよ」


 はぁ。天才の考えは本当に訳が分からん。


「で、どうなんだ。例のxが見つかるような手段はあるか?」

「――ある」

「本当か?」

「さっきの話の6番目の方法を使えば、理論上、さっきの式が成り立つようなxを見つけられる」

「本当か。じゃあ、あとはどうすれば良い?」


 そこでアルは「ただ」心配そうな声で言った。


「今のままじゃ宝探しだ」


 宝探しって、どういうことだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る