第15話過去12 ~財務大臣side~


「どういう事だ?」


 どうも何も見たままなのだが。


「何故、こんなにも支出が多いんだ」


「それは当然です」


「何だと!? そんな筈は無い! 私がムダ金を使っているとでもいうのか!?」


 ある意味でだな。


「そうではありません。これはになるので独身時代と同じとはいかないと言っているんです」


「はっ!? 私達夫婦の支出だ……と?」


「そうです」


「そんなバカな。夫婦で経費を共用するなど聞いた事がない。父上と母上も別々ではないか。何故、私達だけ共用になるんだ。いや、共用でもいいが、何故、独身時代と同じ予算なんだ? 夫婦だぞ? 倍の予算になるはずではないのか!?」


「倍になるのは無理ですね」


「何故だ!?」


 こっちが何故かと言いたい。

 

「何故と申されましても、王太子妃の持参金の問題です」


「どういう事だ?」


「王太子妃は歴代最低額の持参金で王家に嫁がれて参りました。あの程度の額では一ヶ月と持ちません」


「だから何だというんだ。金銭の問題ではないだろう」


「金銭の問題です」


 この王太子は何を言い出すんだ。

 まさか恋に盲目になって頭までイカレタか?


 「そもそも王族の日常生活は基本、個人資産で賄われています。公務や行事に関係する場合は国庫から予算が出ますが、それも毎年予算が組まれていますから必要経費以外の支出は禁じられております。マクシミリアン殿下の場合は王太子領をオルヴィス侯爵令嬢の慰謝料に充てられました。そのため個人収益を失っています。ですが、王妃様が御自分のを殿下へと譲渡なさいました。現在、殿下はその土地収入で生活費を賄っているんです」


「そ、そうだったのか……母上が。だが……そのような話は聞いていないが……」


「殿下にしてもがあると仰られまして。殿下には内密に話しを進ませていただきました」


 王妃様としても自分の息子が甲斐無しと思われるのは恥辱だったのだろう。もっとも、譲渡された土地収入がが課題だろう。


「もっと言いますと、本来なら王太子妃からの『持参金』が入り、その『持参金』が王太子妃経費になるのです。が、生憎とサリー妃の『持参金』は微々たるもの。ましてや衣装や宝石類などは何の収益にもなりません。歴代の妃方は実家から割譲された土地や家屋の収益を『持参金』として持ってきます。その持参金からの収益で賄えなかった場合は『化粧料』という名目で援助金がなされてきました」


「すまない。知らなかった」


「贅沢を好む妃ならば実家は毎年『化粧料』を納めていたようです」


「そうだったのか」


「まあ、このような内容は公にはしませんから殿下が御存知なくとも仕方ありません」

 

 大々的に公表していないだけで隠している訳ではない。なので、知っている人間からしたら「この王太子、金どうすんだ?」と思われるのだ。

 実際、高位貴族は即座に動いている。


『若い王族の為だけに税金を上げるような真似をなされば民への信頼は失墜いたします。我ら高位貴族も領内の税を上げる予定はありません』


 議題にまで上げて牽制してきた。

 要は、「アホな王太子夫妻にやる金はない」という事だ。


 陛下も仰っていたからな。


 『王太子夫妻のための予算を増やす必要はない。全て自分達が好き勝手に欲望のまま動いた結果だ。責任は本人達に取らせよ』


 情愛深い方だがシビアな面もお持ちだからな。

 この点は親バカな王妃様とは反対だ。


 マクシミリアン殿下は陛下のたった一人の御子だ。

 可愛くない筈は無い。


 真面目な王太子殿下であったというのに。

 恋に狂ってしまうと人は愚かになるというのは本当の事なのだな。

 

 


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