第69話 パンタナル王国

 噛み合わない話を総合すると、ホーランド王国の西に在るパンタナル王国は、大森林の南から森を西に抱き込む様に北に延びた国らしい。

 反してホーランド王国は大森林の南から東に位置する様だった、王国の地図は街と街を結ぶ街道しか書かれてないので知らなかったよ。

 此の世界では、森なんて東西南北何処にでも有るのが当たり前だったから、大森林なんて初めて聞く言葉だ。

 つまり国同士の接点は大森林の南で接していて、その場所がホーランド王国から見て西って事ね。

 森を突き抜けたらパンタナル王国って、面倒くさそうな国に出てしまった様だ。


 二人の怪我は治したが、結構血が流れていたので直ぐに動き回るのは無理なので、野営をする事になった。

 捕らえた兵士達は縛り上げて転がしているが、後でじっくり尋問だ。


 〔夜明けの風〕のリーダーであるザンドから色々と話を聞いたが、頭が痛くなってきた。

 パンタナル王国では、冒険者は国の定めた服装を求められる。

 一目で冒険者だと周囲に判らせて、余計な争い事を減らす為だと言われている。

 別に強制ではないが、決められた格好以外の冒険者は官憲から何かと嫌がらせを受けたり、下手をすれば身に覚えの無い罪状で拘束されることもあるっそうだ。

 冒険者ギルドが抗議しても、服の強制はしていないし行動の自由も保障していると突っぱねられるらしい。


 冒険者に魔法使いがいるのを訝しがったのは、授けの儀で魔法を授かれば魔力60以上の者は全て、国か教会に所属しなければならない事になっているってさ。

 つまりまともに魔法が使える者は、冒険者にはなれない仕組みなのだ。


 国と教会は、格安で魔法使いを独占支配出来る事になる。

 魔力が80以上の者は、全て国の魔法部隊に所属しなければならず、それ以下の者でも優秀な者は国に引き抜かれる。

 魔力が80以下の者が、各地の貴族の魔法部隊に配属されるそうだ。

 パンタナル王国が好戦的だとは聞いたが、強力な魔法部隊が有ってのことの様だ。


 もっとも魔力が60以上の者が全て優秀な魔法使いとは限らない、魔法の扱いが下手で落ちこぼれの烙印を押されて、部隊から放り出される者も相当数居るらしい。


 * * * * * * *


 縛り上げた連中を尋問すると、短期訓練に出て冒険者の中に女がいるのを見つけたので、後をつけてきて襲ったらしい。

 此処はフランガの街から二日の距離で、兵士達は滅多に来ない場所らしいが野外訓練でこの方面に来た一行らしい。

 冒険者は流民なので、冒険者ギルドの目が届かない所なら何をしても許されると思っているのが、言葉の端々から判る。


 手足の骨を折られたが殺されないので、俺達が貴族を恐れてこれ以上危害を加えることが無いと思っている様で、強気の態度を崩さない。

 大した事は聞き出せなかったが、放置すると面倒な事になるのがはっきりしているし、指揮官の男は俺を始末しろと喚いたので皆殺し決定。

 夜明けの風の連中も、生かして帰せば自分達が犯罪者にされるので殺せと言っている。


 殺されると判り、震える指揮官と11人の兵士を氷漬けにしてマジックポーチに入れる。

 俺達が気軽に魔法を使い、その上マジックポーチ持ちだと知り吃驚している。

 此の国では、お財布ポーチまでは冒険者にも売って貰えるが、それ以上の物は買えないし、それだけの稼ぎが有っても何かと強請られるので無理だと諦め顔で言われた。


 結界魔法のドームの中で色々話を聞いたが、パンタナル王国って独裁色の強い軍事国家って印象だな。

 ホーランド王国が危険視する筈だ。


 逆に俺達の事を聞かれ、ホーランド王国では冒険者は好き勝手な服装で、移動も自由と聞いて羨ましがっている。

 勿論魔法使いも好きな職業に就けると聞き生まれた国を間違えたと嘆く。


 国は違えど統一通貨なことと、ギルドカードは同じなので行動に問題ないと思っていたら、登録地以外の場所へ移動すると街の出入りに銀貨一枚を徴収されると聞き驚いた。


 冒険者ギルドのカードを持っている者は無料だがそれとは別に各地の領主が街の出入りに管理税を徴収しているんだと。

 金の無い者の移動を制限して、住民が他国に流れるのを防いでいる。

 冒険者だけで無く住民も同じ扱いなのでギルドとしても文句が言えないそうだ。


 こんな国に居ても仕方がないので、さっさと引き返そうかと思ったが大量の血を流した二人の回復が出来ていない。

 放り出すのも可哀想でどうしょうか迷っている間に、消えた兵士の捜索隊に俺達の存在が知られてしまった。

 20人近くの人間が争った後は、数日では隠せないし血の跡も見つかり周辺を捜索し始たのが運の尽き。


 隠蔽魔法の掛かったドームと言えども、ぶつかってしまえば其処に何か有ると判るのは当然だ。

 外から中が見えないのは判っていても、此の後の展開を思って夜明けの風のメンバーは震えている。

 ドームの魔力を補強し20日以上は耐えられる仕様に変更する。


 「もう駄目だわ、逃げられない」


 「心配するな、陽が暮れたら堂々と出て行ける様にするのでゆっくりしていろ」


 「取り囲まれているし、人を呼びに行っているから闇に紛れて逃げるのも無理だ。それに夜の森を歩くなんて無茶だ」


 「俺とサランは魔法使いだぜ、このドームだって奴等には破れない。森を抜けてきた俺達の実力を見せてやるよ」


 街の方角を聞き、サランに後を頼み彼等の前から姿を消す。


 〈おい・・・消えたぞ〉


 「お静かに、騒げば外の兵士に聞こえます。アラド様に任せておけば大丈夫です」


 サランに言われて静かになるが、不安な気持ちは隠せないのか顔色が冴えない。


 * * * * * * *

 兵士達に見つけられた現在のドームから数百m離れた場所で、人が近寄れない藪の中に一時避難用のドームを作る。

 引き返しながら真っ直ぐな木を4本ばかり調達してから、騒ぐ兵士の横をする抜けてドームに帰った。

 流石に8人も居るドームの中に遠くからジャンプする勇気は無かった。


 「此れで担架を作ってくれ。陽が暮れたら移動するが体力の無い二人は担架で運んでいくぞ」


 「あんた、姿が消えたり現れたりしているが、どんな魔法を使っているんだ」


 〈不思議よねえ。その棒も何処から持って来たの〉

 〈この集団の中を通ってきたのか〉

 〈本当に逃げられるんだろうな〉


 「知らない方が良いぞ、知った所でどうにもならないしな」


 「そうするわ。あんたなら何でも出来そうに思えてきたわ」


 陽が暮れる前に、サランの備蓄食料を出して腹拵えをする。

 テーブルを出し、その上に食料を次々と乗せると、流石に腹が減っていたのか皆黙々と食べ始めた。


 周辺を捜索していた者達も呼び寄せたのか30名以上の者が野営の準備をしている。

 彼等には暫く此処で遊んでいて貰わねばならないので、後でサービスしてやろう。


 * * * * * * *


 とっぷりと陽も暮れて、周囲を囲む兵達も見張りを残して焚き火を囲み談笑している。

 兵士達の背後の暗闇の中にジャンプしてから、ドームに向かって歩く。


 〈誰だ!〉


 おっ、真面目に見張りをしている様だね。


 〈何だ、誰か居るのか?〉

 〈はっ、不審な男が居ます〉


 その声を聞いて、談笑していた一団が武器を手に立ち上がる。

 それには構わずドームに近づくと行く手を阻まれた。


 〈不審な奴だな、何処から来た!〉

 〈此処に何の用だ!〉

 〈流れの冒険者の様だが、カードを出せ!〉


 「煩いな。あんた達は俺のキャンプ地で何をしているんだ?」


 〈お前のキャンプ地だとぉ〉


 お~お、語尾が跳ね上がってますぜ。


 「聞こえなかったの、街の出入りの度に金を毟り取られるのが嫌だから、此処で生活しているのさ」


 取り囲む兵達の中で、少し身形の良い男が薄笑いを浮かべる。


 「ふむ、此処で長く生活しているのなら教えて貰おうか」


 「何をかな、御領主様の手先に、冒険者風情が教える事など無いと思うんだが」


 お~お、兵士達の気配が変わったね。


 「其処の草叢に有る血の跡は何だ? 大勢の者が争った後も有る、知っていることを全て話せ!」


 「お前の様な屑の群れが、連れの女性に目を付けて襲って来たので返り討ちにした後だよ。領主の番犬だと思って、冒険者を舐めすぎた報いだな」


 〈殺すな、叩きのめして何もかも喋らせるぞ!〉


 煽るだけ煽ったし、俺の顔を覚えて女連れだと知ったから、夜明けの風達には目が行く事はあるまい。

 一暴れして、ドームに逃げ込んだらおさらばだ。

 これ見よがしに漆黒の剣を引き抜き、周囲の者を叩き伏せてドームに向かう。

 

 〈ギャアァァ〉〈エッ〉〈どけっ〉一斉に襲い掛かろうとするが左右の者が邪魔で身動きの取れない者が多数いる。

 斬りかかり槍を突き入れて来るが、避けもせず受けながらドームに向かって歩くと、驚いて攻撃の手が止まる。


 〈何だ!〉

 〈どうなっている〉

 〈攻撃が効かないぞ!〉


 「お前達のひょろい攻撃が、俺の結界魔法を破れると思っているのか? 世間知らずの馬鹿丸出しだな」


 笑いながらドームに手を置き、吸い込まれた様に見せながら消えて見せた。


 〈糞ッ、攻撃しろ! 何が結界魔法だ! あんな物は、全力攻撃すれば簡単に潰せる代物だ! やれ!〉


 雄叫びを上げながら、一斉に見えない壁に向かって切り込み突き刺してくる。


 中に入ると、夜明けの風のメンバーが何とも言えない顔で迎えてくれた。


 「良いのか、あれ程挑発したらあんたは逃げられないぞ」


 「ん、言っただろう。俺達は森を抜けて来たって。幾ら顔を覚えられても関係ないね。あんた達が口を噤んでいればすむことさ。それに喋れば自分達も無事では済まないだろう」


 「言う訳無いし、誰に喋っても信用して貰えないな」

 〈頭の可笑しな人扱いされるのが落ちね〉

 〈で、どうやって此処から出て行くんだい〉

 〈それよ、兵隊達が興奮している所に出て行ったら、袋だたきにされて死ぬわ〉

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