第59話 尾行者達

 訓練場で向かい合ったが、8対2で負けるはずがないと余裕の血塗れのウルフ達。

 10m程離れて向かい合い、ギルマスの合図を待つ。


 「サラン、チビ助チビ助って言っていた奴は俺がやるから、後は任せた」


 「はい! お任せ下さい」


 ギルマスが呆れた顔で俺達を見て、首を振りながら開始の合図をした。


 余裕で木剣を肩に担いで歩いて来る、俺をチビ助呼ばわりした屑野郎。

 余裕のよっちゃんって顔だが、直ぐに後悔させてやるからな。

 魔力を纏った脚力で、一瞬にして懐に飛び込み腹を蹴りつけると〈グェッ〉と一言漏らしてくの字に折れる。

 左右の男が〈エッ〉と声を漏らしているが、腹を蹴られて呻く男の両足を打ち砕き後ろに回る。


 あっという間の出来事に、呆けている奴等の尻を蹴り上げサランの前に押し出す。

 すかさずサランが腕や肩に木剣を打ち込み、叩き付けて30秒も掛からずに模擬戦終了。

 弱すぎて、此れで良く模擬戦を挑めるなと呆れてしまう。


 「ギルマス、終わったよ」


 何が起きたのか理解出来ないギルマスに声を掛けて、さっさと訓練場を後にする。


 〈おいおい、まるで勝負になってないぞ〉

 〈血塗れのウルフが弱すぎるのか、相手が強いのか〉

 〈シルバーって言ってたのは、張ったりじゃなかったって事か〉

 〈しかし、弱すぎるでしょ〉

 〈数だけで意気がってただけなのか〉

 〈彼奴ら治療費は有るのかねぇ。最近治癒魔法も安くなったとは言え金貨は必要だしな〉

 〈まっ、借金奴隷になりたくなけりゃ、必死で働くさ〉


 〈でよぅ、新人に賭けた奴はいるのか?〉

 〈8対2と聞いて賭けた奴はいねえよ〉


 査定用紙を貰い、精算カウンターで全てサランの口座入れて貰うと食堂に行き、エールを注文する。

 二人前の食事と山盛りの串焼き肉をパクつくサランを、遠巻きに見る冒険者達。


 ギルマスがやって来て、ギルドカードを見せろと言って来た。

 俺とサランのカードを見ながら、ちらりと顔を見てくる。


 「本当にシルバーランクなんだな・・・何で2年半でシルバーに昇級したんだって、サランは登録一年でシルバーになってるじゃねえか!」


 〈やっぱりシルバーランクかよ〉

 〈つぅか聞いたかよ、登録一年でシルバーランクって〉

 〈俺、初めて聞いたわ〉

 〈あの細っこいのがシルバーランクってか〉


 「オルデンのギルマスが要らないってのに無理矢理シルバーに格上げしたんだよ」


 「オルデンって、あれか、あれを持ち込んだのはお前達か」


 「そうだよ。魔石と肉が欲しくて持って行ったんだ」


 「王都のギルマスも馬鹿な事をしたもんだ。で、何でこんな田舎町のルビックくんだりまで来たんだ?」


 「高品位の魔力石が欲しくてね。この街の森で魔鋼鉄が採掘されているんだろう。だから魔力石も手に入るんじゃないかなと思ってさ」


 「そんな物は魔道具店に行けば、簡単に手に入るだろう」


 「あーそれね。小さすぎるんだよ。最低でもハイオークかブラックベアの魔石並みの大きさのやつが欲しいんだ」


 「ふむ、おいそれとは鉱山には入れないが、魔力石が欲しいのなら何とかしてやれるかもな」


 「金で済むなら出すけど」


 「勿論ただでは無理だが条件がある。お前は治癒魔法が使えるんだろう、訓練場に転がっている奴等を何とかしてくれ」


 「えー・・・、俺は敵には容赦しない主義なんだけど。それにただ働きも嫌だし」


 「治療費は金貨五枚まで貸せるので、それで動ける様にしてくれんか。訓練場で死なれると片付けが面倒なんだよ」


 サランを食堂に残して、ギルマスと二人訓練場に戻る。

 2~3人死にそうな感じの奴が転がってるし、無事な奴等もまともに動けそうな奴はいない。

 俺の顔を見て逃げようとするが、碌に動けないので必死で頭を下げている。


 「お前達、死にたくなければ治療代を貸してやるぞ。勿論、返せなければ借金奴隷だが。どうする動ける様になって必死で働くか、此のまま此処でくたばるか選べ!」


 〈死にたくない、貸して下さい〉

 〈必死で働いて返しますので助けて下さい。お願いしますギルマス〉

 〈俺も・・・お願いします・・・〉


 おいおい泣き出してるよ。

 借金を認めた奴だけギルマスの頼みで(ヒール!)の一言で治していく。


 〈エッ・・・〉

 〈嘘だろう!〉

 〈俺もお願いします〉


 「ギルマスに言え! お前の様な奴はどうでも良いんだが、ギルマスの頼みだから治しているんだ。先ずギルマスから借金しろ!」


 「無慈悲だねぇ~♪」


 「当然だろう。弱そうな奴に絡んで来る様な奴は、甘い顔を見せると後ろから襲って来るからな」


 「其処の死にそうな奴も頼むわ」


 「金を返して貰う保証無しでか?」


 「ごねたら、即借金奴隷だな。逃げたら犯罪奴隷だからどのみち支払うしか道がないんだ」


 「鬼畜だねぇ~♪ 魔力石を頼むよ」


 虫の息の奴も含め3人にも(ヒール!)と呟いて終わり。


 「噂より腕が良いな、冒険者より治癒魔法で十分食っていけるだろう」


 「冒険者の方が気楽で良いんだよ」


 「魔力石が手に入ったら教えるが、何処に泊まっているんだ」


 「2~3日に一度はギルドに顔を出すよ。治療費は俺の口座に入れておいてくれ」


 エールを飲み直して、小腹を満たしたサランと共に街を出て草原にキャンプ用ドームを作る。


 * * * * * * *


 朝は草原の奥に行き、カラーバードやチキチキバードを獲ったり、枝に残った果実を探して歩く。

 備蓄食料も飽きるし、オークキングやブルーリザルドの肉も毎日だと鼻につく。

 サランの知識を頼りに、茸の残りや芋類を掘って食事の変化を楽しむ。


 3日に一度ギルドに顔を出す事にしたが、二度目にギルドに顔を出して帰る時、つけられているのに気付いた。


 「アラド様」


 「ああ、今日は街を出ても隠蔽は無しな。どんな奴か確かめよう」


 キャンプ地から少し外れた森に向かうと、何やらわらわらと湧いて出て来る様で、人の気配が濃くなる。


 「サラン走るぞ、ついて来い」


 ちらりと振り返り、俺達が気付いたと思わせて逃げる素振りを見せる。

 まんまと引っ掛かり〈逃がすな!〉とか〈仲間を虚仮にした報いを受けさせろ〉とか賑やかな事で。

 追いつかれない程度にのんびりと走り、灌木の密集地帯に誘い込む。

 周囲から見えないならの何をしても良い、と思うのは奴等も同じの様で〈おら! 待てや!〉等とほざいている。


 「あーん、ホーンラビットやヘッジホッグの様に追い立てて来るが、俺達に何か用か?」


 どう見ても冒険者に見えない街のチンピラか冒険者上がりなのは間違いなさそうだ。


 〈おう、良くも俺達の舎弟を可愛がってくれたな〉

 〈お前達のせいで、可哀想に借金を返す為に必死になっているぞ〉


 「冒険者が働くのは当然だろう。しっかり働けと言ってやれよ」


 〈話に聞いた通り生意気な奴だな〉

 〈その分甚振り甲斐が有るってものよ〉

 〈その女は、見掛けより強いって言ってたから気をつけろ〉

 〈小僧も、減らず口をきけなくしてから売り飛ばしてやるよ〉


 好き勝手言ってくれるよなぁ。


 〈おらっ! お財布ポーチを出せ!〉

 〈見掛けによらず持ってそうだな〉

 〈細っこいが一応女だ、楽しませて貰おうか〉

 〈ぐへへへへ、久し振りだぜ〉


 「サラン、逃げられない様に足だけな」


 「はい、お任せ下さい」


 返事と同時に、木剣を手に男達の集団に飛び込んで行く。

 だーかーらぁー、ライトソードが有るのだから肉弾戦は止めて欲しいよ。

 肉弾戦はサランに任せて、ライトソードで太股をチクりと刺していく。


 〈ウオォォォ〉

 〈こな糞ッ〉

 〈ウワッ〉


 おーぉ、派手にやってるなぁ。


 〈痛てっ〉

 〈糞ッ〉

 〈あっ足が〉


 太股をチクリとしている間に、サランが8人ほど叩きのめしている。

 俺は5人のあんよを突き刺して、その場に座らせて終わり。

 面倒事は嫌いなのに、口振りからすると絡んで来た奴等の兄貴分らしいが、言葉の端々から見逃せない台詞が聞こえた。


 「面白い台詞を言ってたが、詳しく話して貰おうかな」


 「てめえぇ、何をしやがった」


 「おっ、あんた元気そうだから色々喋って貰おうかな。この中のリーダーは誰なの? ん」


 「そんな事を聞いてどうする、俺達に手を出してこの街で生きていけると思うなよ」


 「良いねぇ、その台詞。痛めつけ甲斐がが有りそうだ」


 「なっ、何を、何をするつもりだ」


 「ん、お前達がやろうとしていた事をそっくり返してやろうってね。お前は、甚振り甲斐が有るって言ってただろう」


 先ず腕を使えない様に、両鎖骨を砕くと〈グォッ〉なんて悲鳴を上げる。


 「未だ悲鳴を上げるのは早いよ。此れからが本番、最後は殺して下さいって懇願する様になるよ」


 そう言って鼻先にフレイムの炎を突きつける〈うわっ熱ッ〉仰け反って逃げるが、両鎖骨を砕かれて後ろに仰け反り倒れる事しか出来ない。

 今度は腹の上にフレイムを乗せてヘソ焼きを始めると、漸く俺の本気を感じた様だ。


 〈熱っ、止めろ! ウオーォォォ〉

 一人で踊り出したので放置して、隣の男に微笑みかける。


 「なぁ兄さん、止めろよ。悪かったほんの冗談だったんだ」


 「そうなの、俺は本気だから気にするな。質問に答えろよ、誰がリーダーなんだ」


 腹の上のフレイムを落とそうと、必死で身体を捻っている男から目を逸らして、答えようとしない。


 「サラン、此奴の両足をこんがり焼いて」


 即座に膝から下を炎が包み燃え始めると〈ギャアァァァァ、熱い・・・止めてくれー〉一瞬の間を置いて悲鳴が上がる。

 サランの魔法は世間の魔法と違い、炎にだって粘着力があるぞ。

 当たって弾けるだけのファイヤーボールとは大違いだ。


 〈止め! 熱い・・・止めてくれー・・・・・・〉


 静かになったと思ったら、白目を剥いて気絶している。

 次の犠牲者はと周囲を見回すと、倒れている男達が慌てて目をそらす。

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