第89話元王太子妃side

 どうして……。

 どうして!どうして!どうして!


 やっと部屋から出られたのに!

 今日の夜会の主役は私達じゃないの!?


 侍女が言ってたじゃない!

 素晴らしい発表があるって!


 だから、てっきり国王が退位してマックスに位を譲るものだとばかり思っていたのに!

 私が王妃になる瞬間だと思っていたのに!

 王になったマックスの隣に居る王妃の私を想像していたのに!

 

 

 ――そう、思っていたのに



 あの忌々しい公爵夫妻が呼ばれて、公爵が「王太子」になった。あの女が「王太子妃」に……。


 なんで!?


 王太子はマックスでしょう?

 王太子妃は私でしょう!!


 訳が分からないまま話が進んで、マックスの名前が呼ばれた。男爵位とその領地を授与された。

 どういうことなの!?


 私が王太子妃よ!

 私が王妃になるはずだったのに。


 公爵夫妻が「王太子夫妻」になった。

 王太子夫妻だった私達が「男爵夫妻」になった。


 大体、「ビット男爵」って何よ?

 私の生家の名前じゃない!

 一体何が起こっているのよ!


 あの女を見ると、大勢に囲まれて幸せそうに微笑んでいる。

 おかしいじゃない!

 そこに居るのは私だったのに!


 なんで誰も何も言わないの?

 どうして皆は嬉しそうなのよ……。

 



 



「嫌よ!!! どうして私達が王宮から追い出されないといけないのよ!」


 あの後、マックスから色々聞いた。

 マックスが国王の実子じゃないことも、王妃様が廃妃されて幽閉になったことも、リリアナのことも。だからって納得なんて出来ない! 


「それでは反逆罪に問われても宜しいと仰るのですね」


「はぁ!? 反逆ですって!?」


「そうです。陛下の処置を不服と申し立てるならば御夫君共々『内乱罪』として連行しなければなりません。これでもお二人の処置は軽い方です。議会は最初死刑にする方向で動いていたのですよ?それを陛下の温情で生きる事を許されたのです。しかも貴族籍まで用意されて一体何が不満なのですか。お二人はそのまま放り出されても文句は言えない身なのですよ。ですが、今まで王族として過ごしてきた方に平民として生きていくのは不可能だからこそ領地も与えられたのです。マクシミリアン・ビット男爵は、婿を果たして跡を継いだのです。これからは分不相応に生きてください。多くを望まずに、慎ましやかに過ごされれば十分暮らしていけます」


 侍女長の説明にマックスは項垂れているだけで何の役にも立たない。ここで粘らないとその領地から出られない事態になるのは目に見えているわ!


 私の訴えも虚しく、護衛の数名に羽交い絞めにされて馬車に無理やり乗せられた。


 なんでこうなったのよ!!!

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る