第7話「リベンジ、失敗!?」

 『防火扉を縦にへし折る』。

 ルールブックを読んだ時、ペナルティ一覧の最後に載っていたから、嫌でも目に入った。

 防火扉は、分厚い鉄製だ。重機でも使わない限り、どうにもならない。

 つまり、5分以内にペナルティの実行は不可能。

 実質、1ターンで21点以上差を付けられたら敗北確定なのだ。




「あーっはっは!何?高岡たかおか理姫りひめ、奴隷確定じゃない!」


 狗郎いぬろうの隣に座る女子が、甲高い笑い声を上げた。

 狗郎いぬろうのパートナーだ。1回目の対戦時とは違う女子で、メイク濃いめなギャル。


「うち、何もしてないんだけど!?やば!」







「ごめん、高岡たかおかさ……」


 俺が声を掛けようとした時、理姫りひめは既に席を立ち、化学室を出て行こうとしていた。


高岡たかおかさん!?」


「何してるの?防火扉は階段の近くでしょ?行くわよ」




 そう言うと、理姫りひめは出て行ってしまった。




「ぷっ……ははは!」


 狗郎いぬろうは、大笑いしながら席を立った。


「みんな!急いで見に行くぞ!高岡たかおか理姫りひめが、びくともしない防火扉の前で泣き崩れる姿!」


 狗郎いぬろうはそう言うと、化学室を駆け足で出て行く。




「きっと、お嬢様だから知らないんだろうな。防火扉が鉄製だって」


 ギャラリーの1人が、そう話しながら化学室を出て行く。




 違う。

 

 理姫りひめはきっと、そんな馬鹿じゃない。


 けど、防火扉をへし折る?どうやって?




 俺が階段の傍の防火扉へ着くと、多くのギャラリーに囲まれた理姫りひめの姿があった。




「遅いわよ、ナミキ。始めるわよ!」




 理姫りひめは、俺の姿を見つけて手を振る。


 彼女の目の前には、勝利を阻む壁のように立ち塞がる、分厚い鉄の防火扉があった。




「ぎゃははは!バッカじゃない!?ホントに真っ二つにできると思ってるの!?」

 狗郎いぬろうのパートナーが、腹を抱えて笑いながらののしる。




 そんなあおりを意に介さず、理姫りひめは防火扉を開くと、扉の左右の端を手でつかんだ。




「始まりましたか」


 ギャラリーの外から様子を眺める俺の隣に現れたのは、審判シンパンダだった。


「このペナルティ、彼女なら……」

「彼女なら?」




「楽勝でしょうね」







 メキメキメキッ!!







 凄まじい音がしたと思えば、防火扉が真ん中から真っ二つに折れていた。







「ここだけの話ですが、彼女は世界初……身体の50%を機械で強化した、サイボーグ少女ですから」







 その非現実的な光景に、俺達は口をあんぐり開けて、眺めるしかなかった。







「そういえば、あなた」


 理姫りひめは、最前列で彼女をあおりながら見学していた、狗郎いぬろうのパートナーを指差した。


「随分と、からかってくれたわよね?」


「ひっ」

 狗郎いぬろうのパートナーは、恐怖に身を震わせる。


「私の力、もう一度、披露ひろうしようかしら?」


 理姫りひめは、ドスのきいた低い声で言うと、彼女の肩をつかんだ。


「あ……助けて……」

「あなたの体を使って」


 ミシッ。


 理姫りひめつかんだ手に少し力を入れると、彼女は膝から崩れ落ちた。

 失神したようだ。







 理姫りひめは俺の方を向くと、再び自信満々の笑顔を見せた。


「さ、続きやるわよ」







 隣を見ると、審判シンパンダの姿はもう無かった。







「化学室に戻るのは面倒だから、ここで続きやりましょ」


 俺や狗郎いぬろう理姫りひめのもとへ歩み寄った時、彼女が提案した。


「やるって、ここで?何の道具も無いだろ、ここには」

 狗郎いぬろうが言う。


「心配には及びません」


 声のした方を振り向くと、審判シンパンダとヨット部員が、木の机とサイコロを運んできていた。


「ここで再開しましょう。正々堂々とした勝負を」




 チッ、と狗郎いぬろうは舌打ちをした。




 そうか。


 前回も今回も、狗郎いぬろうが導くままに席についていた。

 だが、あの薄いテーブル。あれは狗郎いぬろうが用意したものだったんだ。

 磁力のある物なら、あの薄い金属のテーブルに貼り付く。

 サイコロを自前の磁石入りの物とすり替えれば、好きな目が出せる。




「クソッ!」


 狗郎いぬろうがサイコロを振った。


 3、3、6、4、2。


 最大でも、得点は6だ。




「さっきの見て、わかったでしょ?」

 理姫りひめが、俺の隣で言う。


「私は何でも壊せるし、胃袋と皮膚を強化してるから、ゴキブリをかじってもムカデとキスしても平気。だから、普通の人なら死んじゃうようなペナルティも、気にせず私にぶつけるつもりで……」




 背中を押す理姫りひめの言葉。

 サイコロを握る俺の手に、力が入る。




「私を殺すつもりで、高い出目のためだけにさいを振りなさい!」




 俺は、力強くサイコロを投げた。



 ここで、起死回生の出目を出す!




 3、3、3、4、4。







 あれー?

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