ハズレギフト「下限突破」で俺はゼロ以下のステータスで最強を目指す

天宮暁

ハズレギフト「下限突破」で俺はゼロ以下のステータスで最強を目指す

 成人を迎えた貴族の子弟が誰もが受ける成人の儀――


 神から直接「ギフト」と呼ばれる特殊な能力を得られるとあって、15歳の誕生日が近づくと、年頃の子弟は男女を問わずそわそわしだす。


 俺と、俺と双子の兄弟もその例に漏れない。


「わくわくするな」


 俺が言うと、


「兄さんは気楽だなぁ。僕はハズレを引いたらと思うと気が気じゃない」


 双子ではあるが、俺と弟はあまり性格が似ていない。

 楽観的でおおらかな俺に対し、弟は万事控えめで悲観的だ。

 だが、その分弟がこつこつと勉学を積み重ねてるのは知っている。


「どっちががハズレを引くこともあるかもしれないが、二人揃ってハズレってことはないだろ。兄弟同士助け合おうぜ」


「もし二人ともハズレだったら……?」


「そのときは一緒に笑いものになるしかないな。大丈夫、俺が笑われてやるから」


「…………さすが、兄さんは人間ができてるね」


 弟の言葉にちょっと棘を感じつつも、俺と弟は成人の儀を迎えることになったのだった――







 明暗が、分かれた。


「兄君であるゼオン殿ですが……ギフトは『下限突破』となっておりますな」


 俺が儀式を受けた後、担当の神官が神懸かり状態となり、自動筆記で書き出した「ステータス」を見せてくる。

(ちなみに、一度このステータスを受け取ると、以降は「ステータスオープン」という古代語をつぶやくだけで同じステータスを視界上に表示することができる)


 初めて見る俺のステータスはこうだった。



Status―――――

ゼオン・フィン・クルゼオン

age15

LV1/10

HP12/12

MP9/9

STR11

PHY10

INT12

MND11

LCK8

GIFT "下限突破"

―――――

Gift―――――

下限突破

あらゆるパラメーターの下限を突破できる

―――――



「……は?」


 書き出された内容がにわかには飲み込めず、間抜けな声を漏らす俺。


 そのあいだに弟は別の神官によって儀式を済ませ、神官が書き出したステータスを持ってやってきた。


「おお、どうだった、シオン?」


 俺が訊くと、


「僕の授かったギフトは『上限突破』だ。レベルやステータスの上限を突破できる力らしい」


 誇るでもなく恥ずかしがるでもなく、シオンが言った。

 その口調、表情に違和感を覚える俺。


 どこか居丈高というか、驕ってるというか。

 言葉の端々から、これまでに聞いたことのない冷たさを感じるな。


 いや、冷たさではなく――見下し、か?


「ふっくくく……似たような名前でも大違いだ。笑わせてくれる、下限なんか突破してもしょうがないじゃないか。兄さん、とんでもないハズレギフトを引いたもんだね? 神様も皮肉の利いたことをするもんだ」


 見たこともない、半笑いの表情で、シオンが俺に言ってくる。


「し、シオン……?」


「双子とは言え、そんなお笑いギフトの持ち主と協力しあうなんてまっぴらごめんだ。僕は神官様から勇者パーティに加わらないかと勧誘された。能天気で苦労知らずの馬鹿兄貴とおさらばできると思うとせいせいするよ」


「なっ、おまえ……」


 俺が護ってやらなくては、そう思っていた弟の突然の絶縁宣言に、俺は口をぱくぱくさせるだけで返す言葉が見つからない。


「そうそう。父上も僕の結果をいたくお喜びでね。将来的にクルゼオン伯爵家の家督は僕に譲ると明言してくださった。出来損ないの兄貴には家から出ていってもらう」


「そ、そんな、いきなり……まだ俺のがどういうギフトかもわかってないんだぞ!?」


「案外、これ・・がそうなのかもしれないよ? 貴族の家に生まれたのに、下限を突破して家から追放。これから先、果てることなく落ちぶれていくんだ。だから、『下限突破』。兄さん、前世で何か悪いことでもしてたんじゃないの? 天罰としか思えない」


 この世界には魂の輪廻転生を教義とする新生教会が存在し、貴族を中心に広い信仰を集めている。

 ギフトを授かれる貴族は、前世で善行を積んだから。

 ギフトを授かれない平民は、前世で悪事を働いたから。

 まれにハズレとしか思えないギフトを引く貴族は、前世に大罪を犯したからだ。

 見せしめのためにデメリットしかないギフトを神が与え、その破滅を世間に見せつけるのだという。


 俺の父であるクルゼオン伯爵は新生教会の熱心な信者だ。

 すばらしいギフトを引いた弟は世継ぎに。

 ハズレを引いた俺は絶縁して家から追放する。

 そんなことを考えてもおかしくない。


 だから、どちらかがハズレを引いたら助け合おう――シオンとは以前からそう言い合っていた。


 だが、それは俺の一方的な思いの押し付けだったらしい。


 神経質なところのあるシオンは、俺の善意の押し付けを内心では酷く嫌っていたんだろう。

 それに気づかず、仲のいい兄弟だと思いこんでた俺は――――


 馬鹿だ。


 そうとしか言いようがない。


「いろいろ済まなかったな、シオン。勇者パーティと次期伯爵、おめでとう。陰ながら応援させてもらうことにするよ」


 俺は絞り出すように思いを伝えたが、


「ははっ、負け惜しみかい、兄さん? 見苦しいにもほどがある。兄さんは――いや、もう兄ですらないゼオンさん・・・・・は、伯爵家とは縁もゆかりもない部外者だ。身の回りのものくらいは持ってっていいけど、それ以外にあげられるものは何もないよ。僕と父上の総意だ」


 まさか、ここまで憎まれていたなんてな。


 悔しいし、怒りもある。

 だが、それ以上に悲しい。

 兄弟で一緒に積み重ねてきた思い出はなんだったのか。

 俺の一方通行な思いにしぶしぶ付き合っていただけだったのか。

 そんな弟の思いに気づかなかった自分にも腹が立つ。


 俺は教会の儀式室を出て家に戻ると、自室にある荷物をまとめた。


「ゼオン様! 出ていかれるというのは本当なのですか!?」


 俺の部屋(だった部屋)に飛び込んできたのは老執事のトマスだった。


「ああ。ハズレギフトをもらった俺は神の敵なんだとよ」


「そのようなはずがございません! 使用人にも分け隔てなく接し、常に気を配ってくださったのはゼオン様ではありませんか! それに比べシオン様は、普段は内気でいらっしゃる反面、相手の立場が下と見ると――」


「それ以上はやめておけ、トマス。いいんだ、そのことも含めて、俺の身から出た錆なんだろう。案外、前世で悪いことをやってたってのもほんとなのかもな」


「ゼオン様……」


 そこへ、さらに闖入者がやってきた。


「ゼオンさまぁ! 屋敷を出ていかれるってほんとなんですかー!?」


 くりくりとした丸い瞳が特徴の愛らしいメイドがノックもせずに飛び込んできた。


「これ、コレット。きちんとした言葉遣いをせんか」


 メイドの言葉遣いを、トマスがやわらかく注意する。


「ご、ごめんなさい。でも、ゼオンさまが悪魔の手先なんて、そんなの嘘に決まってます!」


「悪いな、コレット。俺は自分で思ってるほど善人じゃなかったらしい。実の弟の心もわかってないんじゃ、伯爵家の当主にふさわしいわけがない。いいさ、これもいい機会だ。屋敷を出て、自分の力で生きてくことにするよ」


「ゼオン様……」

「ゼオンさまぁ……」


「二人とも、シオンのことをよろしくな。根は優しい奴だったはずなんだ」


 今回のことでだいぶ自信は薄らいだが、俺はずっとそう思って接してた。

 でもそれが、あいつにとっては「上から目線のおせっかい」のようで気に食わなかった――

 たぶん、そういうことなんだろう。


 俺は引き止める二人に別れを告げ、少数の身の回りのものだけを持って家を出た。






 いくら貴族の子弟と言っても、世の中のおおまかな仕組みくらいは知っている。

 そりゃ、世間知らずなことは否定しないが、使用人や屋敷の出入り業者なんかと仲良くなって話を聞けば、彼らの暮らし向きや街の様子なんかはわかるもんだ。


 だから、街の冒険者ギルドに行って冒険者登録するくらいは問題なく行えた。


 問題は……やっぱり、ギフト「下限突破」のことだよな。


 この世界は古代人によって造られた架空の世界なのだという説がある。


 原始の状態から高度な文明を生み出した古代人は、もはや食うために労苦する必要がなくなった。

 しかしそうなると暇を持て余すのが人間というものだ。

 古代人は、人生そのものがすべて暇、という状況をなんとかするために、仮想の空間に複雑なルールによって管理される遊戯性のある空間を創り出したという。

 最終的に古代人は肉体を捨て、その仮想空間に「移住」した。

 世代を重ねるうちに「移住」前の記憶は失われ、仮想だったはずの世界が当たり前の現実となり、人々はいつしかそれ以前の歴史的な記憶を忘れてしまった。


 成人するとギフトがもらえるだとか、神の託宣によってステータスがわかるだとか……。

 ちょっと深く考えると不思議としかいえないような要素がこの世界で当たり前のものになってるのはそのためだ。



Gift―――――

下限突破

あらゆるパラメーターの下限を突破できる

―――――――



「あらゆるパラメーター……ね」


 そもそも、パラメーター――ステータスにあるLvやHPやINTといったものは、経験に伴い増えるものであって、減ることはない。

 一部高難易度ダンジョンに出没するモンスターによる特殊攻撃や特殊な罠の中には、パラメーターを下げるものもあるというが……。


「下限を突破しようにもどうやって下げるかって問題があるよな」


 そもそも、苦労して下げても何もメリットが思いつかない。

 自分が弱くなるだけだからな。


「そういえば、『下限』ってのはいくつのことなんだろうな?」


 シオンの「上限突破」はわかりやすい。

 たとえば俺なら、ステータスは「LV1/10」となっており、俺のレベルの上限は10である。

 シオンはもう少し高く、13だった。

 勇者パーティに選ばれるような奴は上限が20~25と聞いている。

 シオンの現在のところの上限は13だが、「上限突破」があれば青天井でレベルを上げられる。

 そりゃ、勇者パーティにスカウトされるわけだよな。


「レベルの下限は……1か? だが、レベルを0にしたところでステータスがさらに下がるだけだよな?」


 下げてみようにも、レベルを下げる罠や、レベルを下げる特殊攻撃持ちのモンスターなんて、高難易度ダンジョンにしかいないって聞くぞ。


「待てよ……パラメーターか」


 俺は開いていたステータスを閉じ、持ち物リストを表示する。

 古代人の仮想空間であるこの世界では、アイテムと認められたものは持ち物リストに「収納」できる。

 俺の持ち物は、



Item―――――

E:ロングソード

E:黒革の鎧

E:防刃の外套

E:黒革のブーツ

初級ポーション 3

初級マナポーション 2

毒消し草 1

爆裂石 1

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

―――――



 ……こんな感じだ。


 これを見て、何か気づくことはないだろうか?


「武器防具は別として、消耗品には残り個数が表示されるんだよな」


 これを古代語では「スタック」といい、同種のアイテムをまとめることで持ち物リストの空き枠を節約できる便利な機能だ。

 持ち物リストは装備品を含めて全部で16種のアイテムしか入れられないからな。


「ひょっとして……」


 と思い、俺は「爆裂石」を取り出した。

 投げつけると衝撃で爆発し、広範囲の敵にダメージを与える、いわば最後の切り札だ。


 俺はダンジョンを奥に進み、ゴブリン3体の敵編成を発見した。

 ゴブリン相手に「爆裂石」は正直もったいないにもほどがあるんだが、下手に欲張って倒し損ない、俺が殺されれば一巻のおしまいだからな。


「くらえっ!」


 俺はゴブリンどもに爆裂石を投げつけた。

 派手な爆発で、ゴブリンたちが散り散りになる。

 散開したって意味じゃなく、身体があちこち引きちぎれて「散り散りに」なったという意味だ。


 俺は持ち物リストを再び開く。



Item―――――

E:ロングソード

E:黒革の鎧

E:防刃の外套

E:黒革のブーツ

初級ポーション 3

初級マナポーション 2

毒消し草 1

爆裂石 0

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

―――――



「0……?」


 通常、消費アイテムを使い尽くしたら、そのアイテムは持ち物欄から消滅する。

 残り個数0のまま名前が残るってことはない。


「え、まさか……一度アイテムをリストに入れたら、そのアイテムを使い切っても枠が空かないっていうのか!?」


 俺は青くなって、「爆裂石 0」をタップする。

 「捨てますか?」の表示があった。

 捨てるかどうかは……保留にするか。


「捨てればアイテム欄からなくなるのか?」


 もしそうならアイテム欄が一生埋まってしまうってことはなさそうだ。


 だが、「捨てる」を試してみる前に、他にも思いついたことがある。



「ひょっとして、0個からでも『爆裂石』が取り出せる……なんてことは?」



 やってみた。


 俺の手元に、ゴツゴツした溶岩石の塊が現れた。


 もちろん、「爆裂石」だ。


 その状態で持ち物リストを開くと、 



Item―――――

E:ロングソード

E:黒革の鎧

E:防刃の外套

E:黒革のブーツ

初級ポーション 3

初級マナポーション 2

毒消し草 1

爆裂石 -1

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

―――――



「-1……だと?」


 俺は確かめたくなって、さらにもう一個「爆裂石」を取り出した。


 そして再度持ち物リストを確認すると、


「『爆裂石 -2』……!」


 調子に乗ってもう一個。

 さらに、一個、二個、三個……と取り出してみる。

 足元に「爆裂石」が積み上がった。


 その状態で持ち物リストを開いてみる。



Item―――――

E:ロングソード

E:黒革の鎧

E:防刃の外套

E:黒革のブーツ

初級ポーション 3

初級マナポーション 2

毒消し草 1

爆裂石 -19

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

(空き)

―――――



「こ、これは……!」


 おわかりいただけただろうか?


 「下限突破」のパラメーターの下限を突破する効果は、アイテムの個数にも有効なのだ。


 だから、アイテムの個数が0になっても、マイナスになっても、いくらでもアイテムが引き出せる。


「これ……とんでもないぶっ壊れギフトなんじゃないか?」


 俺は足元に「爆裂石」を無限に転がした状態のまま、半ば呆然とつぶやくのだった。






 そこからは早かった。


 俺は無限製造できる「爆裂石」を使ってダンジョンのモンスターを皆殺しに。

 あっというまにレベルを上げる。

 冒険者ギルドから受けた依頼もばっちり達成だ。


 ただひとつ、不思議なことがあった。

 それは、マイナス個数で量産した「爆裂石」を商人に売ろうとしたときのことだ。


 俺が「爆裂石」を並べてみせたにもかかわらず、その商人は「所持していないアイテムの買い取りはできません」と言って断ってきたのだ。

 「え、いや、目の前にありますよね!?」と言っても、「どこにあるのですか?」と謎の答え。

 通常、アイテムの売買は持ち物リスト同士のあいだで行うからな。

 個数がマイナスのアイテムを「売る」ことはできないらしい。


 というわけで、さすがに無限増殖させたアイテムを売却して大金持ちに、ということはできなかった。


 だが、それでも十分すぎるほど壊れたギフトだよな。


 その頃、俺の弟であるシオンは、勇者パーティに合流した。

 レベル1からのスタートということで最初はパーティに依存することになるんだが、そのことが他のパーティメンバーとの軋轢を生んでるらしい。


 それに……あの性格だからな。

 貴族出身であることを理由に平民出身の歴戦のメンバーに横柄な態度を取ったりして、問題児扱いされてるようだ。


 だがそれでも、「上限突破」は魅力的すぎる。

 レベルが13になり、「上限突破」が効果を発揮するようになれば、最終的にはパーティの中で最高のレベルに到達できるはずだよな。


 ああいう行き違いがあったとは言え、双子の弟の不遇を見て「ざまぁ」なんていう気持ちは起きてこない。

 俺がいればパーティメンバーとの関係を助けてやれるのに……


 いや、よそう。

 そういうお節介があいつにとっては自尊心を傷つけられるようで嫌だったんだ。

 同じ轍を踏むような真似はしたくない。

 もう兄弟の関係に戻ることはないとしても、だ。






 それから数カ月後――


 俺が活動拠点にしていた街を、ゴブリンキングを頂点とするスタンピードが襲った。

 襲来する大量のゴブリンに死傷者が続出。

 死者についてはどうしようもなかったが、怪我人には俺が無限にポーションを出して対処した。


 もちろん、「爆裂石」をゴブリンに投げつけまくったのは言うまでもない。


 無限に「爆裂石」を投擲する俺に脅威を感じたのか(当然だが)、俺の前に敵の首魁――ゴブリンキングが現れた。


 通常のゴブリンは人間の子どもほどの矮躯だが、ゴブリンキングは身の丈3メートルを超え、全身の筋肉の付き方も半端ない。

 そりゃ、トロールやオークみたいな恰幅のよさはないが、それだけに引き締まった精悍な肉体をしてる。


「オマエ……危ナイ。オマエ、殺ス。仲間ノ、仇!」


「突然やってきて人間を殺したのはおまえのほうだろ!」


 俺とゴブリンキングの死闘が始まった。


 多少レベルが上ったとはおえ、俺のメイン火力はいまだに「爆裂石」だ。


 だが、


「無駄ダ!」


 ゴブリンキングは巨躯に見合わぬ素早さで、俺の投げつけた「爆裂石」を回避する。

 ならばとゴブリンキングの足元の地面を狙ってみても、前後左右にジャンプしてかわすだけ。


「くそっ!」


 アイテムを取り出すのにも若干のタイムラグがある。

 持ち物リストを表示する→目的のアイテムをタップする→「取り出す」→アイテムが実体化する――

 という具合にな。


「終ワリダ、姑息ナ人間!」


 ゴブリンキングの振り下ろした棍棒が、俺の脳天を直撃した。


 死んだ。


 俺はそう確信した。


「ゼオンさまああああああ!」


 街の方から悲鳴が聞こえた。

 あれは――コレットの声だな。

 コレットは俺がいなくなって雰囲気の悪くなった伯爵家を見限り、最近冒険者になったところだ。

 もう少しお役に立てるようになったら仲間にしてください――そんなことを言ってたっけか。


 だが、それも夢と消えた。


 ゴブリンキングの全力の一撃――おそらくは「力溜め」「渾身の一撃」「体格差倍化」が乗ってる。


 こんなもん、食らったら一発でミンチだ。

 街の城壁すら砕くような一撃だからな。


 …………




 ……………………あれ?


「馬鹿ナ……アノ一撃ヲ受ケテ、ナゼ生キテイル!?」


 ゴブリンキングが驚いた通り――


 俺は生きていた。


 脳天から足までを突き抜けるとんでもない衝撃はあったが、死んではいない。


 ……そんなことがあるのか?


 そこでふと、俺はとある可能性に気がついた。


 俺は自分のステータスを開いてみる。



Status―――――

ゼオン・フィン・クルゼオン

age15

LV10/10

HP-112/39

MP45/45

STR38

PHY37

INT48

MND47

LCK26

GIFT "下限突破"

SKILL"投擲""投石""初級剣技"”初級魔術”

―――――



「ははっ……そんなのありかよ!」


 たしかに、HPだってパラメーターのひとつだ。

 「下限突破」の対象にならないとは説明文のどこにも書かれてない。

 まあ、もしこの可能性に気づいてたとしても、事前に検証することはなかっただろうけどな。

 万が一仮説が間違ってたらただ単にHPが0になって死ぬだけだ。


「どこまでも相手になってやるぜ、ゴブリンキング! ただし、それはおまえの部下を片付けてからだ!」


 ゴブリンキングに殴られても死なないとわかった以上、ゴブリンキングをまともに相手する意味は無くなった。


 俺はゴブリンキングに堂々と背を向けて、「爆裂石」をゴブリンの群れに投げつける。

 「爆裂石」を取り出すわずかなラグも無駄にしないよう、同時に「マジックアロー」の詠唱をし、飛び出してきたゴブリンを牽制する。


 ほどなくしてMPが空になるが、心配無用。

 MPがマイナスになっても魔法は使える。

 「下限突破」様々だ。


「ヤメロオオオオオ!」


 部下を殺され怒り狂ったゴブリンキングが、棍棒を横に薙いでくる。

 俺は避けきれずに吹き飛ばされ、


「ぐはっ!」


 街の城壁に叩きつけられ血を吐く俺。


 だが、残りHPは-231だ。


 怒りでゴブリンキングの攻撃力が上がってるみたいだが、下限突破したHPを前に物理攻撃は完全に無力。


 同じことを何度もくりかえしてから、ゴブリンキングは戦術を変えてきた。

 ゴブリンキングは棍棒を放り捨て、俺を捕まえようと手を伸ばす。

 俺を殺すことはできなくても、身動きを封じてしまえば勝ちだからな。


 だが、


「『爆裂石』よ、砕けろ!」


 取り出したばかりの「爆裂石」を「使う」ことで、「爆裂石」が俺の手の上で爆発した。

 普通はやらないが、こういう起爆の仕方も一応ある。


「ッガアアアアア!」


 自爆をもろに食らったゴブリンキングが俺を手放す。

 俺も自爆のダメージは受けてるが、俺の身体に問題はない。

 死ぬほど痛くて死ぬほど熱い以外にはな。

 どうなってんだ、俺の身体。


 ゴブリンキングがよろめくうちに、俺は「爆裂石」の次弾を取り出した。

 投擲して――命中。


「グオオオオオ!?」


 ゴブリンキングの動きは「爆裂石」を食らうたびに鈍くなり、さらに「爆裂石」が当てやすくなる。


 ちょうど「マジックアロー」の詠唱が終わった。


 うずくまるゴブリンキングの頭に手をかざし――



「――マ、待テ! 参ッタ! 降参スル!」



 ゴブリンキングが突然両腕を上げて降参した。


 ……え、モンスターって降参とかするもんなの?


「オマエニハ勝テヌ! ダガ、我ラニモコノ街ヲ襲ウシカナイ理由ガアッタノダ!」


 なにやら面倒そうなことを言い出したゴブリンキングを前に、俺は思案する。


 あまり知能の高くなさそうなゴブリンキングが、降参する「フリ」をするとは考えにくい。


「我ハ……我ラゴブリンハ、オマエニ従ウ! 忠誠ヲ誓ウ! ドンナ命令ニモ逆ラワヌ! ダカラドウカ、同胞ヲ助ケテハクレマイカ!?」


 平身低頭するゴブリンキング。


 ……参ったな。


 面倒を見てるつもりだった弟には裏切られたが、俺は基本的には親分肌なんだ。

 貴族の長子としての教育もあり、膝を屈して庇護を求める相手を無下に切り捨てるのには抵抗がある。


「わかったよ。ひとまずは停戦しよう。停戦、わかるか? 戦いをやめるんだ」


「感謝スル、人間ノ王ヨ。――者ドモ、武器ヲソノ場ニ捨テルノダ!」


 ……いや、俺、人間の王とかじゃないんだけど。


 面倒なことになったと思いつつも、俺は内心では不思議な予感がしていた。


 ――これははじまりにすぎない。


 俺の冒険はこれからはじまるのだ。


 そして、この時の予感は、結果的には正しかった。


 ハズレギフトから始まった俺の冒険は、俺の期待の下限を突破して、ますますわけのわからない方に転がっていくことになるのだった――







――――――――――

最後までお読みいただきありがとうございました。

感想等、ございましたら残してくださいますと大変励みになります。

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『ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す』は、書籍版第二巻が9/2に出たばかりで、コミックスも現在二巻まで発売中です。もちろんカクヨムでの連載もございますので、ご興味のある方はぜひ読んでみていただければ嬉しいです。

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