異世界勇者と幼稚な神

神谷モロ

異世界勇者と幼稚な神

~プロローグ~




 宇宙には神なんて腐るほどいる。


 それこそ有象無象な神々がそれぞれの世界を作って楽しんでいる。


 その中でも僕の評価は下の下だ。能力が劣るのか? いや、そうではない、これでも世界創造の権能をもっているくらいには力がある。


 では何か、性格の問題らしい。


 彼らは僕には慈悲がないといった。慈悲とはなにか……、そんなのは結局は自己満足でしかないだろう。


 でもそうだな、あえて言えば他の神々に比べて飽きっぽいところは認めるよ。




 僕の作った世界なんて【神々の共有ライブラリ】から選び出して適当に配置しただけだ。


 人間やエルフ、それにゴブリンや魔物、その他の適当な生き物を作り、それらの動向を見ているだけだった。




 【神々の共有ライブラリ】は確かに便利だった。すでに完成形の生物がそこにあるから特に手を加える必要がない。




 時間が経過するにつれて人類が優勢になった。彼らは集団で暮らし、やがて優秀な王が出現し巨大な王国が生まれたのだ。


 人類と敵対するエルフとゴブリン、その他の魔物は劣勢だった。




 ――そうだな、魔物側にも優秀な魔王が必要だな。


 たまには一からを創造してみるか、この世界で最強な魔王を。




 そうして完成した魔王は人類に攻め込み、壊滅寸前まで追い込んだのだが……。


 


 ――飽きた。当面はやつには、魔王城の建造でもさせてみるか。人類が滅亡してしまうと面倒だ。配下の連中は……、そうだな、魔王に従ったエルフやゴブリン、魔物たちでいいだろう。


 今度は、人類の救済が必要だな。




 そうして、しばらくは人類に食料を授け、復興の手助けをしながら。彼らがまた勢力を盛り返すのを見ていた。


 また、たまに現れる人類の中で傑出した才能を持ったものを選び、勇者としての加護を与えた。


 


 面白いことに、勇者は魔物討伐によって名声を上げたのちは、魔王の討伐へ向かったのだ。




 ――馬鹿な奴らだな、魔王はもう人類の敵にはならないのにな。




 当然、最強の魔王の前に勇者では歯が立たず返り討ちになった。それは繰り返され何度も何度も失敗した。


 


 この世界の人類は弱い、勇者の加護を与えてもそのたびに魔王に挑んでは死んでいくだけだった。


 


 ――これでは面白くないな、しかしこの世界の人類はこれ以上強くはなれないだろう。魂の格が違うらしい、何しろ僕は神としては下の下らしいからな……。


 では、そうだな、偉大な神様の生み出した人類を拝借するとするか、一人くらいなら許されるだろう。みんなやってることだ。 




 こうして、魔王を倒すべき勇者として、一つの魂がこの世界に転生した。




 ~異世界勇者~


 


 俺は田舎育ちの平凡な少年だった。ただ、周りの誰よりも喧嘩が強かった。


 やがて成長すると。周りの推薦もあり王都で冒険者となった。




 冒険者となった俺は、魔物討伐で着実に成果を上げていき、ついに王国最強の冒険者となった。


 ある日、町を散策していると、頭の中に声が響いた。




「強き者よ、そなたに加護を与える。そなたはこれから勇者となって魔王を討伐するのだ」




 そして天から光が降り注ぎ、衆目の中、俺は勇者となった。 


 勇者とは神から加護を与えられた者、その使命は人類の敵である魔王の討伐。


 名誉なことだ、子供のころ憧れて勇者ごっこをしたくらいだ。だが今は違う、すべてを思い出したからだ。


 


 まさか、俺が異世界転生者だったとは……。




「思い出したかい? 僕が君をこの世界に転生させたんだよ。さあ言いたまえ、君の望む力を!」




 ……俺はこの展開を知っている。だから冷静に……最適解を……俺は何を望む。




「…………そうだな、魔法だ! この世界の魔法とは比べ物にならないくらいの、がほしい!」




「何でも? ずいぶん強欲だな、まあそれでいいよ。でもそれは君の知識の範囲内に限定されるよ? 何でもできるって言っても、その何が自分自身で理解してないとそもそも無理だしね」




 そして衆目の中、ど派手に勇者の加護を得た俺は王城へ招かれ、正式に勇者として魔王討伐を命じられた。


 記憶が戻らなければ最高の気分だったんだけどな。いや、今でも嬉しいけど前世の記憶がなんだかなぁといった気分にさせた。




 そうして俺は魔王討伐へと向かった。普通なら仲間を探して勇者パーティーを組むんだけど、この世界では勇者は一人旅をする。


 なぜなら、神の加護をもった勇者は他とは隔絶した力を得るため、仲間になれる人材などいないのが常識だった。




 まあ、好都合だ、せっかくだし俺の使える魔法はどんなもんか実験しつつ旅を進めるか。まずは何でもできる魔法を理解することから始める。




 何度か試したが、神様の言う知識の範囲内、は案外あいまいな理解でもよかった。


 例えば電子レンジの構造は知らないけど、電磁波で水分を振動させて温める、を知っていれば食料を温めることができた。


 ありがたい、道中暖かい物が食べれる。




 次に攻撃魔法に関しても何度か実験をした。この辺の魔物は既存の魔法でも対処できるが魔王は別格に強いらしい。歴代の勇者は魔王に負けたのだ。




 まず、勇者としては雷の魔法だな。俺は空を見上げて雷はどうすれば発生するかをイメージしながら魔法を発動。成功だ、前方の的は黒焦げになった。




 しかし俺は気づいた、魔王は城の中にいるのだ、雷は室内には届かない。




 では次、爆裂系の魔法。俺の知ってる最大の爆発は核爆弾か。


 たしか……核融合によって……、E=mc^2 だっけ。


 学生時代は理科系が好きだった。ただその程度だが……。 




 でも核実験は慎重にだ。俺は道中に何もない荒れ地を見付けた。かつて魔王軍に滅ぼされた土地だ。


 その惨劇はすさまじく、草木も生えない荒野となった場所。




 ここなら平気だろう、ちなみに発動した魔法は自分自身には被害が及ばない。いかに強力な爆裂魔法でもそれでダメージを追うことはないのだ。


 


 そうして実験を始めた。成功だ、ものすごい光を発し、きのこ雲が立ち上がったと同時に爆音が響いた。


 眩しいし、うるさい。僕にはその程度の影響しかなかったが、どうだ、大地には大きなクレーターが出来ているではないか。


 これは、やっちゃいましたか……。




 これは使えない、前世でもそうだった。使ってはいけないのだ。あくまで最後の手段にとっておいた。




 そうして俺は、それよりは弱めの魔法をいくつか考えた。




 火の魔法、より高温にしてプラズマ状態にし相手にぶつける。思ったより強力だった。どの魔物もこれで一掃できた。


 氷の魔法は便利だった。冷たいものが飲める、この世界では縁がなかった。それこそ貴族か上級魔導士の娯楽であった。


 使えそうなのはプラズマか。これで攻撃魔法は問題ないだろう。




 しかし、本当に厄介なのは野宿だ。この世界には生活魔法などの便利なものはない。食料も水も大量に持ち込む必要がある。


 また、寝るときには焚火をしないと危険だし、そもそも枯れ木を調達するだけで時間がとられる。




 荷物は馬車に乗せるとして、いや待て、俺は馬の世話をしたことがない。……さて、どうしたものか。


 俺はいったん町に戻り、これからの長旅の準備を始めることにした。




 まず移動手段だ、馬車がだめなら自動車だ。しかし俺は自動車とは何か理解してない、エンジンの基本は知ってるがその他は全く知らない。




 ――ぐぬぬ、何でもできる魔法とは……。俺はてっきり未来の世界の猫型ロボットのように、何でもありな道具を作り出せると思ってたのに……。


 しかし、だからといって途中まで誰かに同行してもらうのは、俺の魔法に巻き込まれる可能性があるので却下だ。守れなかったでは済まされない。


 ……やるしかないか。完璧な自動車は無理でも、馬車の荷台を引っ張る動力をなんとか再現できればいいのだ。




 そうと決まれば、まずは電動工具が必要だ。前世でDIYに憧れていたのである程度の知識はあった。


 もちろんこの世界にはそんなものはない。全て自作だ、しかし俺の何でもできる魔法はここから真価を発揮した。




 この世界には魔石と呼ばれる道具がある。これは魔術師が事前に任意の魔法を掛けておくことで、誰でも発動できる便利なものであった。


 俺はこれを改良して、モーターのような部品を作ることに成功した。




 そこからは速かった。ドリルにドライバー、チェーンソー等の、ホームセンターにあるような工具を作ることに成功した。






 ――数か月がたち、ついに俺は機械で動く馬車を完成させた。馬がいないのに馬車というのはおかしいが、見た目が馬車っぽいからいいのだ。




 そもそも俺の知ってる自動車はこんな物ではない。前世の記憶では俺の故郷は自動車の国と呼ばれていたほどだ。それに比べて俺が作ったのは……。まあ、ほとんど木材でできているしな……。




 魔王討伐を命じられて一年くらいは経っただろうか、俺はすっかり、ものづくりの虜になっていた。この戦いが終わったら、魔法道具屋に俺はなる!。




 ――おっと、そろそろ魔王討伐を再開しないとな。しかし、人類史において最初の襲撃以来、一度も人間の領土に攻めてきたことがない魔王を倒す必要があるのかね。


 まあ、その攻撃で人類は絶滅しかけたそうだから気持ちはわかる。俺も前世の記憶を取り戻す前はそう思ってたし。




 そうして俺は準備万端で魔王討伐へ旅立ったのだった。






 ~魔王戦~




 旅は順調に進んだ。何より楽しい。キャンピングカー仕様の馬車は完璧だった。ちなみに前世の俺はこういうキャンピングカーに憧れていた。


 もちろん憧れだ。何しろ俺は引きこもりだったからだ。アウトドアの動画を見ながら、いいなぁーと羨ましく思っていたものだ。




 そうして、楽しいキャンプ生活もそろそろ飽きたなと思い始めたころ。ついに魔王城に到着した。




 城外にはいくつかの砦があり、そこには大量のゴブリンやら魔物がわんさかいた。




 ――さてと。まずはこいつらの掃除からはじめるか。




 こいつらには雷の魔法をお見舞いした。上空に大量の雨雲を作り、あとは自動的に雷が敵を葬っていった。


 さすがは勇者といえば雷というだけはあるな。城に入ったら使えないので、活躍の場があってよかった。




 魔王城の中に入ると、そこにはなかなかの強敵が現れた。エルフの魔導士に蜘蛛の魔物、外にいたゴブリンよりも一回り大きな個体、ゴブリンの王だろうか。




 だが、いずれも俺の敵ではなかった。プラズマの魔法で全て消し飛んだ。うわぁ……、またなんかやっちゃったんだろうな。


 中ボスクラスの敵を瞬殺とは。やはり俺は異世界勇者なんだなぁ。






 しかし、魔王だけは別格だった。何しろ俺が用意した魔法はほとんど奴の前では効果がなかった。




「……勇者よ、貴様は歴代の勇者の中でも別格に強いな。我に傷を与えたのはお前が初めてだ。誇ってよいぞ」




 魔王、全身を黒い鎧でまとった姿、兜の隙間からは顔は見えず、もやのように揺らめく黒い闇だけがそこにあった。




「そうかい? それは光栄だ。だがまだ負けたわけじゃないさ」




 たしかに、歴代勇者が勝てなかったわけだ。プラズマで奴の体を貫通させても、すぐに元通りに再生してしまう。これでは倒しようがない。




 まずいな、思ったより魔王強すぎだ。さいわいにも魔王の攻撃手段は手に持った大剣のみで、魔法などは一切使わなかったのでなんとかなっているが。




 もちろんこの大剣はヤバい、斬った場所が空間ごと消失しているようで、おそらくは防御は意味がないだろう。もし俺が剣士で奴と斬り合ってたらその時点で負け確定だった。




「いいな、その剣、いったいどういう理屈でできてるんだ? せめて死ぬ前に教えてくれないか? こう見えて俺は魔道具には興味があってね」




 しょうがない、時間稼ぎをしつつ解決策を考えるか、場合によっては逃げることも考えないとな。




「……なんだ? 万策尽きて時間稼ぎか? ……だが、いいだろう。ここまで戦えた者は初めてだしな、すぐに殺してしまうのは少し残念でもある」




 そうして奴は俺の作戦と知りつつも、話に乗った。




「そうだな、まずこれは剣ではない。神から授かった道具の一つだ。地形を思いのままに作り替える。まさに神の権能を具現化した物といえる……」




 それから魔王の一人語りが始まった。


 


 いわく、自分は神に創られた存在であること。神は自分に人類を滅ぼすように命令されたこと。


 そして望み道理に人類を滅ぼしかけたころ、神は突然、人類への攻撃はやめだと命じた。




 その後は、神に命じられるまま与えられた配下と共にこの魔王城を建設し、そこから一度も外へは出られなくなったそうだ。




 気の毒な奴だと思った。やつの境遇は同情に値する。前世の記憶を持つ俺からすると、魔王が人類にしたことに対しては他人事というか、やや冷めた目で見ることが出来たからだ。




「…………なあ、この魔王城が無くなればお前は解放されるのか?」




「わからぬ、少なくとも、そんなことをできる人間はいない。なぜなら私によって滅ぼされるからだ。


 ……さて、貴様との会話もそろそろ終わりにしようか。冥途の土産になにか言っておきたいことはあるか?」




「そうだな、なら言っておく……。ここから解放されたら何がしたいか考えとけよ?」




 ――その瞬間、魔王城は俺の放った核爆発の魔法によって吹き飛んだ。 




 


 ~幼稚な神~




 瓦礫となった城跡には、黒い球体――おそらくは魔王の核だろうか、それと大剣が残されていた。




 そうか、魔王城が無くなれば奴も死ぬのか。少し残念だったが、せめてこれは外の世界に持ち帰ろうと思った。


 俺はこの球体と剣を拾うと馬車まで戻った。これからどうしようか考えないとな。




 その時、突然、神が目の前に現れた。




「やったね! ついに魔王を倒した。人類史上初めての快挙だよ」




「…………魔王って、この玉のことか?」




 俺の持っている黒い球体を見ながら神は言った。




「ああ、そう、それね、驚いたでしょ? それはね、ダンジョンコアといって、いろんなダンジョンを創造するための道具なんだよ」




 神は次々と得意げに語った。正直、不快だった。




 いわく、最初に魔王を作ったけど強すぎたから飽きたのだと。ついでに人類が滅亡しそうだったので行動を制限させる為にダンジョンコアと同化させ、魔王城というダンジョンの防衛システムとして作り直したのだそうだ。


 


 だから、そのダンジョンが破壊されれば魔王は死ぬ、魔王とは魔王城そのものだったのだ。




 神の話を聞いて俺は思った。こいつはガキだ。俺もガキのころはいろんなおもちゃをもらっては一通り遊んで飽きた、たまに壊したりして遊んでたっけ。




 奴はこの世界をおもちゃとしてしか思っていない。


 だからか、この世界の幼稚さはこいつのせいだったのか。




「……この世界はあれか? お前が作ったゲームだと?」




 無意識にゲームと言った。たしか前世の俺はゲームを作ったことがあった。最初はキャラ設定とか頑張ったが、途中で飽きて未完結で終わったことがあった。


 親近感はある、でもこいつは神だ。現実の世界でやってはいけないことをこいつはやった。




 これがゲームの世界だったら笑えるだけなんだが……。ゲームの世界…………まさかな。




「ゲーム? ああ、君のいた世界の娯楽だね。……そうだね、その通りだ。ここはまさに神である僕が作ったゲームだよ。


 だから、まだまだ次のネタを探さないといけないんだ。なにか良い案でもあるかい? 君は異世界の知識が豊富だしもっと面白い世界にできると思うんだ。


 それに君はもはや神に等しい存在だと思うし、なんなら神になれるように推薦するよ。だから一緒に僕と楽しもうよ。そう、僕たちはゲームの神様だ――」






 ……俺はチェーンソーで奴を真っ二つにした。




 馬鹿なやつだ、自らをゲームの神様と宣言し、俺のの範疇に入ってしまった。


 俺は知ってる、チェーンソーで殺せるゲームの神様を。まさに奴みたいな胸糞悪い神様だったな。






 ~エピローグ~




 俺は王国へ戻り魔王討伐成功の報告をした。王都はお祭り騒ぎだった。




 でも、俺はすぐにその場を去った。俺ももはや神みたいなものだし。


 神を殺したことはもちろん秘密だ、でもあんな神がいなくても彼らは自立して生きていけるだろう。むしろいない方がいいくらいだ。




 ……そうだなこれからは一人で暮らそう。どこか辺境の地で、それこそダンジョンでも作ってそこの主になるもの悪くないか。




 魔法道具屋を作るのはあきらめたけど。ものづくりは楽しい。一人でもきっと生きていける! それでもさみしくなったら……。




 友達ロボットでも作ろうか。引きこもりの夢だ。未来の世界の猫型ロボットとかできたら楽しいだろうな。




 そうして、伝説の勇者は旅立ったのだった。

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