第3話レモンバームとのど飴



 リーゼロッテさんが帰って今は大体1時ごろ、お昼ご飯を食べるには最適な時間だ。


 でもゆっくり作って食べることはできない。

 閑古鳥かんこどりが泣いているとはいえ、いつお客さんが来ても良いように簡単に昼食を済ませておくのが日課だ。


「今日のお昼はスープが食べたいな…。」


 最近、生産ギルドが売り出したスープの素という粉、一食分ずつ小分けにしたものが売られている人気の商品だ。

 なんとなく俺と同じ「地球」出身の転移者の気配がするものだ…いつか会ってみたいな。


 スープの素は家に何種類か買ってきたのをストックしている。

 今日はピエニー風スープの素を楽しもうかな、「日本」語ぽくいうと中華風スープだ。


 スープの素を二食分鍋に入れ、水を入れて沸かす。

 水が沸いたらごま油と小麦粉を練って薄く伸ばしたなんちゃってワンタンを入れてさらに煮る。


 ワンタンが溶ける前に鍋を止めて、完成!

 時間がないと言い訳しつつ鍋のままいただきます!


「あー、美味しいけど白米が欲しい…。」


 ここら辺では米の収穫が行われていないため、とても高価だ。

 なかなか市場にも出回らないためしばらく食べられていない。


「隣国ではよく食べられているんだったけなー、買いに行こうか…。うーん、米のためだけに国外に…。」


 隣国は農業と牧畜が盛んで大体の穀物こくもつを手に入れることができるらしい。

 いつか行ってみたい場所リストの1番上にある国だ。

 でも白米のためだけに国外へ旅に行くほど暇もお金がないのでしばらく先になりそうだ、仕方がない。


「美味しかった、ごちそうさまでした!」



 昼食を終え、新たに作業に移る。


 午後からは配達の予定もないので、懇意こんいにしている大店である「プラティ商会」に持って行く商品を作ろうかな。


 プラティ商会では夏向けの商品として「ミント油」を置いていたのでペパーミントなどは避けておこう。



 同じハッカ属でも今回俺が使うのはレモンバームだ。

 花が咲き始める前の晴れた日の午後という1番エッセンシャルオイルオイル成分が多い時間に葉を採集したものを乾燥させてある。


 繁殖力が凄まじく街近郊の草原の一角がレモンバームだらけになっていた。


 せっかく繁殖したレモンバームには申し訳ないが、このままだと草原が全てレモンバームに駆逐くちくされてしまいそうだったため俺の固有魔法を使って少し除草をしておいた。


 その時に大量のレモンバームが手に入ったのでこれを機に使い切りたいところだ。


 ちなみにこの時使った魔法は「赤の手」といい、植物に劣化や成長阻害など負の影響を与え根っこが強い植物を除草するのにとても役立つものだ。


 この「赤の手」の対として「緑の手」という魔法も持っている。

 このスキルは植物を回復させたり成長を促したりと正の影響を与える魔法だ。


 この世界に来た時に固有魔法として「緑の手」「赤の手」を手に入れた。

 この魔法は素質さえあれば誰にでも覚えられる魔法らしいので「俺が特別!」なんてことはない…。


 実際に師匠も持ってたしね。


 特別なスキルではないが師匠から学んだことに自分の固有魔法が役立っているので、この固有魔法でよかったと気に入っている。


 そんな魔法で採集したレモンバームを他のハーブとブレンドしブレンドハーブティーにしようと思う。


 レモンバーム以外に用意するハーブはトケイソウにセイヨウカノコソウの根、ラベンダーだ。


 今年はまだ乾燥したものができていないラベンダーとセイヨウカノコソウは去年採集したものを使う。


 この四種のハーブを混ぜ密閉出来る保存瓶に詰めたら商品は完成だ。


 眠気を誘うハーブが混ざった茶葉なので馬車の運転前には飲まないよう注意書きをしておく。

 あとは、甘みが足りない場合は蜂蜜はちみつがおすすめとも書いておこう。


 完成したハーブティーの茶葉は明日プラティ商会に持っていくことにする。





 気づいたら陽が落ち始めていた。

 茶葉を瓶詰めするのに結構時間がかかったようだ…。


「あ、燻製肉!」


 朝にセットした燻製肉がそろそろ出来上がっていそう。

 完成したものは家に置いてあるアイテムボックスに入れて保存しておく。


 しかし、さすがにリトルボアと言っても一頭分を一月で食べるのは1人だと無理がある。


 採集旅に出かける予定自体もまだ決まってないくらいなので、余分な燻製肉はお世話になっている人にお裾分けに行こうかな。



「いい匂い…。水分もよく抜けているな、完成だ!」


 早速燻製肉の端っこをナイフで切り味見。


 保存食なのでそのままだと塩がきついが完成してすぐならそれすらも美味しい。


「次作るときはチーズも燻製しようかな。」


 燻製に適したチーズはどんな種類だろうか、せっかくの燻製器なのでいろいろ試してみるのもいいかもしれない。



 ちびちび燻製肉を摘んでいると店舗のドアからカランカランと音がした、お客さんだ。



「いらっしゃい!」


「こんにちは、いつもののど飴をお願い。」


甘草カンゾウののど飴ですね、少々お待ちください!」


 そう言い裏に戻る。

 来店者は近所に住むロイさん、この街の学校で先生をしている人だ。

 授業などで常に声を出す職業なため定期的にのど飴を買いにくる。


「お待たせしました、1日3個までにしてくださいね。3日分でよろしかったですか?」


「あぁ、それで大丈夫だよ。ありがとう、いつも助かるね。」


 リーゼロッテさんに続いて常連さん第2号がこの人だ。


 家が近所なのもあってのど飴以外にもよく買い物に来てくれる。

 レモン水を片手にポツポツと世間話をする。

 ロイさんのお仕事についてだとか愚痴だとか、俺の昨日のご飯とか今日のご飯とか。


 ロイさんは今年で30歳、俺と歳が近いので話し始めると友達感覚で終わりどきが見えないのだ。


 結構長く話し込んでいて、ロイさんがそろそろ帰ろうかというとき。


「そうだ、ユーリくん。

 前に話していたフィールドワークの付き添いの件なんだけど、9月ごろに日帰りで行う予定なんだ、受けてもらえるかな?」


 そうだった、ロイさんの学校のフィールドワークに付き添い兼臨時講師として呼ばれていたんだった。


 日帰りということは1日だけだし採集旅にも影響しないかな。


「日帰りなら大丈夫ですよ!植物についてくらいしかお力になれないかもしれませんが…。」


「ハハハ、ありがとう、いい返事をもらえてよかったよ。

 植物の専門家としてお願いしているからね、ユーリくんでピッタリなんだ。

 魔物については冒険者だった教員と現役の方に来てもらうからね。」


 なるほど、たしかに魔物については冒険者が1番詳しいだろう。


「また予定が近づいたら詳しく話をつめよう。大体のスケジュールはこちらで立てておくからね!」


「はい、頑張ります!」


「お世話になるよ、よろしくね。ユーリくん」


 そう言ってロイさんは帰っていった。


 付き添いの依頼自体は生産ギルドを通すと聞いているので近々生産ギルドに顔を出しに行こう。



 あたりが暗くなっていたので店の看板をcloseにする。


 今日の来店も2人だけと決してお客さん自体は多くないが一人一人と深く関われるこの仕事が好きだ。


「次は何を作ろうかなぁ。」


 明日以降もやることはたくさんだ、夜ご飯にリトルボアカツを食べて英気を養おう!



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