第19話 最終話 大地の巫女

樹理は楓とほたるに告げる。

「亜樹の言う通りにするぞ」

楓とほたると樹理は、五芒星の呪法の印の上に立つ。

グッ

印の上に立つだけで力を吸いとられた感覚だ。

(亜樹さんも樹理さんも、どうして普通にしていられるの?)

ほたるは驚く。


亜樹は瞼を閉じる。最後の一人は水の宮司のひしぎ、だが、ひしぎは千樹のかけた念呪縛にかかって、しばらくは動けない。


だけど、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

「渚、君も偉大な異能のせいで、ずっと苦しんできたんだろ?この場に入れば、そんな想いをしなくてすむよ。」


異能の力を制御出来ない渚は、亜樹の指示に従おうと発動の印に立とうとする。


「亜樹!」

「亜樹さん?!」


このまま渚が印の上に立てば、能力が消滅する代わりに大勢に者が犠牲になる。

「渚、しっかりしやがれ!」

楓が渚に呼び掛ける。


「渚さん思い出して、樹理と出会った時のことをー...樹理と過ごした日々をー」

千樹の声に渚がピクッととまる。

「渚、お前が私を信じてくれたように私もお前を信じてる。」

優しい目で渚を見る樹理。


(そうだ。異能の力を持つことで辛いこともあった。だけど、この力を持つことで樹理様と出逢ってひとりぼっちではなくなった。)

先ほどの樹理と渚の会話が過る。

「え、制御印の解放」

渚は戸惑う。制御出来ないから、普段制御印を記し自我を保っている、

「大丈夫だ。私が何とかしてみせる。」

強い言葉の樹理。


「樹、理さ、ま」

異能の力が弱まる。

(今だ!!)

樹理は印から離れて渚の力を、五芒星の呪法の力を抑える反転の術で消滅させた。

だが、その衝撃で、ゴゴゴゴという音と共にこ部屋が崩れ落ちる。


◇◇◇

衝撃の際、楓とほたると渚は千樹の結界に避難している。



「グッ、」

亜樹は咄嗟のことに建物の下敷きになっていた。そこから這い出ったところ。

「亜樹」

亜樹が金の鎖で渚を貫こうとするのが、視界に入る。

樹理は手にしてる数珠に霊力を込めて、亜樹に向ける。


(これでいい。自分は樹理に殺されることが贖罪だ。)

口角をあげる。




その時ー...亜樹の前に人影があらわれた。

樹理の霊力の込めた数珠を扇で受け止める。

「ひしぎさん?!」

ほたるが叫び、渚や楓も驚く。

千樹はこの状況が分かっまつたように冷静に見守っている。


「何の真似だい?ひしぎ」

亜樹がひじきに問いかける。

「能力で自分の家族を殺して、絶望にいた私には亜樹様と共にいることが救いだった。」

「ひしぎ...」

目を丸くする亜樹

「頼む。大地の巫女、亜樹様を殺さないでくれ。」

ひじきが亜樹を庇うように、樹理と対峙する。

「お前、」

ひしぎの必死さに樹理は霊力の放出を閉じる。

「っ、僕の負けだ。」

ひしぎに凍てついた心を解かされ、膝をつく亜樹。

樹理たちはほっと息をついた。

皆、ぼろぼろの状態だ。

(終わった。ようやく)

「生きていれば何度だってやり直せる」

千樹の言葉はこの場にいる全員の胸に響いた。


この日ー

6年前から続く大地の巫女樹理、金の宮司亜樹との闘いは幕を閉じた。





大樹は式神の上に乗っている亜樹を見つめて涙ぐむ。

「約束通り、この街を救ってくれましたな。巫女殿。」


◇◇

数日後ー...

亜樹は自分の水晶の城を異能者たちを救う組織の拠点とした。


大樹から街を救った報酬を受けとる樹理。

「受けとるんですか?」

渚が苦笑する。

「当然だ。等価交換は原則だろう?」

笑みを向ける樹理。

◇◇◇

1ヶ月後

樹理と渚、楓とほたるは亜樹とひしぎ、春雷と時雨、千樹と大樹と共に軽井沢の別荘に旅行に来ていた。


◇◇◇

軽井沢の別荘は筧一族が所有していた土地を大樹が引き継いだものだ。

庭でバーベキューをする一同

お肉や野菜を焼いている。

「はい。お肉焼けましたよ。樹理様」

渚が樹理に手渡す。

「ありがとう。渚」

紙コップに麦茶を入れて手渡す樹理

「どうも」

にこにこしている渚


亜樹は樹理と渚を微笑ましい目で見つめる。

ひしぎが亜樹に肉と野菜を入れたお皿を手渡す。

「どうぞ」

薄く笑みを浮かべている。

「ひしぎ...」

目を丸くするも亜樹は微笑む。

「いただくよ。」

春雷は楓と肉の取り合いをしている。

「春雷、これは俺の肉!!」

「早い者勝ちだ」

ほたると時雨は談笑をしている。

「このお肉美味しいですね。時雨さん」

「そうね。ほたる」


室内のソファーに座って寛ぐ千樹が大樹が、外の光景を見て穏やかに微笑む。




◇◇◇

夜空に輝く星空

ベランダに置かれてるチェアに座って星を眺めている。

「樹理、ありがとう。君のおかげで僕は救われた。」

亜樹が隣に座る。

「私だけの力じゃない。誰1人欠けても出来なかった。それに」

樹理は子どもの頃、桜の木の下で笑いあった日々を思い出す。

「救われたのは私の方だ。兄さん」


亜樹は樹理の言葉に目を丸くする。

二人は仄かに頬を染めて、一緒に星空を眺めた。




◇◇◇

エピローグ

ここからはその後に起きたことを記しておこう。

楓とほたるは、春雷と時雨と共にシェアハウスで暮らしている喧嘩しながらも、楽しくやっているようだ。


千樹と大樹は、全国に散らばった筧一族の生き残りを一つの土地に結集させて、一族の再興を目的としている。

本家と分家の垣根をなくしていくことを誓ってー...


兄である金の宮司の亜樹は、水の宮司のひしぎと共に全国の異能者たちの救済に回っている。

宮司の衣装に身を包んで山頂を歩く二人


『1人じゃ難しくても、誰かと一緒なら頑張れる。』



◇◇◇



コンコンとドアがノックされる。

「樹理様、次の街は風を操る国の王が大地の巫女に依頼があると相談が入ってます。」

制御印は消えて、白いブラウスに紺のチェックスカートにブーツ。髪の毛を二つに結んでいる。

以前より表情が大人びている。

樹理は今まで起きた出来事を記していたノートを閉じる。

「今、行く。」

穏やかに微笑む樹理

樹理は髪の毛を一つに結んでから部屋を出る。


樹理が記したノートは著書になり、後の世にも残されていくことになる。


目録はー...



『大地の巫女』

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大地の巫女 Rie🌸 @gintae

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