景義の、鎌倉屋敷はどこに? 2

◆ 和田義盛邸は、一の鳥居近辺にあった?



 ここで、『吾妻鏡』に目を向けて見ますと、次のような記事があります。


第三史料;


「1210 2月29日 戊子 朝雨降る


 和田左衛門の尉が宅 以南 焼亡す。

 南風 烈しく、片時に 人屋 数十宇 災す。」



 「和田左衛門の尉が宅」は、またしても火事にあったわけですが、それよりも、こうしてたびたび、同じ書き方で特記されるということは、「和田左衛門の尉が宅」というのは、ひとつのランドマークであったのではないか、ということです。


 第一史料も、改めて見てみれば「和田左衛門の尉等が宅以南=由井の人屋」とも読めます。


第一史料;

「懐嶋平権の守の旧跡・土屋の次郎・和田左衛門の尉等が宅 以南、由井の人屋に至り、片時の間に数町災す」


 ということは、和田宅以南が由比郷だったということになります。

 「和田左衛門の尉が宅以南」という、ふたつの記事に共通するワードは、和田宅が、小林郷と由比郷の境界をあらわす、ランドマークだったことを示していると考えられます。

 「『以』南」ですから、和田宅も由比郷内に含まれるのでしょう。

 和田宅は由比郷内、すなわち、一の鳥居、近辺にあったのではないか、ということです。


 そういうわけで、第一史料は、三の鳥居付近の話ではなく、一の鳥居付近の話なのではないか、という新たな説が浮かびあがってくるわけです。



      鶴岡八幡宮


(西)           (東)

        │

        │

        │

        │

        │

大庭景義宅   │

        │

土屋次郎宅   │

        │

和田義盛宅  一の鳥居


由比郷



 こう考えると……


・由比郷近辺の話であるならば、火事が小~中規模であることに、納得がいきます。

・わざわざ、第一史料に、「由比」の地名が出てくることが、とても自然です。

・第一史料の、文章のおかしな違和感も、解消されます。



◆ 和田義盛邸と、一の鳥居


 第二の史料(ベアトの但し書き)は、幕末のもので、それが本当に正しいかどうかを証明する術はありません。

 仮に、それが正しくても、よいのです。

 和田義盛の屋敷は、三の鳥居にも、一の鳥居にも、両方あったと考えても、よいわけです。


 和田義盛は、侍所別当という、御家人たちの第一人者でした。

 たとえば、戦国時代の城代の屋敷などは、防御の最重要ポイントに置かれます。

 若宮大路の入り口という、非常に重要な防御ポイントに、御家人筆頭の屋敷が存在するのは、とても自然なことと思われます。


 また、


 浜 ⇒ 一の鳥居 ⇒ 二の鳥居 ⇒ 三の鳥居 ⇒ 鶴岡八幡宮


 ……というこの「呼びなし」の順番に、必然性があるということも考えられます。


 一、二、三が、逆でもよかったわけです。

 実際、社宮に近い鳥居を一の鳥居としている御神域も、多々あります。


 しかし、鎌倉では、浜の鳥居が、一の鳥居です。

 一の鳥居のたもとに、御家人筆頭が陣取る、ということに、ある種の必然性があったかもしれません。


 当時の武士が、もっとも好むものは、「一番」「先陣」です。

 一の鳥居に陣取ることは、武士にとっての名誉であったとも想像されます。

 鶴岡八幡宮を本陣と想定すると、先陣は、そこからもっとも離れた場所になります。

 浜の鳥居のほうが一の鳥居とされた理由は、武士の都ならではの、そんな考え方にあるのかもしれません。



◆ 和田塚


 さて、その由比ガ浜の、その近辺に「和田塚」という場所があります。


 明治25年(1892)に道路工事を行った際、大量の人骨がでたため、合戦で敗れて死んだ和田一族の埋葬地とされ、和田塚という名がついた……と、されております。


 今となっては確かめようもありませんが、もしかしたら、その道路工事以前から、その辺りが和田氏の領地だったという話は、あったのかもしれません。

 だからこそ、「人骨」と「和田」という名が、結びついたのかもしれません。


(鎌倉には何度も戦があったのに、なぜ、和田合戦に限定されたのか。和田塚の命名の際に……)


 和田塚の辺りは、もともと和田氏に深く関連する土地ではなかったか、ということです。

 その可能性は、おおいにあると思います。

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