【1話完結】Memorial

皐月メイ

ほうき星

僕は息が詰まりそうな思いをしながら生きてきた。

何せ勉強もスポーツも友人関係も全てが中途半端。

きっと僕は不器用なんだろう。

なにかに憧れてみる。挑戦をする。失敗する。

この繰り返し。

いつの間にか興味の感情が薄れていき、立派な人を見ても何も思わなくなってしまった。

なにもかも中途半端な僕には友達もできず、そして唯一彼を心配してくれる母親にはそれを伝えられずにいる、典型的な孤独人間だ。


そして高校1年生の夏休み、僕は遊ぶ友達もいなければ部活にも入らず、ただただエアコンの効いた部屋でだらけていた。部活をしていないからといって勉強をする訳でもない。

きっと僕にはやったって無駄なんだから。

そうして虚無の時間を日暮れまで過ごし、

ちょっぴり自分が惨めに見えてくる。

だが、日が暮れると僕は少し無気力じゃなくなる。

僕は天体観測が趣味なのだ。

僕に孤独ということを忘れさせてくれる、そんな

星を見る時間が僕は好きでたまらない。

夢中になって天体望遠鏡を夜空にむけ、星々を眺めてはうっとりと見惚れ、夜の世界に浸っていく。

だが、今日は少し違っていた。

やけに眩しい流れ星が果てなく広がる夜空を横切り

そして堕ちた。

僕はしばらく呆気に取られ、ただただ堕ちた星の

行く末を呆然と眺めていた。

衝撃で止まっていた僕の思考は活動を再開し、

さっきの流れ星に違和感を感じていた。

あれは夜空を泳ぐ流れ星なんかじゃない。

きっと何か別のものだ。

第六感とでもいうのだろう。理論じゃ説明できないような好奇心は僕の何かに火をつけた。

深夜12時に家を出て、通学用の自転車を漕ぐ。

星が堕ちたところへ。ただただ見てるだけだった物に手が届きそうという好奇心がひたすら僕を奮い立たせる。そして、僕は堕ちた星の正体を見つけた。

倒れた1人の少女だった。年は高校生くらい。

身長は高くなく、そして手には箒を握っている。

なぜ女の子が星空を飛んでいたのか、

なぜ箒で空を飛べるのか、何も理解できない。

その場で戸惑っていると少女は目を覚ました。

「あなたは…?」二重で宝石のような綺麗な目を開け、少女は問うた。

「僕は、僕は…」どもりながら必死に脳を回す。

「僕は白石」最低限の答えしかできなかった。

「そう、白石ね。白石、ちょっと来なさい。」

普通に考えて怪しすぎる。しかし、僕の足は止まらない。好奇心に抗えない。少女の元は足を運ぶ。

「あなたは星のことが好き?」突拍子もない質問を

された僕は、即答する。「もちろん」

すると少女は面食らったような顔でまた問う。

「東に浮かぶあの星は?」「アルタイル」僕は

星の知識に関しては誰にも負けない。

すると少女は

「あなたのような人を探していたの!!」と

興奮したような口調でまくしたて、

星について語り出した。ライトが普及するあまり星が見えないこと、好きな星、地球人の星離れ、宇宙の神秘、星座と神話について。こんなにも星を理解している人がいるなんて。僕は星について少女と語った。彼女は瞳を輝かせて僕と話していた。そして少女からなぜ墜ちたのかを教えてもらった。

「私、見習いの魔女なの」そう短く告げられた彼女の目は、どこか曇っている。魔女なんておとぎ話の

中でも話だと思っていた。しかし、その魔女と今こうやって星について語れている。

共通の趣味を持つ、友人として。

「魔女だろうがなんだろうが僕は変わらないよ。

たった今できた、たった1人の友達だよ」

彼女は不安げな顔で、言った。

「魔女は怖くないの?」

「人間の方が怖い」

「なにそれ」

彼女はぷっと吹き出し、顔をくしゃくしゃにした。

「ねぇ、シライシ。魔女の力って知ってる?」

「なんだそれ。」

「特別に見せてあげるね!」

そうすると彼女が握っていた箒が動き出し、

次の瞬間、僕は空にいた。

「誰にも邪魔されない、特等席で星を見よう!」

そう言うと彼女は高度を上げてゆく。

箒にまたがりながら見る星は、家で見るより

ずっと美しく、そして近かった。

おそらく同じことを思っているだろう。

彼女と僕は目を合わせ、笑い合った。

2人で見る星は独りで見るよりずっと美しい。

僕は夜空に浮かびながら、彼女と夜が明けるまで

星を眺め、そして語り尽くした。


箒にのった僕と彼女は、何年経とうとも

一緒に星空を眺めていた。

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