第65話 火炎剣

 「魔鋼鉄の剣でも全然色合いが違うな。然し、変わった形の剣だな」


 「そうかな、此れの方が使い良いけどね。俺の場合は、斬るより殴りつける事の方が多いからね」


 「それもそうか。ハイオークを倒したときの様な闘い方なら、斬る必要もないか」


 ・・・・・・


 三日振りにウランデの所に顔を出したが、テーブルに置かれた剣を見ながらブツブツと呟き、時折紙に何か書いている。

 此れは時間が掛かりそうだと思い、黙って引き返す。

 当分は草原で魔力石の浄化と、サランが込める魔法の配合で時間潰しをする事になりそうだ。


 一辺8センチ程度の二等辺三角形で厚さが7~8ミリ、角は全て丸みをおび頂点付近に紐を通す穴を開けて貰う。

 サランに指導しながら作った物を見本に、20個作って貰い実験開始。


 実験に使った親指大の物が魔力754、三角形の物が魔力721と少し少ないが、同一品なので試行錯誤して作る魔玉石には都合が良い。

 一つ目の魔力石には以前の物と同じお祈り魔力を3,000程込めて、魔石と同じ物が出来るのか確認する。

 爆発させた物同様の魔玉石を確認したら、火魔法と風魔法を1,500ずつ込めた物を作って貰い、これも以前魔石で作った物と同様な仕上がりである事を確認する。


 その間にも3日おきにウランデの所に通うが、なかなか進展しない様だ。

 雷撃魔法を3,000込めた物は、石の内部で放電現象が絶え間なく起き、チカチカ眩しくてボツ。

 治癒魔法を1,500込めた物の中に、雷撃魔法を500、800、1,100、1,400と込めた物を四つ作り、治癒魔法に1,500に雷撃魔法800程度が魔玉石内で定期的に雷光が走り綺麗だった。


 調子に乗って火魔法2,000に雷撃魔法1,000の物を作ったが、真紅の魔玉石内で光る雷光も中々捨てがたい魅力がある。

 俺はお清め魔法を込めた物を二つ作ってからは、魔玉石制作は全てサランに任せたままだが、万が一を考えて制作にはドームの外に魔力石を置いてやらせている。


 傑作は火魔法1,500・風魔法1,500・雷撃魔法800の物だ。

 揺らめく炎の様な光の中に雷光が走る、試しにオークションに掛ければ如何ほどの値が付くのかと考えたが、面倒事の未来しか思い浮かばなかったので止めた。


 ウランデの所へ5度目に訪れたとき、満面の笑みで迎えられた。


 「その顔を見ると、出来上がった様だな」


 「出来上がったと言うか、魔方陣は出来たんだがこれから先は俺の領分じゃない。この剣を作った鍛冶師に、魔方陣を刻んでもらってくれ」


 「それでは実験をしていないのか」


 「とんでもない、実験では炎に包まれた剣が出来たぞ。最も木剣に魔方陣を貼り付けただけだから、一回で燃えてしまったがね」


 「ちょっと嫌な予感がするなあ、この服には三種類の付与魔法を掛けているんだが、此れと剣とではどう違うんだ」


 「ああ、機織り蜘蛛の生地だと魔方陣を織り込めるんだ、織り込めると言うより転写かな。ローブを広げて見せてくれ」


 言われたとおりローブを広げると、ローブに向かって何やら呟いて居る。


 「ふむ・・・魔法攻撃防御に防刃打撃防御と体温調節機能、か。あんた貴族なのか?」


 「いや、ただの冒険者だが、金だけはしっかり稼いでいるからね」


 差し出された魔方陣が描かれた紙は一辺が15センチ程度、魔方陣自体は12センチ程だが微細な文様や文字が書き込まれている。

 この文様を剣に刻むのは、彫金師の様な微細加工ができる職人が必要になると思われる。

 少し考えて、ウランデに聞いてみた。


 「木剣で試したと言ったが、此れを木剣で試したら同じ魔方陣を又書いて貰うことになるが出来るか」


 「出来るが、書き上げるのに二日は掛かるな」


 俺の考える炎の剣だと、街中で振り回す訳にはいかない。

 愛用の木剣を取り出し、魔方陣が記された紙を貼って貰い、残金の金貨10枚を支払ってお財布ポーチに仕舞う。


 ・・・・・・


 草原で魔力を流し込み振り回した木剣は、見事な火魔法を発動したが俺の望む物とは違った。

 振り回しながら腕を通して魔力を流し込むと、木剣の刀身部分が炎に包まれたがそれだけ。

 剣先から一センチも伸びない、勿論それで斬れる訳でもない。


 火魔法の代わりに、剣を使ってファイヤーボールでも打ち出せないかと思ったが無理 !!!

 丸っきりの松明・・・トーチ、松明を振り回すフラダンスと同じである。

 若しくはアイドルの公演で、オタクが振り回す光るステックと大差ない。


 此れで氷結魔法や雷撃魔法を付与したら、氷塊で重くなった剣とか魔法を発動したら我が身に雷撃を受けて痺れるとか、情けないことになりそうだ。

 剣に魔法を付与して、各種の魔法攻撃が出来る様にする夢は、すっぱり諦めた。


 サランには、引き続き魔力石で実験という名の遊びを続けてもらい、俺は魔鋼鉄の剣の魔力をお清めする実験を始めた。

 魔鋼鉄の剣なら、魔力をお清めすれば各種魔法を込められると思ったから。

 つまり魔玉石ならぬ魔玉剣・・・魔宝剣かな、中二病全開の剣が出来そうで、クラフトマン魂が疼く。

 まぁ、疼く様な魂の持ち合わせはないが、どうせ暇なんだから遊びとしては面白いと思う。


 テボリエ親方の打った魔鋼鉄の剣は魔力531、サランが遊びに使っている魔力石より魔力は小さいが物自体の大きさが段違いだ。

 割合簡単に漆黒の魔鋼鉄の剣が透明な剣になったが、まるでガラスの剣に見える。

 魔鋼鉄の重さが剣を持つ手に伝わるから、ガラスじゃないと判るが何とも気恥ずかしい剣だ。

 治癒魔法を1,000程込め、サランに雷撃魔法を500込めてもらうと、見事な純白の刀身に雷撃が走る刀が出来た。


 試し切りをと刀を手にしたが、やっぱり俺って間抜けだわ。

 刀って基本的に斬り付けたり打ち合ったりする物で常に傷がつく、魔力を込めた物が傷ついたとき・・・大爆発確実。

 中二病気味の考えを放棄して、岩の上に魔力の籠もった剣を置き、転移魔法を使って上空から石を落として爆発させた。


 テボリエ親方に長剣をもう1本注文しなくっちゃね。


 ・・・・・・


 サランが各種魔法を込めて作った魔玉石で見応えのある物は

 土魔法を込めたエメラルド色の魔玉石、大地の色になると思っていたらエメラルドグリーンになった。

 魔力量に依って、新緑色からエメラルドグリーまで様々、風魔法と組み合わせたり雷撃魔法を組み込むと中々の物が出来る。

 火魔法も同じで踊る炎の中に雷光が走る様は見事の一言である。

 乳白色の中に金色の光が踊る治癒魔法の魔玉石は、ペンダントにした事で中々洒落た物に仕上がった。。


 未だまだ組み合わせによって楽しめそうだが、失った剣の補充の為にランゲルの街に戻る事にした。


 ・・・・・・


 街の入場門を通るときに暁の星の六人と出会ったが、余り聞きたくない事を聞かされた。

 領主であるモルデ・グランド侯爵の使いが、何度も冒険者ギルドに尋ねてきていると。


 以前宝石商のマトラと居る所を、セイオスが脅しているので俺に近づいて来ないはずだ。

 然し、使いの者を堂々と冒険者ギルドに寄越すのなら、侯爵本人の用件ではあるまい。

 王家からの依頼ならカリンガル侯爵かセイオスが来るはずだし、何だろうと思ったが、家臣になった覚えも無いので放置する事にした。


 ロンド達と冒険者ギルドに向かい俺達は食堂へ直行、ロンド達は獲物を売る為に買い取りカウンターに向かう。

 エールに口を付けたとき、リーナが好奇心丸出してやって来てギルマスが呼んでるよと教えてくれた。

 サランが目の前の食事と俺とを交互に見ながら、悲しそうな顔をしている。


 リーナに、暁の星の皆を呼んでサランと一緒に飯を食っていてくれと、銀貨を数枚テーブルに置いてギルマスの所に行く。


 「おう、来たか」


 「領主の使いが来てるって聞いたけど?」


 「毎日やって来て煩いんだよ。何やら書状を預かっているが、グランド侯爵からお前に直接手渡し、返事が欲しいので屋敷までお越し下さいってよ。お前、一体何をやったんだ? と言うか、お前は何者なんだ?」


 ギルマスが問いかけてくるが、ただの冒険者だしそれ以上答える気はない。

 書状で、侯爵から直接手渡しで返事が必要となれば、王家かグルマン宰相からの書状だろう。

 返事をしなければ何時までも俺の行方を捜すだろうから、読むだけ読んで返事をしておくかと考えている所にノックの音が響く。


 ギルマスの許可を受けて入って来たギルド職員は、ギルマスと俺の顔を交互に見ながら、「グランド侯爵様の使者の方がお見えです」と伝える。


 「糞ッ、毎日毎日うっとうしい!」


 ギルマスの声が聞こえたのか、恐縮気味に男が室内に足を踏み入れて来る。 ギルマスと向かい合う俺を一瞥して一礼する。


 「モルデ・グランド侯爵様の執事補佐をしておりますヤハンと申します。アラド様とお見受けしますが」


 「俺に何か用か」


 「主人があるお方より書状を預かっております。御一読の後、お返事をいただければと申しております」


 「で、此処では渡せない書状だと」


 「はい、お連れ様共々屋敷までご足労願いたいと、主人からの申し出です」


 「判った、連れはいま食事中だ、少し待ってくれ」


 一礼する使者の男と俺を見比べて、ギルマスが呆れた様に顔を横に振っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る