第16話過去13 ~外務大臣side~


「マクシミリアン殿下、それは無理でございます」


「何故だ? 外交に夫婦で出席するのは常識だろう」


 常識が出来ていない妃を娶ったせいです。

 あの王太子妃に外交などさせられるものか!

 

「サリー妃は今何か国の言語を習得されていらっしゃいますか?」


「ま……まだ一つ目を習得中だが……」


「その一つ目とは帝国語ですか?」


「そうだ」


「他の言語は如何ですか?」


「そ、それはこれから……」


 それでは遅いのですよ。

 通訳を介するとしてもある程度の語学力は必要になって来るんです。


「サリー妃は周辺諸国の歴史や文化を何処まで知っていますか? 政治事情は把握できていますか?」


「あ……」


 殿下は黙り込んでしまった。

 王太子妃の出来の悪さは有名だ。

 超一流の教育係達を解雇してしまう程の頭の悪さだ。

 

「謁見の場で、王太子妃が粗相をしでかさない保証はありません。会見でトラブルを起こさないとも限りません」


「大臣!それは王太子妃に対して無礼ではないか!」


「無礼は承知の上です」


「な……に……」


「我が国は六つの国が隣接しています。その内の二ヶ国は我が国と同一系統の言語を使用しております。ですが、他の三ヶ国は全く系統が異なります。一つは帝国語、もう二つは独自の言語を持っている国です。大陸の覇者たる『聖ミカエル帝国』の言語が『共通語』とされていますから本来ならば王太子妃は帝国語を習得しておかなければなりません。そうでなければ要人達との会話に支障をきたします」


「……」

 

 返事がない。

 だんまりを決め込む気だろうか?


「ご理解いただけましたか? 国益を害する可能性がある以上は王太子妃に同行を認める訳には参りません。因みに、帝国語は高位貴族の子女なか誰もが幼少期に習得済みです。日常会話程度ならば三ヶ国語位は難なく話せる令嬢ばかりです」


 これは、下位貴族よりも高位貴族の方が外交を担うケースが多いからだ。それでも必死に勉強すれば学園にいる間に高位貴族に追いつける者もいる。要は努力次第だ。


 何よりも――



「諸外国はセーラ嬢をとてもよく知っておりますからね。そのセーラ嬢を押しのけて王太子妃になった女性の程度を知れば外交にヒビが入りかねません」


「サリーはサリーだ! セーラと比べるとは酷いではないか!」


 黙っていた殿下が急に食って掛かってきた。愛する妻を悪く言われたと思っての事だろうが、あの王太子妃の不出来さは諸外国でも話題になり始めている。セーラ嬢と比べること自体烏滸がましいというものだ。


「ご安心ください。比べるまでもなくセーラ嬢が優れている事は皆が存じ上げております」


「なっ!?」


 何をそんなに驚かれるのか。

 セーラ嬢は「王妃になるべくして生まれた女性だ」とまで言われた程だ。彼女が王太子妃ならば外交においても諸外国と深い信頼関係を結べただろうに。

 殿下、逃がした魚は大きいですよ。


「若く美しい女性は世の中に数多くいます。美しさだけで生きていけるのはだけですよ」


「大臣! 不敬罪だ!」


「おや? 何故です?」


「今、サリーを侮辱しただろう!」


「私は世間話をしただけです。決して『サリー妃が娼婦のようだ』とは申しておりません」


「~~~っ……」


 顔を真っ赤にしている。

 まだまだ若い。

 いや、青いのか?


 殿下自身も無意識に同じような事を思っていたのだろう。

 だから怒った。

 

 素直に認められないのは王太子妃に対する愛情か、それとも別の何か、か。


 



 


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