第90話 お肉の魅力

 王城でパンタナル王国の地図を貰い、最後に夜明けの風バーティーから報告が来た街を教えて貰った。

 16の街を飛び越えて、次に向かうであろうと思われる大きな街ハロンに跳ぶ。

 城門を通過するのが面倒なので、姿を隠したまま冒険者ギルドの看板が上がる建物の近くに降りる。


 久し振りの冒険者ギルド、国は違えど建物の造りに変わりはない。

 ショートソード一本の新顔を、好奇心丸出しの視線が突き刺さるが完全無視で受付カウンターに向かう。


 夜明けの風と聞いても知らないと素っ気ない返事に、黙ってカウンターに銀貨を乗せて再び尋ねてみる。


 「女二人と男五人と言われてもなぁ。適当で良いなら答えるぞ」


 居ないと判ったのが収穫だ、銀貨を滑らせてカウンターを離れると食堂に向かう。

 久々のエールを楽しみ、次は何処の街に向かえば良いかと地図を睨む。

 薬草採取程度の仕事をしながら街を移動し、情報収集しているのでそうそう街から街へとは移動していないはずだ。

 報告書は行政監督官と街の教会に届けることを思いだして、街の教会に向かう事にした。


 冒険者ギルドを出てぶらぶらと市場を目指すが、何時もの如く後をついてくる奴がいる。


 「どうしますか?」


 「そこの物陰で姿を隠そう。序でに手足の骨を折っておけ」


 そう言って横道に逸れて(隠蔽!)と、僅かの間を置いて5人の男が駆け込んでくる。

 ちょいっと足を引っかけて、スライディング土下座をしたところを狙い、脇腹にサッカーボールキックを一発。


 〈ギャッ〉〈グエッ・・・〉〈ゴン!〉ん、擬音も聞こえるが、全員全治二ヶ月は間違いなさそう。

 市場は後回しにして教会に向かう事にする。


 ハロンの街で一番大きな教会を訪ねて、以前教皇達に作らせた統括教主の使いの身分証を示して、ザンド達が来ていないか尋ねたが見ていないと言われてしまった。


 直ぐに会えるとも思っていないので冒険者ギルドに引き返して、周辺の森の情報を集める事にした。

 取り敢えず空間収納に保管しているオークを、3頭ほど査定に出す事にした。


 「アーン、オークじゃと。坊主おちょくりに来たのか」


 俺は未だに坊主扱いかよ、黙ってシルバーランクのギルドカードを見せて、愚図愚図言わずに解体場に案内しろと脅す。

 しかし俺って迫力ないのよねー、鼻で笑われたのでカウンターにオークをドンと置いてやった。


 「じゃー此処で査定しろ! 後2頭有るから早くしろ!」


 〈馬鹿! こんな所に出すんじゃねぇ!〉


 「だからオークが3頭って言っているだろうが! なんならお前の頭の上に乗せてやろうか、どうなんだ返事をしろ!」


 「おいおい、買い取り査定のカウンターにそんな物を乗せるな」


 「あーん、この糞馬鹿がオーク三頭と言っているのに解体場に行かせないから、此処に出すしかないんだよ。それとも何か、此処の冒険者ギルドって薬草しか買い取らないのか」


 「あー、判ったよ。此奴を仕舞って解体場に行ってくれ」


 〈ゴン〉って音がしたので振り向くと、買い取り係のおっさんが頭を押さえて呻いている。

 涙目のおっさんについていき、解体場でオーク三頭を並べる。


 「ほう、どれも一突きで倒しているとは良い腕だな。此でシルバーランクとは可笑しいぞ」


 「ランクアップには興味が無いんだ。それよりオーク以上に危険な野獣の居る場所がこの近くにあるかな?」


 「例えば?」


 「お肉の美味しい奴が良いな。オークキングの肉が無くなったので、オークキング以上の美味しいお肉が欲しいな」


 「また、大きく出たな」


 「レッドビーの蜜を採取するくらいの腕は有るよ」


 持っているレッドビーの蜜壺を見せて信用して貰い、強い野獣の多い場所を教えて貰った。

 街を出て東に向かい、森を10日以上奥に行くとゴールドランク以上のパーティーで倒す野獣がいると聞き、早速行ってみることにした。

 森の10日って、今や転移魔法でひとっ飛びの距離なので楽ちんだ。


 * * * * * * *


 翌日から短距離ジャンプを繰り返して、ブラウンベア一頭,ビッグエルク一頭,オークキング一頭を狩ることが出来た。

 嬉しいのはカラーバードの繁殖地を見付けたので、乱獲に注意しながら30羽以上確保出来た事。


 このままハロンの冒険者ギルドに行くと不審がられるのは目に見えているので、ハロンの二つ隣の街ミルバに向かう。

 此処でもお約束の鼻で笑われたが、カウンターの上にビッグエルクを出しても良いのかと言ったら、本気だと思われて解体場に入れてくれた。

 初めての冒険者ギルドは、一々面倒くさい事が多い。


 ブラウンベア一頭、ビッグエルク一頭、オークキング一頭を並べ、ブラウンベアの魔石とオークキングの魔石と肉を引き取ると伝えて食堂に行く。


 エールを楽しんでいると偉そうなのが出てきた。


 「オークキングを持ち込んだのはお前達か?」


 「お肉なら売らないよ」


 「お前も冒険者なら、オークキングの肉が人気で高値なのは知っているだろう。滅多に手に入らない肉だ、助けると思って一塊だけでも置いていってくれ、頼む」


 下手に出られちゃ断りづらい、仕方がない解体して貰う手間賃として一塊を譲ることにする。

 一番良い所は取るなよと釘を刺しておくことを忘れない。

 美味しい所は俺の胃袋に直行するんだから。


 「二人ともシルバーランクだが、ギルマス権限でゴールドに格上げしておくからな」


 またかよ-と思ったが、面倒なので黙っておく。


 〈おい、オークキングだってよ〉

 〈あんな小僧と女がかよ〉

 〈ギルマス権限でゴールドって、甘くねえか〉


 「あーん、お前等何か文句が有るのか? 解体場に行ってみろ、ブラウンベアとビッグエルクにオークキング、全て一突きで倒している。どれでも一頭一突きで狩れるのならお前達もゴールドに格上げしてやるぞ」


 ギルマスに睨まれて、食堂が静かになる。


 〈オークキングなんて見たこと無いや、行ってみようぜ〉

 〈ブラウンベアを一突きって〉

 〈馬鹿! 三頭とも一突きって言ったぞ〉


 ギルマスの姿が消えると食堂が騒めき、ゾロゾロと解体場に向かう冒険者が多数。


 「何の騒ぎかと思ったら、なんでアラドとサランが居るの?」


 「あっ、こっちに来てたの。ハロンに居るかなと思って、ハロンでザンド達のことを尋ねたら知らないって言われてさ」


 「ハロンで俺達の事を尋ねたのに、何でミルバに居るんだ。それとこの騒ぎは何だい」


 「ちょっとお肉が欲しくて、獲物を持ち込んだら騒ぎになっちゃってさ」


 「まぁ、あんた達は森を突き抜けてくる様な人達だから、とんでもない物を持ち込んだんでしょう」

 「そうよねぇ、宰相様って言われた人は国王様になっちゃってるし」

 「そうそう、アラドってとんでもない事をしれっとやっちゃってるからなぁ」

 「ねぇ、とんでもないって言えば、とんでもない額の振り込みが有ったんだけど」

 「其れも全員にだぞ!」


 「呉れる物は貰っておけば良いじゃん。其れとも突き返す?」


 「有り難く貰っておきます。はい」


 出会って丁度良いので、用意が出来たと連絡が来るまで夜明けの風一行と同行することにした。

 聞けばミルバに来て四日目で、当分この街に居る予定だとのこと。

 ザンド達はブラウンベアやオークキングを見に解体場に行ったので、翌日昼過ぎにギルドの食堂で会うことを約束して別れた。


 * * * * * * *


 翌日お肉を引き取りに冒険者ギルドに出向くと、受付で呼び止められてご領主様の使いの方がお待ちですと言われた。

 こんな時は碌でもない事が起きる前兆なので、思わず顔を顰めてしまった。


 「オークキングを持ち込んだのは、その方らか!」


 でたよ、下っ端に限って虎の威を借るなんとやら。


 「そうですが、何か御用ですか?」


 「当地を治めるベルザ・ムスラン子爵様が、オークキングを買い上げてとらすとの仰せじゃ」


 「えーと、それは冒険者ギルドと交渉して下さい。肉の一部は冒険者ギルドに卸しましたので」


 「馬鹿者! 冒険者風情が子爵様のご要望を断ると申すか!」


 面倒だねぇ~、食堂に居た奴等が興味津々で覗いているし、ザンド達は知らぬ顔で見物人の後ろから眺めている。


 「恐れながら、王家の通達で冒険者に対する無理難題は禁止されていると聞きましたが」


 「小癪なことを申す小僧だな。冒険者風情が子爵様に意見しようとはな」


 背後に控える護衛に顎をしゃくると、一応騎士の格好の男達が腰の剣に手を当てて前に出て来る。


 「サラン殺さない程度に頼む」


 そう言った瞬間、二人の護衛は剣の柄に手を当てたまま後ろに吹き飛び、静まりかえるギルド。


 「おっ・・・お前は」


 「冒険者に殴られましたと、帰って子爵様に報告しろ」


 そう言って使いの男に往復ビンタをお見舞いして、護衛共々冒険者ギルドから放り出した。


 「相変わらず乱暴ねぇ」

 「しかも、貴族を屁とも思ってないこの態度」

 「どうする気だ?」


 「ムスラン子爵と言ったっけ、あんな馬鹿を使いに寄越すようじゃ駄目だな。ちょっとご挨拶に行ってくる。今夜ホテルに訪ねて行くよ」


 お肉と魔石を受け取り、代金はサランの口座に入金して貰う。


 ザンド達と別れて冒険者ギルドを出ると、物陰から上空にジャンプして去りゆく馬車の先回りをする。

 姿を消したまま子爵邸で待つこと暫し、顔を腫らした使いの男が足音荒く邸内を歩き扉をノックする。


 〈入れ!〉の声に室内に足を踏み入れると、恭しく一礼して報告を始めた。


 「お前は、冒険者如きに侮られて尻尾を巻いて逃げ帰って来たのか」


 この男も駄目だ、使いの男が傲慢になるのも無理は無い。

 後ろから使いの男の股間を蹴り上げると、悶絶する男をふんぞり返る子爵目掛けて投げつける。


 〈うおーぉぉ〉男を抱えて椅子ごと後ろに転倒して呻いている。

 背後に控える護衛達は、何が起きたのか理解出来ずに目を白黒させている。

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