第60話 面倒事
「君なんてタフそうだから、ちょっと試してみようかな。震えていて寒そうだし火炙り体験が良いだろう」
にっこり笑って火炙りを勧めたが、思いっきり首を振って拒否された。
「嫌なら喋る? ん」
「喋ります、喋りますから火炙りだけは勘弁して下さい」
喋ったことを要約すると、詰まらん盗賊団の一員だったが聞き逃せない一言があった。
協力的な男を残して、残り12人の手足を一本ずつ叩き折り逃げられなくして放置する事にした。
協力的な一人に治療を施した後、縛り上げて猿轡をして街まで連行だ。
「あー、お前達は事が終わったら警備兵を連れて迎えに来てやる。それ迄静かにしていて、野獣に襲われないことを祈ってろ」
盛大なブーイングが上がるが、彼等の前で隠蔽魔法で姿を消すと、縛り上げた男の尻を蹴って街に向かわせた。
街の出入り口は男にも隠蔽魔法を掛けているので、貴族用通路を使って素通り、男の所属する無頼宿〔ホテル天国の門〕に向かった。
ホテル天国の門、ねぇ。
男の戒めを解き隠蔽魔法を解除してから、首に隠蔽魔法を掛けたロープを巻き付けて中に入る。
定石通り一階は食堂兼酒場で2~3階がホテル・・・と言うより売春宿と言った方が通じる。
〈よう、オーロ、何故お前だけ帰ってきたんだ? 生意気な小僧と女はどうした〉
ふらつく足取りで近づいて来る男を叩きのめし奥に進む。
倒れた仲間を不審がり、近づいて来る男達の中から、誰が仲間なのかを小声で教えてくれる。
そいつらの相手はサランに任せて、男達の手足を折って放置するが、店の女達や客が驚き静まりかえる。
聞いたとおりの店内なので、オーロを先頭にこの店の支配人の部屋に向かう。 だらしなく壁に凭れている見張りが、オーロを見て見下した笑みを浮かべるが、声を出す前に叩き伏せる。
中に入れとオーロに言うと、合図をしないと中から閂を掛けていて入れないと言う。
小悪党にしては用心深いなと思いながら、どうやって部屋に入ろうか考える。
転移魔法を披露する時ではない、此処は強引に氷結魔法でドアを破ることにした。
ドアの向かいの壁から氷柱を伸ばし、成長させた氷柱でドアを押し開けろとサランに言う。
少し考えた後、壁が凍り始めると筍の如く成長してドアに到達。氷の筍は太く長く成長を続けるので〈ミシミシ〉と音を立て始める。
〈何だ、どうした?〉
〈誰かドアを押している奴がいるぞ〉
〈馬鹿野郎! どんな馬鹿力だ、止めさせろ!〉
〈バッキーン〉と閂の金具の弾ける音と共にドアが開く。
氷の筍の魔力を抜いたので、通路が水浸しになり室内にも流れ込む。
〈オーロ・・・てめぇがやったのか!〉
〈舐めた真似をしてくれたな、覚悟は出来ているんだろうな〉
オーロを相手に凄む、男達の向こう脛を思いっきり叩き折る。
支配人のロリアンがふんぞり返るソファーの横に座り、しなだれ掛かる貫禄のある御姐さん。
横幅がロリアンの倍くらい有りそうだが、壊れたドアを凝視して震えている。
五人の護衛は皆足を抱えて唸っていて、怒鳴られたオーロがプルプル震えながら首を横に振っている。
ロリアンの背後に回り、俺だけ隠蔽魔法を解除してご挨拶。
「よう、ロリアン。お前が差し向けた奴等が弱すぎて話しにならんので、俺が直接挨拶に来たんだよ」
長剣をロリアンの首に当てて挨拶すると、〈ヒッ〉と悲鳴を上げて硬直する。
剣先を首に突きつけて、隠し扉を開ける様に要求する。
〈オーロ、てめぇぇ喋ったな!〉
「煩いんだよ、言われたことに従わないのなら、ちょっと熱い思いをすることになるぞ」
後ろから蹴りつけてテーブルの上に倒れ込んだ所を、サランがテーブルを利用して大の字に縛る。
サランも大分手際が良くなり、さくさくと縛りあげている。
見えない何かに押さえつけられ、身動きも出来ないうちに縛られて真っ青なロリアン。
貫禄のあるお姉さんは、ロープが勝手にロリアンを縛り上げるのを見てムンクの叫びのポーズ。
「最後だ、隠し扉を開けるか? 嫌なら大火傷を何度でもする事になるぞ」
〈小僧、死にたいらしいな。俺に逆らって生きている奴はいないぞ〉
サランに頷くと、ロリアンの足を火球が包む。
〈ヘッ〉と間抜けな声を出したが、直ぐに現実と直面することになった。
〈ウオォォォ、あちちち、熱い! 止めろ! 消せ!〉
饒舌だねぇ。
〈畜生、糞ガキが火を消しな! 許さないよ!〉
太ったムンクが叫びだしたが、言葉が汚いね。
「お姐さんは隠し扉を知ってるよな、開けてくれたら火を消してやるよ。嫌なら亭主の黒焼きが出来上がることになるな」
酒瓶が飛んできて、躱した隙に巨体が襲い掛かってくる。
でも残念、サランに足払いを掛けられて、盛大にダイブして床にキッス。
ヒキガエルが叩きつけられた様な〈グエッ〉て声に合わせ、横腹を蹴りつける。
太ったムンクは、腹を抱えて丸くなり失神してしまった。
目覚めると煩そうなので、猿轡をかまし手足を縛って転がしておく。
ロリアンも白目を剥いてお休み中なので、火事にならない様に水をぶっ掛けておく。
全魔法使いのサランが居ると便利だわ。
大騒ぎをしているが、配下の者を全て無力化しているので誰も来ない。
警備隊の者が来る前に片付けたいので、安らかに眠るロリアンの鼻にフレイムを乗せて起こす。
〈ウワッチチチ〉
熱さに耐えかねて起きたが、足の痛みに顔が歪む。
「お早う、痛いだろうから直ぐに治してやるよ(ヒール!)」
一瞬で痛みが消えたのを訝しみ自分の足を見ているが、焦げて半ズボンになった先には火傷のない毛むくじゃ・・・毛の無い自分の足がある。
「隠し扉を開ける気になるまで足を焼き続けるからな、開ける気になったら言えよ」
サランに頷くと、ロリアンの足が再び火球に包まれる。
〈ウオォォォ、止めろ! 止めてくれ、開けるから止めてくれぇー〉
大口を叩く割には落ちるのが早いねー。
ロリアンが開けたのは、隣の部屋との壁の間に隠された狭い隠し部屋だった。
壁を押し込むと、奥行き1m右に奥行き3mの小部屋で、突き当たりには金庫が据えられている。
「隠し扉は秘密の通路に繋がるって聞いているんだがな、隠し扉に入った奴は帰ってこないってな」
「判ってるよ、一度扉を閉めなきゃ通路に入れないんだ」
不満たらたらの声で返答するロリアンに言われるまま、三人で小部屋に入り扉を閉める。
ライトの明かりに浮かぶ地下への階段。
狭い小部屋に入るには、扉を開けっぱなしにしなければならない作りになっていたが、同時に地下への階段を隠す役目を持たせていた。
「行けよ、さっさと降りろ!」
渋々といった態度で階段を降りていくが、降りきった所でいきなりダッシュして壁に手を掛けて突起を引っ張った。
頭上で音がし何かが落ちてきて〈ドーン〉と、轟音と衝撃に思わず足が止まり上を見るが、その隙にロリアンの姿が消えた。
消えたと言うより扉で見えなくなっている。
此れがあるから素直になったのか、面倒くさい奴だなと思っていると扉の覗き穴が開き、ロリアンの声が聞こえる。
〈小僧、よくもやってくれたな・・・って、何で立っているんだ〉
落下物は、俺の防御障壁と衝突して止まっているのだが、それが不思議らしい。
頭上を指差して教えてやると、狭い覗き穴から見て目を丸くしているが笑い出した。
〈不思議な魔法を使うが、この頑丈な扉とお前達の後ろには鉄格子が落ちているんだぞ。飢え死にするまでそこに居ろ!〉
振り向くと、階段の所に鉄格子が見える。
俺の頭上で止まっているのは、落とし天井の様な仕組みらしいが、同時に前後に逃げられない様に鉄格子と扉も閉まる仕組みになっている。
サランに壁の両面に土魔法で突起を作らせ、頭上の邪魔者が落ちてこない様にして貰う。
転移魔法でロリアンの後ろに回り込めるが、使える事を教えたくない。
サランに壁に穴を開けて奴の後ろに回り込めと指示、その間は気付かれない様にロリアンに語りかける。
「なあロリアン、こんなご大層な物を作って何を隠しているんだ、教えてくれても良いんじゃないか」
〈飢え死にするのと、終生鉱山奴隷として働くのとどちらがお望みだ。特別に選ばせてやるぞ〉
ギャハギャハ笑い声が聞こえて来る。
成る程ね、奴の裏家業は鉱山に奴隷を供給することか。
売春婦も大勢抱えているので、そちらも叩けば埃が出るどころか舞い上がりそうだ。
奴の笑い声が途切れた、サランが後ろに回り込んだのに気付いたようだ。
狭い通路でロリアンと再会すると絶望的な顔で座り込んでいる。
「残念だったな、ロリアン。用心深いのは良いことだが、詰めが甘いね」
〈何なんだお前達は・・・姿は見えなくなるし氷結魔法に土魔法って〉
「気にするな、相手が悪かったと諦めるんだな。さぁ、とっとと案内しろ」
尻を蹴り上げて先を歩かせると、地下通路が真っ直ぐに伸びている。
ん、・・・これじゃー建物の構造上、隣の建物の下に向かうことになる。
「ロリアン、確認の為に聞くが、このまま行けば隣の建物の下に入るな。隣の建物は何だ?」
「奴隷商の地下室と繋がっているんだ、建物は隣どうしになるが、奴隷商の玄関は裏通りに向かって付いている。俺の店は表通りに向いているから気付かれないんだ」
頭が良いのか狡賢いのか、感心するほど用心深い男の様だ。
こうなると領主との繋がりも疑って掛からねばならなくなる。
奴隷商の地下室を訪問する前に、警備兵がどんな動きをするのか確かめておく必要が出てきた。
引き返して俺が閉じ込められた場所の隣に、特別室をサランに頼んで造って貰いロリアンを閉じ込めておく。
〈おい、止めてくれ! こんな所で死にたくない、連れて行ってくれ・・・頼む〉
情けない声で懇願するロリアンを無視して、元の部屋に戻ると店の方が騒がしい。
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