第14話

「だ、誰?」

「知らぬ」


 いきなり名前を呼ばれ驚く俺ら。


 金髪のイケオジは表情を変えず、ニコニコとこちらを見ている。


 どこかで見たことあるような顔だが、俺の脳内フィルムを何度検索してもこんな人物は見たことがない。


 つまり知らない人ということで話を進めることにする。


「座ってくれて構わないよ?」

「ああ、ども」

「し、失礼します」


 羽毛のように柔らかなソファーに座る。


 金オジキが一体どんなモンスターを出すのかと警戒するが、最初の言葉は意外にも


「学園は楽しいかい?」

「「え?」」


 俺とハルトの声が重なる。


 何故俺たちの名前を知ってるかもだが、学生であることも知られていた。


 普通なら怪しさMAXなのだが、何故だかこの人に警戒心が持てない。


 純粋な善意というか、逃げられない圧力というか、表現し難い何かがそこにあった。


「まぁ……楽しいっちゃ楽しいです」

「そうですね。毎日が楽しいと思えるようになったのは学園に来たお陰ですね」

「そうかそうか」


 オジキはニッコリと笑う。


「いや急にすまない。私は学園の関係者でね。学生の生の声が聞けると少しばかり嬉しく思うのさ」

「なるほど」

「納得です」


 これで俺たちを知っていた謎が解かれた。


 いや、Cクラスの俺らを知っている時点で怪しさで言うならまだその限りではない。


 少なくとも俺を知っているというのは、あの三人から繋がったと考える方が妥当だ。


 俺は念の為、預言書に目を通す。


『黄金を生みし者に騙されるだろう』


 やっぱり。


 多分ここでの黄金を生みし者、間違いなく目の前の男だ。


 騙すというのが何か分からないが、十中八九悪いことだろう。


 クックック、確かに俺は平凡なガキだが、預言書さえ有れば話は別。


 悪いがここはチートを使わせてもらうぜ。


「行くぞ預言書」

『アイアイサ!!』


 そう、ポンコツ(左ページ)は少し先の未来しか見えない。


 だが逆に言えば、雨や雷、アリスが来たことなどは預言書らしく確率は100%。


 ならば話術といった戦闘面以外であれば、ポンコツはその力を遺憾なく発揮できるというわけだ。


『そうだ』

「そうだ」

『ついつい私用で話してしまったが、先に仕事の話をしようか』

「ついつい私用で話してしまったが、先に仕事の話をしようか」

『オーダーメイドでよかったかな?』

「オーダーメイドでよかったかな?」

「あ、はい」


 うん、なるほど。


「やっぱお前使えねーわ」

『そんな!!』


 よく考えれば、未来読んだところで同じ会話をリピートするだけじゃねーか。


 むしろ何で俺は同じ話を聞かされてるんだろうって逆に困惑したわ。


 その点右はいいよな、未来の結果だけ教えてくれるから簡潔で分かりやすいったらありゃしない。


『ムッキー!!黙示録ばっかり贔屓して!!』


 なんか預言書にポカポカと殴られてる気がするが、俺はイケオジへと顔を向け直す。


「どういったものをご希望で?」


 まるで試されているかのような物言い。


 やっぱりこのオジ、どこか異質だ。


 だが怯まない。 


 俺の辞書は前進する以外の言葉が載っていない欠陥品だからである。


 さて、では答えてやろうではないか。


 俺が欲しい物はそう


「ミスリルの短剣が欲しい」

「ミス!!」

「ほう」


 ハルトは分かりやすく驚き、オジハンはどこか嬉しそうな反応を見せる。


「ミスリルは希少な金属だ。学生の、しかも地方から来た君が、果たして払える額はあるのかな?」

「ない」

「ないのか……」


 そう、ないのだ。


 おいおいリンさんや、頭沸いてんのかい?


 そう言われても仕方ないと思う。


 だからここから始まるのは世紀の値切り合戦。


 俺という存在をどれだけ売り出せるかが肝となる。


「学園には様々な生徒がいる。俺のような貧乏人から、平然とミスリルを持ち歩く生徒まで様々だ」

「その通りだね。私の娘も学園にいるから色々と話は聞いてるよ」

「そして学園の目的は強さを追い求めること。その点で武器は重要な一面を持ち合わせている」

「うんうん、私としてもそう褒められると嬉しくなるものだ」


 まるで雲を掴んでいるかのような錯覚を覚える。


 このまま遠回しに言い続けても話は平行線だ。


 一気にケリをつけようか。


「だからこそ、ハッキリ言おう。ミスリルは学生の間で不人気であると」

「ハッキリ言うな〜」

「確かに魔力伝導率の高さで有名なミスリルだが、逆に言えばそれしかない。打ち合うなら普通の剣で十分だし、魔力を通すくらいなら魔法を撃った方が攻撃の幅が多い」

「そうだね。私も似たような考えだ」


 そう、ここまでは最早一般常識だ。


 怒られるかもとヒヤヒヤしたが


『大丈夫、特に変化はないよ』


 意外と予言書は役に立つらしい。


 そして俺は最後の言葉を伝える。


『うん、いけるよ』


「そんなミスリルを、俺が売り出してやる」

「売り出す?君が?」

「ああ。Cクラスだった男がミスリルの武器を持ちAクラスへと駆け上がる。売り文句としては最高じゃないか?」


 俺自身が広告塔となる。


 ミスリルに付加価値をつける役目を俺が担当するのだ。


 だが勿論


「うーん、面白い話ではあるけど」

「俺にそんなことが可能なのか……そう言いたいんだろ?」

「まぁ……そうだね」

「ならば証明してやる」


 俺は持ち合わせの金を全て出す。


 これで今日から俺のもやし生活がスタートを切った。


「一週間後、この平凡な剣で岩を叩き切ってみせる」

「岩を……切る?魔法で壊すのではなく?」

「ああ」

「それは……面白い」


 ニヤリと歪んだ表情を浮かべる。


「いいよ、もし本当に出来たのなら、このお金でミスリルを譲渡しよう」

「いいんだな?」

「契約書も書くよ。ただし、もし無理だった場合は無償でこのお金を貰うけど大丈夫かな?」

「元々そのつもりだ」


 俺とイケオジは顔を見合わせ、握手を交わす。


 交渉というよりもゲームのような展開だが、そちらの方が分かりやすくて面白い。


「期待して待ってろ」

「もちろん」


 こうして、俺のミスリルゲット大作戦が幕を開けたのだった。


 ◇◆◇◆


「ただいま帰りました」

「ん?おお、アリスお帰り」

「あ、お父様。今日はお休みですか?」

「今日は早くに終わったんだ。それにアリスと色々とお喋りしたくてね。特に、彼についてね」


 アリスは花開いたよう笑い、イソイソと荷物を部屋に置き戻ってくる。


 相変わらずだなとイケオジことアーノルドは笑う。


「実は今日、私のお店に彼が来てね」

「え!!本当ですか!!どおりで姿が見えなかったんですね」

「最初驚いたよ。アリスのブラックカードを出した相手って言うもんだから、てっきりアリスが何かに巻き込まれたのかとヒヤヒヤしたよ」

「心配し過ぎですよお父様。私には頼りになるお友達がいますから」

「それもそうだね」


 二人は暫く話をした後、話は例の岩を切るという件へと移る。


「剣で岩を切るなんて物理的に不可能だよね?」

「シエルちゃんは出来ますよ?この前ピクニックに行った時、椅子が無いからと岩を切って椅子を用意してくれました」

「彼女は例外中の例外だよ。普通の人間には不可能さ」


 そこでアーノルドの頭には古くからの友人である彼女の存在が頭を過ぎる。


 苛烈な中身に反し、冷たさを感じさせる青い髪が特徴の女性。


 最近は学校の経営に留まらず、何やら教員もしているそうで忙しいという話を小耳に挟んだ。


 だが、彼女が目的もなく無駄なことはしないと知っているアーノルドにとって、何かが起きる前触れだということはなんとなく掴んでいた。


 そしてその正体に隠された存在はやはり


「岩を切る……やっぱりあの時の必殺技をもう一度?ムムム、これは明日レイちゃんとシエルちゃんに要相談ですね」


 目の前にいる可愛らしい超常の存在であるのだろう。


 その力は、一個人が所有するにはあまりにも規格外。


 そんな存在が同時に三人現れ、たった一人の少年の周りに集まる異常。


 近い未来、きっと世界は大きく変わる。


 その時に世界の命運を握るのは果たして誰なのか。


 アーノルドは何の才能も、力もない一人の少年が頭をよぎった。


「頑張ってくれよ、リン君」


 アーノルドは何かを願うように、アリスの頭をソッと撫でた。

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予言書が言うには、幼馴染達が将来世界を滅ぼすらしい @NEET0Tk

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