第94話元王妃side


 寒いわ……。


「ここは一体何処かしら?」


 目覚めると辺りが真っ暗闇で何も見えない。おかしいわ……私はさっきまで寝室のベッドで寝ていたはずよ。ここ数年、ベッドから起き上がる事もままならない状態で愛する陛下とも随分とお会いしていない。まったく、あの藪医者のせいね。処方された薬が全然効かないじゃない!この私が苦い薬を飲んであげているというのに!


 愛する陛下の願いでなければ薬など飲まなかったわ!

 

 所詮は、ティレーヌ王国の医者よ。大した腕じゃないのは仕方ないわ。お兄様にお願いしてチェスター王国から名医を連れて来てもらおうかしら。そうだわ!それが良いわ!私の回復したお姿を見れば陛下もきっと喜んでくださる筈だわ。陛下はあの藪医者を贔屓なさっているけれど無能なんですもの。仕方ないわ。


 


「それにしても寒い場所だわ」


 灯が一つもない。

 そのせいで身動きが取れないわ。


 それと……何だかジメジメした嫌な臭いが充満しているわ。


 嫌だわ。

 臭いが体にこびりついたらどうしてくれるの!



 


 コツコツコツ。


 耳を澄ませば足音が聞こえてくる。

 それと同時に灯が近づいてくるのが分かったわ。少しずつ灯でまわりが見え始めたのよ、そして私はこの光景に驚くしかなかった。


「な、なんなの? ここは……」


 どう見ても独房にしか見えなかった。目の前には頑丈な鉄格子がある。窓も一つもない。


「こ、これは一体……あ、足が……」


 先程から重たいと思っていたら足枷を付けられていたわ。


 何なの!?


 


 

「お目覚めか」


 ハッとして顔を上げると目の前に愛する夫が居た。


「陛下!」


 陛下は護衛に鉄格子を開けるように指示なさった。

 ああ!陛下が助けにきてくださったのね!

 何だか物語のような場面だわ。きっと私は知らない間に悪人に連れ去られていたのね。それで陛下が助けにきたんだわ!


 陛下に見つめられている。


 ああ!どうしましょう!ドキドキと動悸が早まるのが分かるわ。

 これは間違いなく抱擁される前提の眼差し。言われなくても分かる。だって私達は夫婦ですもの!


 さあ!さあ!


 早く私を抱きしめてくださいな!

 

 


 

「跪かせろ」


 陛下から聞いたこともない冷たい声が発せられた。

 

 何を言われたのか理解できなかった。

 護衛は王妃である私を跪かせた。


 信じられないわ!

 私を誰だと思っているの!

 この国の王妃よ!

 チェスター王国の王女なのよ!

 護衛如き下賤な男が高貴な私に触れるなんて!



 許される事では無いわ!!!



「陛下!お助け下さい!この無礼者を今すぐ罰してください!」

 

「何を勘違いしている」


「か、勘違い……?」


「そうだ。私の命令に従う者を罰する筈がないだろう」


「な、何を仰っているんですか? 陛下は私を助けに来てくださったのでしょう?何故このようなことをなさるのですか!?」


「相変わらず、自分の都合の良いように考える奇特な頭は健在か……。薬の影響で多少でもまともになると思ったのだがな。いや、元から狂っているのだからそれ以上狂いようがないという話か」


「何のことですか」


 このような辱めを受けるなどあってはならないこと。だというのに震えが止まらない。陛下は一体どうしてしまったというの?あれだけ私を大切にしてくださった方なのに……。

 見上げた陛下は嘲笑っていた。

 


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