第8話「彼女作り、成……失敗!」

 3、3、3、4、4。


 最も高い得点は『スリー』の9点。


 このターンは勝ちだが、合計得点が圧倒的に不足している。

 次、ヨットを出さねば負け確定だ。

 ちくしょう!せっかく理姫りひめが頑張っても、肝心の俺がこのザマでは……




「おい!起きろ!バカ!」


 狗郎いぬろうの必死の叫びに、俺はハッと我に返る。

 見ると、狗郎いぬろうのパートナーはいまだに失神していた。


「このままじゃ、5分経っちまう!クソ!クソ!」




 そうか。

 今のうちにペナルティを選べば、時間切れでこっちの勝ちだ。

 まさか、狗郎いぬろうのパートナーに対するさっきの理姫りひめの言動は、これを見越して?




「誰か!コイツの代わりに俺のパートナーをやれ!」


 狗郎いぬろうが、今度は周囲に向かって叫んだ。


「誰か!早くしろ!」




 パートナーの交代?

 そんなの、ルールには……


 いや、待て。


 その声を聞き、狗郎いぬろうに近づく者が一人いる。




「私が、やりましょうか?」

 その人物は狗郎いぬろうに声を掛けた。


「よし!頼む!」

 狗郎いぬろうは声の方に背を向けたまま、ほっとした顔で俺と理姫りひめを見る。

 そして、「お前らも、いいよな?」と言った。




「ああ、いいぜ」

 俺は、二つ返事で了承した。




 なぜなら……




「降参します」




 交代したパートナーは、すぐに降参を宣言した。




「……は?」


 狗郎いぬろうは、鬼の形相でパートナーを睨む。




 そのパートナーは、音無おとなし冷奈れいなだった。




「声で気づかなかったんですね。ご愁傷様です」







 こうして狗郎いぬろうは俺の奴隷となり、冷奈れいなは解放された。

 厳密には、冷奈れいな狗郎いぬろうのパートナーとして負けたので俺の奴隷になるが、もちろん俺は、彼女を奴隷として扱うつもりは無い。




「私が、先にアレルギーのことを言えば良かったんです。でも、人と話すのが苦手で、言い出せなくて……ごめんなさい」


 冷奈れいなは、泣きそうな顔で謝る。


「いや……俺が悪いんだよ。音無おとなしさんのこと、ちゃんと知ろうとしなかったから」


「優しいんですね……ありがとうございます」


 冷奈れいなは、今までの冷たい雰囲気からは想像つかない、優しい笑顔を見せた。


「あなたは、私の恩人です。何かお礼を……」

「いや、お礼だなんて、そんな……」




 おっと、これは、いい流れ。

 人生初デート、いけるか!?




「ちょっとナミキ、私にはお礼無し?」


 理姫りひめは、俺を膨れっ面で睨んでいた。


「い、いや、それはこれから……」

「私とその銀髪の子、どっちが大事なの!?」




 冷奈れいな理姫りひめで、俺を取り合うパターンか?困っちまうなあ!




「え……えっと……」


「あ、私はいいですよ、先にお二人で……」

 そう言うと、冷奈れいなはそそくさと立ち去ってしまった。


「何よ、煮え切らない男ね。やっぱ嫌いだわ」

 そう言うと、理姫りひめもどこかへ行ってしまった。




 え?引くの早くない?




常南津とこなつさん、ナイスファイトでした」

 一人残された俺へ近寄り、審判シンパンダは言う。


「あなたの強者へ挑むタフネスと、パートナーへの優しさには見所があります」


「はあ……」

 褒められているらしいが、それより冷奈れいな理姫りひめが気になる。




「しかし本当の強者の力は、鎌瀬川かませがわさんの比ではない。自在に好きな出目を出せる者、相手の思考を読みゲームを支配する者など……想像を絶する強さです」


 いや、そんな化け物にどうやって勝つの?


「しかし、あなたなら彼らに立ち向かえるかもしれません」




「ナミキ」


 いつの間にか理姫りひめが戻ってきて、俺の耳元でささやいた。


「また私をパートナーにしなさいよ。私とペアを組む根性のある人なんて、ナミキしかいないんだからね」


 そう言う声は、なんだか少し恥ずかしげだ。







 夢見た高校生活とは、全然違うが。




 悲願を達成する日……俺に彼女ができる日は、ひょっとしたら近いのかもしれない。

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爆烈ヨット戦記TOKONATSU~奴隷を作れるゲームで、俺は彼女を作ってやる~ ぎざくら @saigonoteki

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