第90話新王太子(元公爵)side
正直、この国の王太子になるとは思わなかった。
今までコードウェル公爵を名乗っていたが、私は微妙な立場であった。公爵家の跡取り息子としては些か過剰なほど過保護に育てられた。護衛が四人付くのは当たり前で、両親は私が一人で行動する事を極端に嫌った。まるで
自分でいうのも何だが、私は年齢よりも遥かに早熟だったし感も悪い方ではない。両親や使用人達の態度から自ずと見えてくるものがあった。私が生まれる前に亡くなった「姉」の存在がネックになっていると。両親が頑なに私を王都に近づけさせなかったのも恐らく「姉」が関係しているのだろう。この国の貴族ならば誰もが入るであろう王立学園に通わせなかったのがいい例だ。
己の出生の秘密を知ったのは父の臨終の時。私が両親と思っていた二人は、本当は祖父母であったのだ。実の両親は国王陛下と姉と思っていた女性だった。
元々、実の両親は幼少の頃からの婚約者同士だった。
王国のために別れを選ばざるおえなかった悲劇の恋人達。実母はその後不慮の死をとげた。当時、様々な憶測がされたようだ。表向きは“事件性なし”とされるが、事実とは異なる。
実母の存在を許さない人がいた。
その筆頭が廃妃になった隣国の王女。この国の元王妃、その人だ。人を使い実母を襲わせたのだ。実父が駆けつけた時には酷い有様だったらしい。貴族令嬢でなくとも普通の女性が数多の男達に凌辱され暴力を受けて正気を保っていられるはずがない。
実母の精神は壊れてしまった。
そんな精神状態でも既にお腹の中にいた子供は守りたかったのだろう。
私が誕生すると同時に力尽きて亡くなった。
実母を襲った犯人は捕まらないままだった。というよりも、世間に公表できない事件だ。公表すれば犯人は捕まるかもしれない。だが、それ以上に実母の名は嫌な面で有名になるだろう。産まれてきた私も醜聞に塗れて生きることになる。祖父母は全てを飲み込んだ。犯人を調べることもなかった。きっと調べたくなかったのだろう。亡くなった最愛の娘をこれ以上汚したくないという思いもあった。それ以上に、知れば正気を保っていられないと考えたのかもしれない。どんな手を使っても報復したい、という欲に。これから先も守らなけらばならない孫がいる。復讐の鬼になる事ができなかった。亡くなった娘の代わりに孫を守り育てる事に選んだのだった。孫を愛しむ事で娘の死を心の奥に封印した。
だが、実父は逆だった。
彼は調べた。
犯人を捜し続けた。
そして、突き止めた。
実母の死から数年後、とある侯爵家と下位貴族の四家が『反逆罪』として断絶になった。一族に全てが数ヶ月間拷問されて獄中死している。恐らく彼らが実行犯なのだろう。これは後から知った事だが、隣国王女との婚姻に最も積極的で推進していた貴族達だった。
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