第68話 森に遊ぶ
望みの物か、少し考えて王都の一番大きな市場の周辺に、家を一軒欲しいと伝える。
そう答えてから、空間収納から一つの魔玉石を取り出す。
ブラックタイガーの魔石で魔力が673の物、それに治癒魔法を700に火魔法と風魔法を250ずつ込めたものだ。
透き通る様な赤い炎が揺れ金色の煌めきが踊る、治癒魔法主体で魔玉石を作ればどうなるのか試した一つだ。
依頼の品より二回りほど小さいが、中々の出来映えだと自負している。
「それは・・・」
「此れをオークションに掛けて下さい。オークション価格の5倍が依頼料で宜しければ、その魔玉石を全てお譲りします」
国王は二つ返事で了承し、交渉は成立した。
グルマン宰相と話し合い、オークションに出品した物と王家が受け取った物の代金は、新たに商業ギルドにも口座を開設するのでその口座に入金してもらう事にした。
市場の周辺で家をとの要求は、適当な物が見つかり次第カリンガル侯爵様が代理で受け取り、代金は王家の支払い代金より差し引く事で話が決まった。
帰りの馬車の中で、侯爵様から家の事について尋ねられた。
「王都に住まう事にしたのかね」
「そうでは在りません。ホテルに宿泊して、俺達の食糧確保は面倒なんですよ。それなら料理人を雇って大量に作らせた方が楽ですし、希望の物が望むだけ手に入ります。それと王都でしか手に入らない物も有りますから」
金なら腐るほど有るし、ホテルに泊まるより気兼ねなく寝起き出来る場所は必要だ。
どうせ食糧調達拠点を作るのなら、王都で一番賑わっている市場の近くが良いに決まっている。
拠点が有ればセイオスも旅が減るし、王家や貴族の耳も楽だろうと思ったのは内緒。
家は王国が責任を持って手配してくれるが、代金は支払って借りは作らない。 侯爵様には、家の維持管理と無作法者をあしらえる者や料理人を紹介して貰うつもり。
侯爵様の信頼出来る者ならば、俺達の動向は筒抜けだがそれだけに他からの雑音は遮断してくれるだろう。
依頼品の受け渡しも終わったので、侯爵様に1~2ヶ月したら帰って来るからと言って王都を後にした。
行き先はランゲルの街テボリエ鍛冶店、三月前に注文した剣を受け取りに行く。
* * * * * * *
カリンガル侯爵とアラド達が下がると、国王はグルマン宰相に命じる。
オークションに出品する魔玉石を必ず落札せよと。
「こんな物は我が宝物庫にも無いぞ! 其れどころかこれらの品々に比べれば、宝物庫に眠る魔玉石が石ころ同様に思えるわ」
「此れを見れば、カリンガル侯爵の推測も強ち間違ってはいないようです」
「あの二人が、魔玉石を作れると言う話か?」
「はい、魔玉石を作る方法は判っています。魔石を浄化して魔法を込めれば魔玉石を作れます。しかし、魔玉石を浄化出来る魔法使いは少ないのです。光の魔法使いの中で、極一部の者だけが出来ると言われています。魔力を込める事もです。あの二人は桁違いの治癒魔法を使いますし、サランに至っては氷結魔法に風魔法と火魔法が使え、土魔法まで使えると報告が来ています。そしてこの五つの魔玉石と揃いのペンダントです」
「それが本当だとしても、此れほどの魔玉石を誰も作ったことが無いのも事実だ。あの気まぐれな男が、此れからも大量に此れ等の品々を作るとは思えん。手に入るものならば、必ず手に入れておけ」
アラドの要求を受けて出品された魔玉石は、オークション開催通知の中で目玉商品として紹介されて注目を集めた。
その魔玉石の紹介文には「透き通る様な赤い炎が揺れ金色の煌めきが踊る」と書かれており、カリンガル侯爵陞爵祝いの場で見た魔玉石の事を思い出した者も多かった。
* * * * * * *
サランと二人のんびりとランゲルに向かい、注文の剣を受け取ると森に向かうことにした。
夏の盛り、これから秋にかけて森の恵みが期待出来る。
もう魔石も魔力石も必要としていないので、食糧が尽きるまで森で遊ぶつもりだった。
サランには一直線に森の奥に向かえと言ってある。
ランゲルの近場でうろうろして、他の冒険者の稼ぎを邪魔する気はないし、鉢合わせして面倒事になるのも避けたかった。
ジャンプを繰り返して一週間、それからはのんびり森を散策しながら奥地を目指す。
多分歩きだけだと二週間以上奥に来ているのだろう、エルク、ゴート、ゴリラもどきにオークキングと獲物も豊富だが追い払うだけで狩る事はしない。
オークキングだけは二頭狩って空間収納に保管した。
崖を下り川を越えると蜥蜴の大群に出会ったが、ちょっと恐竜じみているので多分ドラゴンなんて呼ばれているんじゃないかと思う。
餌が来たって感じで近づいて来るのでジャンプして離れ、2/100程の魔力を込めた結界の中から見物する。
サランもこんなに森の奥に来たことはないので、珍しい野獣にわくわくだ。
もっとも二度ほど蛇と出会した瞬間、俺を見捨てて逃げてしまい迷子になりかけたのはご愛敬。
迷子になった時の鉄則、ウロウロせずにじっとしている事。
蛇に睨まれてじっとしているのは恐怖だが、結界には隠蔽を掛けているので俺に気付かずに餌を求めて去って行った。
何処に行ったのか判らないサランの為に夕暮れと共にライトソードを空に向けて立てる。
もっともライトソードでは細すぎるので、光の柱を天空に突き立て時々消しては灯しているとサランが現れた。
俺の傍にジャンプしてきて土下座まがいの謝罪を始めたが、硬直して餌になるより進歩したと褒めておく。
ナビゲーターに逃げられたら、俺は永遠の迷い人になるのでほっとしたのも本当だ。
川を越え岩の壁に突き当たる迄の10日程の間は、爬虫類に出会う事が多かった。
岩の壁、最初は崖かと思ったが、所々にある裂け目や出っ張りを利用してジャンプし、頂上に着くと反対側に落ち込んでいて屏風の様な岩の壁と判った。
森に入って40日以上経ったと思う、果実や茸がぼつぼつ採れ始めて秋を感じ始めた頃剣戟の音に気付いた。
野獣との闘いでは無い、金属の打ち合う音に森を突き抜けた事を知った。
ジャンプを繰り返して時々歩き旅なので、他の冒険者ならどれ位進んだ事になるのか判らないが、人里近くなのは間違いなさそうだ。
隠蔽を掛けたまま音のする方向に向かうが、移動は木の枝を利用し争いのまっただ中に出ない様に注意する。
5対11の争いだが、離れた所に二人倒れている。
数の多い方は明らかに兵士で、5人の方も揃いの服を着ているが冒険者の様だった。
5人の内二人は女でそれを庇って闘っているが、兵士の方は手槍を使い楽々と攻めたてている。
兵の後ろには、指揮官らしき男が笑みを浮かべて闘いを眺めている。
絵柄としては兵士側が悪役に違いないが、取り敢えず状況を確認することにした。
サランは指揮官らしき奴の背後の茂みに、俺は冒険者らしき集団から離れた木の影にジャンプしてから姿を現す。
目聡く見つけた指揮官らしき男が喚き立てる。
〈誰だ! ん・・・冒険者の様だが妖しい奴め、構わんその男も始末しろ!〉
「すまん、助けてくれ!」
問答無用で始末しろって事は、殺されても文句は有るまい。
話しも聞きたいので殺すのは後だ「サラン、殺さずに叩きのめせ!」そう怒鳴りながら長剣を引き抜き峰を返して兵士の後ろに回り込む。
冒険者達を半円に取り囲んでいた兵士等は、俺が後ろに回っても即座に対応が出来ず攻撃が鈍る。
その隙に、俺に声を掛けた男が切り込んで行ったので、それに合わせて後ろから兵士を叩き伏せる。
(峰打ちじゃ)などと心で呟きながら、久し振りに真剣を振る。
まぁ、俺も本気になれば此れくらいは出来るさ、などと思いながら指揮官を見ると、頭を抱えて蹲っている。
傍らでサランが、木剣を肩に男を見下ろしている。
「すまんが殺さないでくれよ。ちょっと聞きたい事が在るんだ」
そう告げてから倒れている二人に近づいてみる。
重傷だが幸い二人とも意識が有るので(ヒール!)と呟いて治癒魔法で治療しておく。
「あんた、見慣れない格好だが魔法使いなのかい? いや、礼が先だな。助かったよ有り難う」
「此奴等は兵士の様だが、状況を説明してくれ」
「此の地の領主軍の奴らさ。冒険者相手だと好き勝手をしやがる」
〈此奴等を殺しておかないと、又何かと絡んで来て殺されるわよ〉
〈虫唾の走る屑共を、何故生かしておくのよ!〉
「まぁ落ち着けよ。俺達は〔夜明けの風〕ってトランベに属するパーティーだ。二人とも冒険者の様だが、何故魔法使いまでも居るんだ」
「あーちょっと待てよ、質問は俺からだ。助けてやったんだから、それ位の礼儀は持ち合わせているだろう」
「すまない、何でも聞いてくれ」
「んじゃ、此処って何処?」
「はあ~ぁ、あんたトランベの住人じゃないのかよ」
「森で迷ってしまってね。あんた達が闘っているのを見て人里近くだとやって来たのさ。それより変な事を言ったな、魔法使いは冒険者と一緒に居ちゃいけないのか?」
俺の質問が理解出来ないのか、顔を見合わせている。
「質問を変えよう、此処はホーランド王国じゃないのか」
「ホーランド王国だって! ホーランド王国ってこの森の果てにある国だぞ!」
やはり、真っ直ぐ進みすぎて突き抜けたみたいだな。
「此処ってなんて国なんだ」
「パンタナル王国だ」
ランゲルの街から森を西に突き抜けたら、パンタナル王国に出たって事か? 話がよく見えないので腰を据えて話し合う事にした。
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