第93話新王太子(元公爵)side


 愛する夫との子供が誕生したと喜んだ元王妃を国王陛下父上はどんな気持ちで見ていたのだろう。


 元王妃にとってマクシミリアンは最愛の夫との待望の息子。その溺愛ぶりは遠く離れたコードウェル公爵領にも聞こえてきたほどだ。そして、国王陛下父上は自分の子だと思い込んで可愛がる元王妃の姿は実に滑稽に映った事だろう。いずれマクシミリアンが愛する夫の跡を継ぐ。両国の血を受け継いだマクシミリアンの存在は元王妃の心の拠り所でもあっただろう。もっとも、今ではマクシミリアンの存在によって全てを失った。そればかりか、祖国であるチェスター王国が存亡の危機に瀕している。


 第三者から見れば、元王妃のせいでチェスター王国は滅びようとしている。


 国王陛下父上はそれを笑って見ている。


 自分から恋人を永遠に奪った者の末路を嘲笑っている事だろう。


 マクシミリアンの男爵位と領地、一見温情に見えるがそこにも見えない罠が仕掛けられている筈だ。なにしろ、マクシミリアンが治める領地はチェスター王国と隣接している。その上、やせ細った大地を封ぜられたのだ。


 国王陛下父上は意地が悪い。


 あの大地は今頃経済が滅茶苦茶になっている筈だ。

 元より、チェスター王国との貿易で成り立っていた土地だ。住んでいる者の大半がチェスター王国に出稼ぎ労働者といってもいい。だが、今回の事でチェスター王国との関係は見直された。近々、この国も帝国に倣ってチェスター王国と断絶する予定だ。そうなれば冬を越せる領民は格段と減る。領民達は、こうなった原因のマクシミリアンを恨むだろう。チェスター王国の王族もそうだ。国内が危険と考えれば亡命先を探す。隣の大地に親族マクシミリアンが居るとあれば頼ってくる事も考えられる。


 食うに困った民衆や領民からのクーデターが早いか。


 それとも、チェスター王族との繋がりで今度こそ「反逆罪」として処罰されるのが早いか。その場合、チェスター王族諸共死刑になるのは間違いない。


 どちらにせよ、彼らに未来はない。

 

 

 


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