第67話 依頼の品々

 オルデンの冒険者ギルドの受付に行くと、前回の事を覚えていた受付が黙ってギルマスの所に案内して呉れた。


 「おう、今度は何を持ち込んだんだ」


 「やだなぁギルマス、そんなに大層なものは持って無いよ。熊さん三種に猫一匹と山羊さんかな」


 ギルマスの眉が片方、ピクリと上がる。

 器用な人ね。


 「後ろにいるのは? 冒険者には見えないが」


 「あ~、貴族のボンボンね。暇だからってついてきたの」


 セイオスが片手で顔を押さえて呻いている。

 獲物を持ってオルデンの冒険者ギルドに行くと言ったら、興味津々で付いてきたんだ、此れくらい言ってもバチは当たらないだろう。


 アスフォールの森で討伐した物より大物を持っていると知った時の、セイオスの顔ったらなかったね。


 ゴールデンベア、4頭

 ブラウンベア、4頭

 ブラックベア、3頭

 ビッグホーンゴート、1頭

 ブラックタイガー、1頭


 並べていくと、セイオスが熱心に見て回る。

 へーとかホォーとか言いながら真剣にみているので、解体主任が笑っている。 今回は魔石だけを引き取り、残りは売却すると告げる。

 序でに蛇のことを聞いてみた。


 「緑の斑模様の蛇って、魔石を持っているの?」


 「ああ、緑の斑模様って、フォレストスネイクの事か? スネイク類は魔石は持って無いな。あんなのと出会ったら、創造神様に祈ってから即座に逃げるんだな。まぁ、祈っている暇があったら逃げろって言われているがな・・・って、出会ったのか」


 「見たけど直ぐに逃げたよ」


 魔石が採れないんじゃ必要無いね。

 食堂でエールを飲みながら査定の結果を待つ。


 「アラド殿はあれを何処で狩ってきたの」


 「ん、王都の森を南に10日以上奥に入った場所だね」


 それを聞いたセイオスが、10日以上と呟いて首を振る。

 冒険者でなけりゃ、往復20日以上を森の奥で過ごそうなんて思わないよな。

 俺だって結界魔法がなけりゃ、行く気になれない場所だよ。


 魔石13個と査定用紙を貰い、魔石は即行でお財布ポーチに直行。

 セイオスが査定用紙を珍しそうに眺めていて、見て良いかと目で問いかけてくる。


 手に取った査定用紙を見て目を見張っている。


 ゴールデンベア・4頭、450,000×4=1,800,000ダーラ

 ブラウンベア・4頭、320,000×4=1,280,000ダーラ

 ブラックベア・3頭、240,000×3=720,000ダーラ

 ビッグホーンゴート・1頭、180,000ダーラ

 ブラックタイガー・1頭、300,000ダーラ

 合計 4,280,000ダーラ


 「セイオス様、普通こんなに纏めて持ち込んでくるわけ、無いじゃないですか。冒険者の持ち込んだ獲物が、市場でどの程度の価格になっているか知りませんが、多分数倍にはなっている筈です。ゴールデンベア一頭を6人で倒しても日数と頭割りにすれば安い物です。私もサランが居なきゃとても無理ですよ」


 疑わしげな目で見てくるが、ライトソードで倒したとしても、迷子になって帰って来られないんだよ。


 「もっとも、高ランク冒険者が一頭のみって事はないでしょう。一頭の大物を仕留めるまでに、もっと容易い獲物を沢山獲っている筈ですよ」


 此処でセイオスとはお別れだ、護衛と共に帰ってもらい俺達は野営をしながら王都に向かう。

 その間に魔石のお清めと、魔玉石の制作に励むことにする。

 7月の終わりまでにはカリンガル侯爵様の所に行くと伝えて、オルデンの街を後にした。


 * * * * * * *


 「ふむ、7月の終わりまでには私の所に来ると言ったんだな」


 「はい、それだけを言ってオルデンの街を離れました」


 「で、どうだった」


 「獲物の解体はどうでも良さそうでしたが、魔石は全て引き取りました。魔玉石は漆黒の魔石を使って作るそうですが、アラド殿が受け取った魔石も全て漆黒の魔石でした」


 「だろうな、魔玉石を作るには光の魔法が必要だそうだが、光の魔法だけでは魔玉石は作れないらしい。光の魔法とは別に他の魔法使いも協力して作られるのが魔玉石だと聞いた」


 「アラド殿の治癒魔法は極めて優れていて、教会の光の魔法師より優れていると聞きました。それにサランの魔法も見事なものです。二人が協力すれば魔玉石を作れるのではないでしょうか」


 「多分そうだろう。だが魔玉石を作るには大量の魔力を必要とするために、並みの魔法使いが作ろうとすれば、何ヶ月もかかると聞いた」


 「間に合うでしょうか?」


 * * * * * * *


 薄緑が風に揺れ時々雷光が走る魔玉石。

 揺れるエメラルドグリーンの中で煌めきが踊る魔玉石。

 夜明けの空の如く濃紺に時に雷光が走る魔玉石。

 真紅の炎が風に揺れ時に雷光が走る魔玉石。

 一回り小降りだが、揺れる炎に雷光が間断なく走り、劫火に焼かれるが如き趣の魔玉石。


 色の三原色とか、光の三原色はどうしたと言いたい!

 どうして風魔法を込めまくったら濃紺になるんだ!

 何故土魔法が緑にと理解に苦しみ、魔法の事だから分かる訳がないと全力で匙を投げた。


 試してないが、氷結魔法を込めまくれば、冷え冷えの冷気が流れる魔玉石が出来るかもと期待してしまう。

 取り敢えず五個の魔玉石を作ったので、カリンガル侯爵様の所に行くことにした。


 * * * * * * *


 「待っていたよ、アラド殿。用意は出来たのかね」


 ん、用意は出来た? 俺達が魔玉石を作れると気付いたのかな。

 まっ、知られたからといっても、相手の思い通りになる気は無いのでどうでも良い。


 用意して貰った布の上に、五個の魔玉石を並べる。

 ゴールデンベアの魔玉石四個。

 薄緑が風に揺れ、時々雷光が走る魔玉石。

 揺れるエメラルドグリーンの中で煌めきが踊る魔玉石。

 夜明けの空の如き濃紺に時に雷光が走る魔玉石。

 真紅の炎が風に揺れ時に雷光が走る魔玉石。

 一回り小さい、ブラウンベアの魔玉石一個。

 揺れる炎に雷光が間断なく走り、劫火に焼かれるが如き趣の魔玉石。


 カリンガル侯爵様とセイオスに執事のセグロスが声もなく見つめている。


 其れ其れの魔玉石の前に同じ煌めきを放つ、三角錐のペンダントを二つずつ並べる。


 侯爵様口が開いてますぜ、とは言わないが、かなり間抜け顔になってるね。

 他国の皇太子の婚礼に対する贈答品なら、ただの魔玉石に無い特徴の物が良かろうと思って作ってみたんだよ。


 「王家にこの五点を持って行き、婚礼の贈答に相応しい物を選んで貰って下さい。残りはそのうち引き取りに来ますので、それ迄は預かっておいて下さい。代金は何時もの様にと伝えておいて下さい」


 「まっ、待ってくれ、アラド殿。此れは貴殿が受けた依頼であって、私が代理でお届けする物では無い! 王城にて直接お渡し下さい。その為の手続きは致しましょう」


 侯爵様に真顔で言われては、投げ捨てて帰る事も出来ず不承不承承知した。 侯爵様は急ぎ王城に行き、俺が依頼の品を持って来ていると報告に向かった。

 その間、魔玉石は俺の空間収納に戻した。


 * * * * * * *


 カリンガル侯爵様の馬車で王城に向かい、侍従の案内で王城の奥深くへと侯爵様について歩く。

 サランが不安がり、俺のローブを掴んで放さないので少々歩き辛い。

 相手が誰だろうと跪く気は無いので、サランにも俺と行動を共にするのなら俺に従えと言ってある。


 防御結界を張り隠蔽魔法で結界の存在を隠しているが、王国側も俺達を攻撃する不利を知っているので無体なことはするまい。

 侍従が見事な細工の施された扉の前に立ち「フォルタ・カリンガル侯爵様と冒険者アラド及びサランをお連れしました」と声高に告げる。

 開かれた扉の左右に近衛騎士が立ち、扉を支える。


 広い室内は執務室の様だが、置かれている調度品は流石は王家の使用する品々で手が込んだ物ばかりだ。

 カリンガル侯爵様に続いて室内に入りながら、変な方向に感心する。


 正面に立つ豪華な衣装に身を包んだ男は、以前魔法部隊の力量を試したときに平服で見物していた男だった。

 少し離れてグルマン宰相が立っている。


 カリンガル侯爵様が国王陛下に跪き、俺とサランが依頼の品を持って参上したと報告しているが、俺は軽く一礼しただけ。

 サランも俺に倣って一礼したが、ギクシャクした動きに笑いそうになる。

 壁際に控える近衛騎士達は無表情ながら、鋭い気配がビンビン飛んでくる。


 用意された大型のワゴンの上には、分厚い布が敷かれている。

 五つの魔玉石と揃いのペンダントを乗せると、侍従がワゴンを国王の前に移動させるが声も無く見入っている。


 「此れほどの品々を良く揃えられたな。カリンガルに贈った物を見たが、あれ以上の逸品が此れほど揃うとはな」


 呟く様に話すが、誰も返事をしない。

 やがてグルマン宰相が、国王にどれを祝いの品として贈るのか決める様にと言っている。


 「アラドよ、全てを王家で引き取りたいが可能か?」


 どれにするのか決められないのね。

 カリンガル侯爵様が振り向いたので、頷いておく。

 俺とサランにとっては、遊びの結果の産物だ幾らでも作れる物に固執する気は無い。


 「依頼品の報酬だが」


 グルマン宰相が、喉に絡んだ様な声で問いかけてくるが、魔玉石の相場など知らない。

 迂闊であった、金貨なら既に空間収納に20,000枚ほど貯まっている。

 依頼報酬の事が、すっぽり抜け落ちていた。

 思わずカリンガル侯爵様と、顔を見合わせてしまった。


 「何か望みの物はないか? 爵位でも領地でも望みの物をとらすぞ」


 思わず笑みが漏れる、そんな物が欲しければとっくに要求しているさ。

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