第88話廃嫡2
どこから間違っていたのだろう。
いつからこうなってしまったのか……。
王太子として生きてきた。
いずれ王位を受け継ぐと信じてきた。
国王陛下の跡を継ぐのは自分しかいないと……。
それが全てまやかしだったとは。
ぼんやりと周囲を観ていると、
彼女とあのまま結婚していれば何かが違っていたのだろうか。
そうしていれば王太子の位を失わないで済んだのではないか?
彼女が王太子妃だったならば、実家のオルヴィス侯爵家が黙っていない。きっと形だけでも王にして次世代に繋げたはずだ。
もしサリーと恋に落ちることもなく、そのままセーラと結婚していたらこんな風に追い詰められる事もなかったはずだ。優秀な王子達がいて、セーラによく似た娘が帝国の皇子妃になる。そうなっていれば国王陛下も私を無下に扱う事もなかった。母上の件も内々で処理をしてくれたに違いない。
考えてはいけないと分かっていても次から次へと思ってしまう。
今、私の隣にいるのがセーラだったならばと!
ぞくり、とした。
今まで感じたこともない鋭い視線を感じ、その先に目をやると国王陛下がいた。
喉が鳴る。
恐ろしい目で私を見る。
国王陛下の私を見る目は重罪人か何かを見る目だった。
私の邪な考えが分かったのだろう。
「マックス、本当に大丈夫? 顔色が悪いわよ?」
心配そうに見上げてくるサリーに目を移す。
「ああ……大丈夫だ」
余計な事を考えるのはよそう。
今更だ。
彼女の手を離したのは私なのだから。
思考を変えた瞬間、玉座に座る国王陛下の宣言が始まった。
「今宵は正当な後継者の発表を行う。マクシミリアンの廃嫡に伴い今日より、フェリックス・コードウェル公爵を正式に『王太子』に指名する。既に議会でも承認されていることだが、異議申し立てのあるものは今ここで前に出よ」
招待されている貴族は誰も動かない。
「よろしい。これよりフェリックス・コードウェル公爵を新たな王太子とする。また、その妻であるセーラ・コードウェル公爵夫人を王太子妃とする。両名とも、これからもティレーヌ王国を支え力を注いでくれ」
「「拝命承わりました」」
二人の承諾の返事と共にドッと歓声が上がった。
こうなる事は事前に予想できていた。
それでも実際目の当たりにしてしまうとショックが隠せない。覚悟していた筈なのに。国王陛下の宣言、それは予定通りなのだろう。反対する者は誰もいなかった。
大勢の貴族達に囲まれ祝いの言葉を受ける新たな王太子夫妻。
その光景、ただただ見ている事しかできなかった。
「さて、マクシミリアンよ。そなたには一代限りの『男爵位』とそれに伴う領地を与える」
「はい」
「これより『ビット男爵』と名乗るとよい」
「拝命いたしました」
もう王族ですらない。
私の受け入れをチェスター王国が拒んだからだ。それ故にティレーヌ王国に留め置かれることになった。私の極めて厄介な立場になっている。国王陛下の息子でないにしても「王家の血」を引いている。不義を犯した元王妃の実子。二つの国の王家の血を引いているのは間違いない事実。だからこそ、母上のように幽閉という処置は出来ないのだろう。
王族が臣下に降る時は「公爵位」と決まっている。
それでも罪人の息子に爵位を与えるのは異例だろう。
名前だけの男爵ではない。領地持ちだ。これは破格の待遇だ。
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