第十話 元カレ、メンヘラ?ばれる。
そうして元カレの部屋の鍵を手に握りしめて、私は島の家に向かった。
タクシーを呼んでから20分間も待たされるという珍事件はあったが、無事、島の部屋に着くことができた。
外見は結構古い感じのアパートだが、部屋の中は結構きれいだった。
島って意外と片付けできるタイプなのかなと、付き合っていたころには知らなかった事実が判明した。
島の部屋はどこかなと探していたら、明らかに一つだけ使い込まれてるオーラを放つ部屋があった。
何気に男子の部屋初訪問だったが、意を決してドアノブを回すと、元カレのにおい、でわなく(そうだけれども)、目の前に広がったのは、私の写真である。
それも十何枚も。
喉にラーメンが詰まったような感覚になった。
正味、島じゃなかったら一生喋れないレベルだった。
恥ずかしさや、言葉にできないモヤモヤ、少しうれしくなっている自分に腹立ったりしたが、そんな感情を押し殺して島の服をタンスからとった。
とりあえず3日分頼まれていたので、私が好きな服を3セットと靴下、下着をもって部屋から出た。
もう、なんかいろんなことが起こりすぎて、頭の中がふわふわしながらリビングの椅子に座って勝手に冷蔵庫を開けてジュースを飲んだ。
脳死でツムツムをしてタクシーを待った。
タクシーの中で、ふと空を見る。
ビルがイルミネーションのように輝くなか、満月が雲の中に隠れようとしていた。
深夜2時、良い子でなくても寝ている時間だ。
「こんな時間にどこ行くんですか?」
唐突にタクシードライバーさんに話しかけられた。
別に隠すことでもなかったので、正直に、
「恋人がケガしたらしいので病院に。」
「それは悲しいですね。」
「、、、はい。」
さすがに自分のせいだとは言えないので、私はだんまりなった。
「ところでお姉さん。もしかしてあのツグミさんですか?」
え?
「実はわたくし、あなたのファンなんです。サインもらえませんか?」
正体を見破られた私はあたふたしながら、
「サインはいいですけど、なんで私だってわかったんですか?」
「だって顔隠してないですよ?」
私は思い出した。
島に気づいてもらうために変装を解いたままだったことを。
「あ、忘れてました。」
「ストーカーとかそういうの増えてるらしいですから気を付けたほうがいいですよ。」
「はい」
優しい人だなと思った。
そんなやり取りをしていると、もう病院に着いていた。
ドライバーさんのスマホケースにサインを書いてタクシーを降りる。
スマホケースが私の写真がプリントされていたのは言うまでもないだろう。
キモい
さっき優しいと思った私の気持ちを返してほしい。
いや、ほんとに優しいんだろうけど!
まあ、こんなこともアイドルと言う仕事にはつきものなのだろう。
しょうがない。
そう思うしかないのだ。
私は病院に入り、真っ暗なロビーに月明かりのように明るいフロントへ向かう。
受付を済ませ、私は島の部屋を目指した。
自称キモオタのキモオタじゃない生活。 ぷにちゃん @yuutodayo
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