第30話 鶴岡八幡宮、完成のこと
すがしい早朝の光の下で、土鳩たちが喉をふるわせ、砂地をついばみ、にぎやかな営みをはじめている。
そのはるか頭上には、塗り立ての鳥居が、生き生きとした
どこの国の神域にも劣らぬ、立派な大鳥居である。
景義は杖をよりどころに、石畳の参道を、一歩一歩踏みしめた。
参道は、鶴岡八幡宮の正殿へとつづいている。
正殿の背後には、北山の、
まだ夜は明けそめたばかりだというのに、大工や人足が、はやばやと作業を始めていた。
有常の姿も見える。
最後の仕上げ作業のもと、正殿は、ほぼ完成に近い。
景義は、深い感慨をもって、見あげた。
……よくよく見れば、その「八」の字が、二匹の鳩が向かいあう図案になっている。
かるい
景義の姿に気づいて、腰に墨壺をぶらさげた、白い
大工たちの
ふたりは気さくに挨拶を交わした。
この棟梁は江戸浅草の生まれで、浅草寺の宮大工である。
当代一ときこえの高いその腕を買って、幕府が招いたのだ。
自分でも仕事の出来栄えに満足しているのだろう、普段は口数のすくない職人
「とうとうここまで出来あがりましたな」
「本当に、少ない日にちでよくこれだけの仕事をしてくださった」
景義は礼を言い、丁寧に頭をさげた。
偉ぶることのない景義の人柄に、棟梁はあわてて頭をさげ返した。
「いえいえ、わしは自分に出来ることをしたまでです。大工たち、人足たちがよくがんばってくれました。ぜひとも褒美をとらせてやってください」
「もちろん、もちろん。たっぷりと」
「一時はどうなることかと思いましたが、なんとか、鎌倉殿に御披露できるまでには漕ぎつけましたな。細かいところは、これからおいおい手を入れていきましょう」
「あの鳩の意匠」
と景義は、扁額を仰ぎ見た。「
「へぇ、京の石清水八幡宮に
「ふむ、なるほど。
ふたりの
※ 鶴岡八幡宮 …… 鎌倉に現存。現在は「上下二宮」となっているが、本作のこの時点ではまだ「一宮」であり、現在の山上の本殿も、大階段も、存在しない。
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