第38話過去7 ~公爵夫人(元婚約者)side~
コードウェル公爵家当主、フェリックス様。
彼に初めてお目にかかった時は驚きました。王太子殿下によく似ていたのです。この場合、国王陛下に似ていると言った方がいいのかもしれません。何しろ、王太子殿下は若かりし頃の国王陛下に似ていると評判ですから。
殿下よりも長身で、落ち着いた声で、エスコートも随分スマートです。少し話しただけで公爵が恐ろしく博学で広い視野の持ち主である事が分かりました。やはり、殿下よりも陛下に似ています。従兄弟同士なので似ていてもおかしくはありませんが……。
「セーラ嬢、私の領地は王都に比べると何もない田舎同然です」
「御謙遜を。ご活躍はかねがね伺っております。王都以上に賑わっていらっしゃると」
「ははは。それは一部の話に過ぎません。我が領の特産は『麦』ですからね」
「それこそ素晴らしいですわ。品種改良に成功した冷害に強い小麦。開発を促したのはフェリックス様だとか。お陰で、我が国は飢饉が起きてもびくともしません」
これは本当の事です。
コードウェル公爵家が『新品種の麦』を栽培しているからこそ民が飢える心配をせずに暮らせるのです。ここ数年は災害被害にあわれた他国に「無償援助」として麦を始めとした食料を送っているとか。
「王国も嘗ては支援物資で民の暮らしを凌いでいた時期がありましたから。随分と悔しい思いをした事もあったのでしょう。品種改良の成功は先代からの努力の結果です。先代オルヴィス侯爵にも随分と助けて頂きました」
「おじい様が、ですか?」
「ええ。『支援援助で他国から舐められ不平等条約を結ばされるなどあってはならん』と言って、早々に侯爵位を御子息に譲り渡し、品種改良と領地改革に勤しんでました。父が亡くなり、幼い身で公爵家を継いだ私を支えてくれたのは
子供のように笑うのですね。
そこは陛下や殿下に似ていません。
フェリックス様はおじい様に恩を感じて私に求婚してくださっているのでしょうか?
「言っておきますが、私がセーラ嬢との婚姻をおじい様にお願いした立場です。無理を通してもらいました。十五歳も年上のおじさんで王都に出向くことも無い出不精な公爵だが私と人生を共に過ごして欲しい」
真っ直ぐに見つめる目には感じた事のない熱量が籠っていました。男性にこのような目で見られたのは初めてなのでどう反応してよいのか分かりません。ですが、王太子殿下と違って、フェリックス様が私を「女性」として見てくれているのは痛いほど伝わってきます。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
求婚の返答に対してフェリックス様は終始笑っていました。出会ったばかりのフェリックス様の求婚に応えた私に両親は苦笑しながらも喜んでくださいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます