第56話 思わぬ陞爵

 アラドから聞いたオルセン子爵の行状と、子爵邸内での騒動の顛末を報告に王城に出向き、グルマン宰相に伝える。


 「カリンガル殿も、何かと大変ですなぁ」


 「彼は元来貴族には近づかないのですが、馬鹿な貴族は何故か彼に絡んで痛い目に合うのですから不思議です。そんな者に限って、王家の通達を知らないのか忘れているのか」


 「オルセン子爵は相応の報いを受けて、王家も彼に何らかの処分をする事になりますな。それと王都の冒険者ギルドのギルドマスターが、暗殺されたとの噂があるのを御存知か」


 「また何とも言えないタイミングで、そんな話が出てきますか」


 「何とも言えないタイミングとは?」


 カリンガル伯爵はアラドから聞いた、冒険者ギルドでの出来事とホテルでのギルマスとの遣り取りを話した。


 「それはまた・・・彼等の仕業だと」


 「死んだギルマスは、誰にも気付かれずに殺されたんでしょうな。暗殺の噂が流れるという事は、ギルマスが殺されたのを、ギルド本部は公表したくないからでしょうが、おいそれと殺せる相手ではないはずです。状況的には、彼等の仕業と思って間違いないでしょう」


 話を聞いたグルマン宰相は、掌を上に向け肩を竦めて何も言わなかった。


 * * * * * * *


 オルデンの街は久し振りだが、正規に入場したことも見物したことも無かったので調子が狂う。

 入場門ではサブラン公爵様の身分証を提示して通過するが、冒険者が公爵様発行の身分証を提示したので一時騒ぎになったが、上司が出てきて例の呪文を唱えて無事通過。


 冒険者ギルドに直行して、公爵様の身分証と紹介状を見せてギルマスに面会を求める。

 御領主様の身分証と紹介状の威力は抜群で、即座にギルマスの執務室に案内された。

 紹介状を読むギルマスの顔が段々紅潮していく。


 「本当にブルーリザルドを持っているのか?」


 「持っていますよ、ゴールデンベアやオークもね。魔石と肉を受け取ったら残りは売りますが、騒がれると面倒なんで静かにして貰えますか」


 「紹介状を持って来たと言う事は、何処かで騒ぎになったのか?」


 「王都でね。あそこのギルドは、職員もギルマスも大声で騒ぎ立てるので売るのを止めたんですよ」


 「聞いてるぞ、王都のギルドは新人潰しで有名だからな。ギルマスは死んだらしいので、少しは静かになるかな」


 そう言ってニヤリと笑うギルマス、油断がならない男のようだ。

 ギルマスの後に続いて解体場に行き、解体責任者を呼ぶと冒険者を暫く解体場に入れるなと指示する。


 「ホラン、此奴がブルーリザルドやゴールデンベアを持って来た。魔石全部と、指定した獲物の肉を引き取るので、詳細を聞いてくれ」


 ギルマスに指示されて胡散臭げに俺達を見るが、解体場の一角を示して此処へ出せと言う。


 ブルーリザルド・一体

 ゴールデンベア・二頭

 ブラックベア・二頭

 ブラウンベア・二頭

 オークもどき・一頭

 ハイオーク・二頭

 ブラックウルフ・四頭


 「オイオイ、オークキングが居るじゃねえか!」


 「この斑のオークに似た奴の事なの?」


 「ハイオークの上位種だよ。オークキングも知らねえで、狩ってきたのか」


 「知らないよ、普段はホーンラビットやチキチキバードを捕ってるからね。蜜を採りに行ったら襲って来たので狩っただけだよ」


 「蜜って、レッドビーの蜜の事か?」


 「そうだけど、売らないよ」


 「お前達か、王都で噂になっている二人組は。ブロンズとアイアンの癖に、無茶苦茶気が強いってな。気が強いだけじゃ無く、腕も確かなんだな」


 「見ろよギルマス、殆ど一突きか二突きで倒しているぜ。こんなに綺麗に倒すのは、プラチナランカーでも無理だしミスリルランカーでもいるかどうかってところだな」


 「ブルーリザルド以外で、肉の美味しいのはどれなの」


 「そりゃーオークキングだな、ブルーリザルドやオークキングの様な希少種は肉が美味いので有名だ」


 「ゴールデンベアは?」


 「それも美味くて人気があるが、ブルーリザルドやオークキングからすれば一段落ちるな」


 「それじゃー、全ての魔石にブルーリザルドの肉と皮に、オークキングの肉は引き取りね。それとゴールデンベアの肉も一頭分は引き取るよ」


 「おいおい、一番美味しい所を持って行くのかよ」


 「魔石が目的で狩ったんだからね。それに、お肉が美味しいと聞いたら見逃せないよ。残りは全て売るから宜しく~♪」


 「魔石と肉は、明日の昼までには用意しておくから取りに来い。それと二人ともギルドカードを出せ」


 「ギルマス、昇級なら必要無いよ。てか、ブロンズのままで良いのでほっといてよ」


 「阿呆、こんな物を持ち込む奴をアイアンやブロンズにしておけるか。ギルマス権限で二人ともシルバーに格上げだ」


 またかよーって俺のぼやきは無視されて、サラン共々シルバーランクに昇格していまった。

 ギルドで聞いたホテルに部屋を確保してから、市場に向かう。

 それぞれの街にある市場は、色々な味が合って美味いので楽しみだ。


 * * * * * * *


 昼過ぎに冒険者ギルドに出向き、全ての魔石とブルーリザルドの肉と皮を受け取る。

 オークキングの肉とゴールデンベアの肉はサランが受け取り、マジックポーチに入れる。

 同時に買い取り明細を受け取るが、費用も掛かったが中々のお値段だ。


 ゴールデンベア・一頭、一頭分、450,000ダーラ

 ゴールデンベア一頭皮のみ・80,000ダーラ、解体費込み。

 ブラウンベア・二頭、320,000×2=640,000ダーラ

 ブラックベア・二頭、240,000×2=480,000ダーラ

 オークキング・一頭、皮のみ・120,000ダーラ、解体費込み。

 ハイオーク・二頭、55,000×2=110,000ダーラ

 ブラックウルフ・四頭、47,000×4=188,000ダーラ

 合計2,068,000ダーラ


 ブルーリザルド、解体料80,000ダーラ

 差し引き残高、1,988,000ダーラ。


 精算カウンターに行き、全てサランの口座に入金して貰う。

 サランは全て俺の取り分だと言うが、俺の空間収納には金貨が約19,000枚眠っている。

 サランが独り立ちしたときの為に、資金は幾ら有っても良いので文句は言わせない。


 魔石と肉を受け取ったらオルデンの街に用は無いが、行く当ても無いのでのんびり魔石で遊びながら王都に向かうことにした。


 街のホテルに泊まらずに野営を続けるが、夜はサランと二人で魔石の浄化を続ける。

 ゴールデンベアの魔石はお清め魔法の結果、魔力986と1074と出た。

 ハイオークの魔石は、魔力493と508と鑑定出来たので、以前の物と大差なかった。

 ブラックウルフは魔力294と312と鑑定結果、新たに魔力を込めて魔玉石を作っても危険なので、残り二つはお清めをせずに放置する事にした。


 ブラウンベアとブルーリザルドは、ブラウンベアの魔石の方が魔力が高く、ブラウンベアが魔力944でブルーリザルドは836の結果となった。

 種の差はあるだろうがブラウンベアの方が体格的に大きく、闘えばブルーリザルドが勝てる相手ではない。


 その割には魔力が高くて驚いたが、魔石が一個しかいないので平均が判らない。

 体格差と強さに魔石の魔力量の大小が決まっている様だ。


 俺達が遊びがてら王都に向かっている頃、カリンガル伯爵は国王陛下の名の下に王城に呼び出されていた・・・らしい。


 * * * * * * *


 グルマン宰相に導かれて閲見の間に続く広間に入ると、王都に在住する貴族達がずらりと並んでいる。


 「国王陛下の御前に」


 グルマン宰相に促され、居並ぶ貴族達の前を進み国王陛下の前で跪く。


 「フォルタ・カリンガル、偉大なるナザル・ホーランド国王陛下のお召しにより、参上致しました」


 カリンガル伯爵が口上を述べると、国王が伯爵の前に立つ。

 肩に置かれた剣の重みを感じ、何故呼び出されたのかを理解した。


 「汝、フォルタ・カリンガル伯爵を侯爵に陞爵する。以後も励めよ」


 「有り難き幸せ、フォルタ・カリンガル誠心誠意を持ってホーランド国王陛下と王国に仕えます」


 * * * * * * *


 陞爵の儀が終わり別室にて国王陛下とグルマン宰相の三人で向かい合う。


 「サブラン公爵の件、教会の事など何かと大義であった。その方の繋ぎが在ればこそ、万事上手く事が運んだ。西方のパンタナル王国も、ブレッド・サブランの事が伝わったときには出兵準備を始めたらしいが、続報を受けて諦めたらしい」


 「あれには苦労しました。急報を知らせる密使の早馬を疑われぬ様に通過させましたからね」


 「彼国の大使も、何かが起きたと気付いた時には事は終わっていたからな。それを、さも大事件が起きた様に装い自国に急送文を送らせ、その後王家の秘密部隊により一夜にして無血制圧が完了したと噂を流したときの、大使の顔を見せたかったぞ。今は必死で、ブラジア領周辺の領主から情報を集めているそうだ」


 「これで、当分パンタナル王国も大人しくしているでしょう。それにウルブァ神教の教会から、治癒魔法師達の解放を受けて、我が王国が教会より上位に立った理由を必死で探っています」


 「彼に褒美を与えたいが、無理だろうな」


 「下手に褒美などと言わず、素知らぬ顔で彼の自由を保障した方が宜しいかと。先日の、オルセン子爵の様な手合いに目を光らせる必要が在ります」


 「あの男は男爵に降格させましたよ。近々領地も僻地に変え、それとなく隠居を勧めておきます」


 思わぬ陞爵を果たして、アラドにどの様な礼をすれば受けて貰えるのかと頭を痛めるカリンガル侯爵だった。

 数日後、執事から来客の知らせを受けたカリンガル侯爵は、又々頭を痛めることになったが、同時に陞爵のお礼に使う進物が出来たと喜んだ。

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