あとがき

 オークリッジ工房封止録をお読みいただき、ありがとうございます。


 お仕事小説と言いつつ中身は超絶変化球なので、まあいつものわたし流です。ただ、本作はいつもと少し違ったタネから膨らませました。

 すでに完結している短編集の『組曲モルフォ』の中に『封止』という作品があり、師匠と弟子のコンビがいい感じだったので掌編で終わらせるのはもったいないなあと思っていたんです。なのでその背景をきちんと整備し、中編規模にまで膨らませたのが本作です。ただ、恋バナを絡めたくてサニーを組み込んだことで若干テイストが変わってしまいました。うーん……なかなか難しいですね。


 ◇ ◇ ◇


 封止という概念自体は珍しいことではなく、同じような発想で業務として封止を行う人を描いた作品は山のようにあります。ただ、「なぜ封止が必要なのか」をきちんと突き詰めたものはそんなに多くないんじゃないかなと。


 わたしはラノベをほとんど読みませんが、サウンドノベルのシナリオを試作していた時に里見しばさんの『トゥルー・リメンブランス』を読んでとても感銘を受けました。里見さんのは『記憶の封止』ですね。辛い記憶を封止するのは是か非か。いくつかのケースを並べて、記憶の意味……覚えていることの意味を読者に問う。読み捨てることができない、しっかりとした芯のある作品でした。


 尺が限られていますので里見さんのものほどは掘り下げられませんでしたが、わたしも本作にはきちんと心棒を通したつもりです。それが『封止する意味』です。

 できるものはなんでも封止するよというのがエーリスの立場ですが、封止できない理由を二つ設定したんです。技術的に無理、と、封止の意味がない、と。技術による限界は技能の向上で縮小できますよね。しかしできることが増えると、してはいけない封止にまで踏み込んでしまうリスクを負うんです。エーリスのお師匠さんはそれで大失敗し、エーリス自身も悩んでいます。バンスに封止工なんかやるもんじゃないとブレーキをかけるほど、ね。


 エーリスは封止の有効期限を設定することと、ポジティブな意味を持つ封止を前面に出すことで技術の暴走に歯止めをかけようとしましたが、それが本当に効くかどうかはわからないんです。技術テクノロジーが高度に進化し便利になるほど内包する危険も同じだけ増える……その二面性はどの世界でも同じなんじゃないかなあと。そんなこんなを背景にアイロニーとして潜らせながら、エーリスを造形してみました。


◇ ◇ ◇


 技術の持つ厄介な二面性の指摘と同様に、資源利用の難しさや利害衝突と言った二元論で語られやすい要素もたんまり盛り込んであります。ストーンオークは是か非か。妖精として存続することは是か非か。ガラス産業と森林利用は両立しうるか。いろいろな表裏を見比べていただき、「自分ならどうするかなあ」という視点をちらりとでも持っていただければ。


 ともあれ、欲張ってあれもこれも盛り込んだことで消化不良気味になってしまった作品をお読みいただき、感謝感謝です。謹んでお礼申し上げます。

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オークリッジ工房封止録 水円 岳 @mizomer

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