第63話 選別

 結局事態が落ち着くまでに20日以上掛かり、オーラン男爵に懐かれてしまい、事件の後始末の為に色々と助言することになった。

 その間ホテルに泊まろうとしたが、相談事の度にホテルと男爵邸を行き来するのが面倒なので、男爵邸に滞在する事になった。


 田舎町の領主なので、裕福な商人に毛の生えた様な男爵家は、貴族としての堅苦しさが少なかったので泊めて貰った。

 滞在中、サランはオーラン男爵の娘カエラとミラーネの二人に可愛がられ、すっかり仲良くなっている。

 きっかけはお茶の時、レッドビーの蜜に馴れた舌に砂糖が合わず、断りを入れて蜜の壺を出した事がきっかけとなった。


 俺はともかくサランは、二人だけの時には熊さん宜しく蜜を舐めたりするのである。

 そのサランが、気軽に蜜をお茶に入れクッキーにもたっぷり塗って食べるのを、二人が羨ましそうに見ているが、サランは貴族の子女との付き合い方を知らない。

 二人の視線に気付いたが、どうすれば良いか判らず俺の顔を見てくるので、お二人にもお勧めしろと言わねばならない。


 話してみれば姉のヘリネはサランより二つ上、妹のミラーネは一つ下と判り姉妹のいなかったサランも、可愛がられてすっかり懐いていた。

 嫡男のクロードは俺から一歩引いた感じだが、父親が俺に上位貴族に対する様な言葉遣いをするので気を使っているようだ。


 お陰でサランと同じ歳のクロードから、アラド様と呼ばれて気恥ずかしいやらくすぐったいやら疲れる。

 幾ら様は止めてくれと言っても、父親からカリンガル侯爵家の身分証を持ち、王家の通達の事を聞かされている様で改めてくれない。


 それと俺が結界魔法と治癒魔法を使い熟し、サランに至っては結界魔法に治癒魔法と土魔法の使い手と知り、土魔法を授かっているクロードからのまなざしが熱い。

 サランに時々土魔法について質問しているが、サランは俺との約束が在るし人に教えるのも下手なのか、救いを求めて俺を見つめてくる。

 オークキングに飛び込んで行くお前が、何をあたふたしているのかと叱咤したいが言えない。


 ・・・・・・


 お別れの前日、オーラン男爵が手配してくれた係りの者が、運び込まれた鉱石の集積所に案内してくれた。

 サランと二人して魔鋼鉄と魔力石の鑑定をする。

 鑑定の結果、魔鋼鉄の魔力は180~450とばらつきが大きい。


 魔力石の魔力は、40~800ともっとばらつきが大きかったが、此方は目視でも有る程度魔力の含有量が判るので全てを鑑定する必要が無かった。

 大きな石で周囲が汚れていたり黒みが足りない物だけを鑑定する、漆黒の物は大体魔力が600以上有るので即行でお財布ポーチに入れる。


 俺達を案内してくれた係りの者は、何を目安に選んでいるのか判らない様だった。

 漆黒と黒色の石の差が分からない様子に、鑑定が出来なければ魔力の含有量の目安も判らないのだろうと思う。


 その点魔鋼鉄は面倒だった。

 鉄の塊でなく鉱脈として石の中に在るので、高魔力の鉄だけを取り出すのが不可能なのだ。

 俺の達の持つ剣の魔力が211と224なのは、全ての物を熔解して混ぜるので200前後の魔力量になっているようだ。

 考えれば当然で、高品位の物より低品位の物の方が量が多いので、180~550の魔力も平均すれば200前後に落ち着くって事だ。

 品位の低すぎる物は、そもそも溶解しても魔鋼鉄としての基準を満たさないと聞いた。


 サランと二人高品位の物を選び出し、石の塊から高品位の場所だけを土魔法で切り出して収納する。

 多分エールの樽2杯分位の、魔鋼鉄の鉱石を収穫出来たと思う。

 付き合ってくれた係りの者に、謝礼として銀貨を数枚渡し集積場を後にする。


 別れの朝、オーラン男爵から謝礼として金貨の袋40個を出されたが、俺とサランが10個つずつ貰い残りは辞退する。

 冒険者を名乗る以上ただ働きをする気は無いが、金貨の袋以上の物を貰っている。


 男爵からすれば石ころを提供しただけと思うだろうが、此れが魔玉石に化ければ万金に値する。

 俺とサランにとっては遊びだが、男爵が知れば腰を抜かしかねない遊びだ。


 魔力石とは別に、魔鋼鉄を使って試したい事がある。

 その為には腕の良い鍛冶師の所に行く必要があるが、幸いランゲルの街が三つ先に在る。

 ランゲルの街、ハーメン通りのテボリエ鍛冶店ならサランの長剣を作った所だし腕も良い。


 彼に高魔力の魔鋼鉄の鉱石を渡し、精製からやってくれと頼むことにした。

 あの町なら付与魔法師も居るので、考えている物が作れると思うとわくわくする。


 ・・・・・・


 テボリエ鍛冶店の親爺は、俺の話を聞き興味が湧いた様だ。

 幸いというか腕の良い鍛冶師は素材にこだわるため、店内に小さな溶鉱炉を持っていて、俺の持ち込んだ鉱石を使って素材から作る事を請け合ってくれた。

 最も厳選した魔鋼鉄の鉱石とは伝えたが、魔力のことには一言も触れなかった。

 オークキングの事と同じで、関係ない人に話すときは事実を隠して小さく話し、興味を引かれない様に気を使う。


 注文は俺とサランの長剣とショートソード、鉱石を溶かして素材から造るので制作期間は30日と決まった。

 長剣2本で90万ダーラ、ショートソード2本で70万ダーラに素材作りに50万ダーラを要求された。

 単価は以前と同じで良心的、210万ダーラを支払い市場に向かう。


 30日分の食料を仕入れたら街を出て、魔力石を使っての遊びが待っている。


 ・・・・・・


 キャンプ地を定めたら、サランに魔力石のカットを指示する。

 先ずオーソドックスな、ペンダント向きの二等辺三角形に5~8センチの円形の物を各1個作って貰う。

 厚さは約1センチにし、紐を通す穴も開けて貰う。

 此れとは別に親指ほどの高魔力の石を選び、試験的に魔力浄化から始めるが、野獣の魔石と違いなかなか手強い。


 親指ほどの魔力石の魔力が754、魔石なら魔力100で7回半お清めすれば浄化出来るのに倍の魔力を必要とした。

 生物の体内で短時間に生成出来る魔石と違い、長い年月を経てガチガチの石になった魔力石では性質が違うのだろう。


 俺が魔力石で実験している間、サランは型取りした魔力石のお清めを引き受けてくれた。

 親指大の魔力石に光の魔法を1回150程を込めて行くが、魔力が2倍の1,508を越えても乳白色には成るものの今一の煌めきだ。

 そこからは一回100程度の魔力を込めて行くが、3倍近く魔力を込めた所で漸くカリンガル侯爵に提供した魔玉石並みの光になった。


 親指大の魔力石が、込められた魔力に耐えられずに爆発したのは、元の魔力の5.4倍近い魔力を込めたときだった。

 実に4.071の魔力を込めた計算になる。

 以後魔力石に魔力を込めるのは4倍までとする事にしたが、此れも回数を重ねなけれが正解は出ないだろう。


 然し、200オーバーの魔力をもってしても、一日三回も魔力切れを体験するのは疲れる。

 回復時間が2時間程と短いから何とかなるが、こうなると遊びと言うよりお仕事と言った感じである。


 親指大二つ目の魔力石は、4倍の魔力を充填した後サランに命じて、半分にカットしてもらったが見事に爆発した。

 まっ予想通りなのでショックはないが、魔石といい魔力石と言い爆弾と変わらないなぁってのが感想だ。


 魔石なら、魔力の充填量が少なくてひび割れ程度なら、魔力が漏れて爆発しないかも知れないと思うが、魔石の扱いは注意しよう。

 最も、おいそれと壊れないし、大事に扱われるから爆発事故が無かったのだろうと思う。


 魔玉石を侯爵様に贈った感覚から、一つ金貨数百枚から千を越えるのは間違いなさそうなので、壊すって発想自体が無いのかも知れない。

 何個かの小さめの魔力石を破壊した結果5.2~5.8倍程度魔力を込めれば爆発する事が確認出来たので、4倍以上の魔力充填は禁止と告げる。


 同時に魔力石を成形するときに、三日月形とか星形のような欠けやすい形は禁止する。

 造る場合は、突起部分を丸く成形して欠け防止をした物に限るが、突起物の有る物は魔力充填は3倍までにする事にした。


 基本的に二等辺三角形や菱形などの角を丸めた物と、円形の物を多数造りサランの遊び道具とした。

 と言っても俺が色々と指示して実験にも付き合わせる。

 火魔法を込めた物に水魔法を追加した時には、即座に爆発してサランのお目々がパチクリ状態になったが、やっぱりなってのが俺の感想だ。

 水って水蒸気になると1,700倍くらいに膨張する筈だったから魔石では耐えられなかったのだろう。


 結論火魔法や雷撃魔法に水魔法と氷結魔法を合わせることは禁止。

 爆弾魔じゃ無いのだから、バカスカ爆発させたらランゲルの街で騒ぎが起きて実験が出来なくなる。

 色々組み合わせて楽しみたいが、約束の日が近いのでランゲルの街に戻る事にした。


 ・・・・・・


 久方ぶりに商業ギルドに顔を出し、腕の良い付与魔法を付けられる者の紹介を頼む。


 「いまお召しになっている服に追加するのですか?」


 「いや、別口だ。俺が考えている魔法を、付与出来るかどうかの確認の為だな」


 「はぁ、魔法をですか・・・」


 理解出来ない様だが、魔道具には火魔法や水魔法にライト等を付与しているのだから、出来ると思うが確認は大事だ。


 「出来れば、魔道具を製作している者の方が都合が良いと思うよ」


 首を捻りながら、魔道具の製作者を紹介してくれたが、その際ちょっと変人だから気を付けろと言われた。

 カラツバ通り、パン屋の2階に住む〔ウランデ〕と言う男が腕の良い付与術士だと教えてくれた。

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