第23話

「新たな価値を、作り出すためです。今回の東国への進出は大きな一手です。それは、我々、商会ヘルメスにとってもそうですし、東国にとってもです。

 こちらは銀を。

 東国は武器を。

 お互いに足りないものを補える。

 ですがそれだけで、両者が手を取り合えるほど簡単ではないのが現実です。

 お互いの友好を強く結ぶためには、私は2つのことが必要だと考えています。

 1つは互いを認めあっていること。そしてもう1つは、お互いがお互いにとって、有用であることです。私たちは東国の方々に、私たちがすべての面で、飛び抜けて優秀であることを示さなければなりません。

 そのためにいくつかの仕掛けを用意しています。

 多くは商会ヘルメスでなんとかできますが、唯一我々が専門としていないものがあります。数学です。その数学の力を示すための正七角形の硬貨の作成を考えていました。

 ですがそれはすでに叶った。

 であれば、もう一つ上のものを提供したい。それが、折り紙です。

 記念硬貨と同時にその折り紙も添えられる。

 この宣伝効果は測り知れません。

 このお願いできる人は、アリスさんだけだと思っていました。ですが、その認識は間違いでした。

 貴女になら。

 ジオさんになら任せられます。

 この依頼、受けていただけないでしょうか」


 失敗した。

 時間稼ぎのためにとっさに理由を聞いてしまったが、それが完全に裏目に出た。

 ここで、無理だと言っても食い下がるだろう。

 現にもう、近しいものでも構わない、とまでいっている。

 トリルさんは、私に可能性を見いだした。

 そして、可能性の糸を、商人は決して離さない。

 選択肢が狭まった。


 ――はい。

   か

 ――喜んで。


 もう退路はない。

 内心で奥歯を噛み。

 外面では満面の笑顔で答えた。


「期間は?」

「1ヶ月と3日」


 短いな。

 でも。

 やる価値はある。

 そう感じる。

 それに。

 折り紙だ。

 少しは心得がある。


「なにぶん、勝手が分からないものなのでお約束はできません。ですが、相応のものが作れるよう、微力を尽くします」

「そういって頂けて光栄です。こちらでできることは何でも致します。よろしくお願いします」


 そういって、トリルさんは手を差し出してきた。

 できるかどうかは、分からなかった。

 でも、大切なことは、できるかどうかじゃない。

 どうしたいか。

 それだけだった。

 小さく笑った。

 それから。

 その手を、強く握り返した。


 ――交渉成立。

 あとはもう、やるしかない。


「早速ですが、一つお願いがあります」

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