第37話過去6 ~公爵夫人(元婚約者)side~


 愛していない男性と婚約解消でもこれほど虚しく感じるものなのですね。愛している人との婚約解消ならどれほどの心の傷になるのでしょう? らしくもない感傷に浸ってしまった理由は私に送られてきた釣書にありました。危惧していた通り、下位貴族から山のように釣書が送られてきたのです。その中にはビット男爵令嬢に夢中になり婚約を破棄した男性も多くいました。彼らは知っているのでしょうか? 自分達が捨てた元婚約者のその後を。高位貴族の私ですらこの始末なのです。下位貴族の令嬢となれば、まともな縁組は望めません。多くが親子ほど年の離れた男性の後妻として嫁いでいます。彼女達に申し訳ないと思わないのでしょうか?


 私はまだマシですね。

 次を選ぶだけの余裕があるのですから。


 そんな時でした。

 お父様が一人の男性を紹介してきたのです。

 いえ、正確にはお父様の推薦ではないのですが。


 


「セーラ、フェリックス・コードウェル公爵に会ってみないかい」


「コードウェル公爵ですか?」


「ああ、父上が是非セーラと目合わせたいと言ってきたんだ」


 おじい様のお勧めの男性でした。

 ティレーヌ王国には三つの公爵家があります。コードウェル公爵家はその筆頭ともいえる家柄。先代の公爵が王姉を妻として娶いますので、今代のコードウェル公爵は国王陛下の従弟という立場にいらっしゃいます。


「そういえば独身でしたね」


「ああ、セーラよりも十五歳年上になるが傑物だ。会ってみる価値はあると思うよ」



 確かに、現コードウェル公爵はかなりのやり手です。彼の代で資産は倍になったとも聞きます。公爵領は貿易も盛んで主要都市は「第二の都」とも謳われている位です。ただ、御本人が王都に来ることはなく何時も代理でした。なので、私も会った事はありません。王国の貴族には珍しく学園に通われなかった方です。貿易に力を注ぎたいという事で聖ミカエル帝国に長年留学されていたと聞きましたが真偽は分かりません。国王陛下が信頼して快く送り出したと、噂で聞いた程度です。実際の処、コードウェル公爵がどういった人物なのか全く分かりませんでした。


「父上と前コードウェル公爵は親友同士で、若くして公爵になったフェリックス殿を後見していたんだ」


「それは初めて聞きました」


「ははっ。領地の事は父上にまかせっきりからな」


 そういえば、コードウェル公爵領はオルヴィス侯爵領の隣です。


「お父様もコードウェル公爵と親しいのですか?」


「よく知っているよ。ただ、私の場合は『幼い頃は』とついてしまうがね。勿論、無理に会う必要はない。セーラの気持ちを尊重する」


 公爵家は王国一の資産家。

 家柄も血筋も王家の次に良いのです。

 悪い話ではありません。

 

「お父様、私、コードウェル公爵にお会いしてみたいです」



 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る