第40話 景義、郎党を労うこと
その夜、景義は、助秋や縄五ら、郎党雑色衆を集め、とびきり上等な酒肴を与え、かれらの苦労をねぎらった。
由比ガ浜で獲れた新鮮な刺身の盛り合わせに、あわびやさざえなどの焼き物が、唾液を誘う、たまらない香りを放っている。
「一昨年の大倉御所にはじまり、昨年の姫御所、鶴岡八幡宮、そして若宮大路――たいへんな作事の連続であったが、みな、よくぞがんばってくれた」
景義はそれぞれの杯に、酒を注いでやった。
「これからもまだまだ作事はつづこうが、規模はちいさくなるであろう。そこでこれよりは、そなたらふたりをわしの代官とし、助秋には大庭を、縄五にはふところ島を任せることにする」
黒鬼の縄五は驚いて、口をあんぐり開けた。
「わしのような雑色が……よろしいのですか?」
「なにを言う。そなたは雑色ではない。すでにわしの立派な郎党じゃ。責任感が人一倍強く、信用に足る男じゃ」
「ありがとうごぜぇます」
感激のあまり、縄五は床に頭をすりつけた。
「助秋の言うことをよく聞いて、やり方を学ぶのじゃぞ。領民たちを大切に労わって、収穫が少しでもあがるよう、ことに当たってくれよ」
「ハハッ、この縄五、一命をかけて励みまする」
縄五の喜びようときたら、今すぐふところ島まで駆け出してゆくかと思われた。
――翌朝、景義は、日の出前に起き出した。
いつものごとく、鉢に一杯、牛の乳をいただく。
おろしたての新しい杖には、顔が映るほどに磨きがかかっている。
朝飯を急いでかきこむと、葛羅丸はじめ家来たちを引き連れ、輿に担がれて意気揚々出発した。
屋敷近くの一の鳥居から出発し、二の鳥居、三の鳥居と、参道を掃き清めていく。
そして本殿に朝の挨拶をしてから、境内の掃除を指揮した。
一匹一匹、馬の体調を診て、記録してゆく。
これが、かれの日課となった。
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