第52話 ブルーリザルド
レッドビーが〈ブーン〉と低音の羽音を響かせて乱舞する場所に到着したが、茨の木が密集する所で巣が見えない。
見えない防御障壁を、身体より10cm以上離して張っていても、防御障壁にぶつかったレッドビーが怒って群がってくる。
相変わらず好戦的だが都合が良い。
「サラン、この雑木林の中を風で掻き回して、蜂だけを上空に吹き飛ばせ!」
サランが、茨の木が密集する場所を睨んで何事かを呟きながら風を巻き起こすと、枯れ草や落ち葉に混じってレッドビーが風に翻弄されている。
暫くは風に耐えたが、風力が強くなると抵抗虚しく上空に吹き飛ばされていく。
それを見ながら茨の木を切り倒し人の通れる道を作るが、防御障壁の分風当たりが強くて歩くのに難儀する。
俺の後ろをサランが歩きながら、風魔法の連続使用で蜂を吹き飛ばすので視界は良好だ。
アスフォールの街でレッドビーの巣を襲ったときには、蜂団子になって視界ゼロになった事を思えば気楽なものだ。
茨の木の密集地帯を10m以上進んでやっと巣を見つけたが、巣っていうより家・・・又は大岩って言った方が早い大きさの巣だった。
一度撤退し、蜜を切り取って保管する場所の確保から始める。
下草を薙ぎ払い、直径5m程のドームを作り木桶三つと遠心分離機を取り出す。
サランが興味津々で遠心分離機を見ているが、後で嫌って程回させてやるよ。
台座の上に遠心分離機をセットしたら、木桶を持って巣が見える場所まで戻り再び風魔法で蜂を吹き飛ばして貰う。
風のせいで、ライトソードが扱いにくいが巣の表皮をチョイチョイと切り刻んで中が見えるようにすると、転移魔法で巣の一部を桶の中に移動させる。
いやー便利な世の中に・・・違った、魔法って便利ですねぇー。
魔法の練習を怠らなくて良かった、簡単便利にレッドビーの蜜を収穫出来る。 サランも、木桶の中に現れる蜜の詰まった巣の切れ端を珍しそうに見ているが、切れ端から垂れる蜜を見て涎を垂らしそうである。
三つの木桶が一杯になったら、遠心分離機を置いたドームにジャンプする。
未練がましく、木桶や巣の切れ端にしがみ付くレッドビーをたたき落としたら、待望の蜂蜜絞りだ。
先ず俺が手本を見せる、サランの力でブンブン回されたら小さな蜜蝋や塵まで大量に混じってしまいそうなので回す速度から教える。
最初の一回を珍しそうに見ていたが、遠心分離機の下穴から蜜が垂れ始めてくるとうずうずしている。
切り取った巣を入れてはハンドルを握って回し、蜜を絞った滓の蜜蝋や潰れた巣を取り除き、又切り取った巣を入れる。
ほぼ一日がかりの仕事になったが、木桶二つに寸胴八つと壺が20個、それに木桶一つには切り取った巣が詰まっているし、遠心分離機の中にも絞る用意が出来た状態で空間収納に収めた。
サランが幾ら舐めても当分は大丈夫だろうと、レッドビーに感謝してブリムス達の待つキャンプ地に向かった。
急ぎ旅でもないので、ジャンプをせずに歩いているとサランがいきなり立ち止まり、右腕を直角に曲げてあげている。
少し緊張気味のサランも珍しいなと思いながら、サランの視線の先を見ると青と緑の斑模様のオークがいる。
顔はオークに酷似しているが角がやたら立派で、真紅のお目々が恐い。
まっ、サランの魔法とライトソードがあれば問題ないので見物するが、向かって来る野獣に魔鋼鉄の剣先を向けいきなり突っ込んだ。
えっと思った時には、オークもどきの胸に深々と剣が突き立っていた。
サランちゃん、こんな所で剣の練習とは、心臓に悪いから止めて欲しいよ。
魔石が欲しいから姿を消さずに歩いているけど、俺は実戦練習なんて、野蛮な事をする気は無いよ。
折角ライトソードって便利なものを開発したのに、無駄な体力は使いたくないね。
青い顔の蜥蜴にオークもどきとブラックウルフ4頭、ブラウンベアと金色熊さんを各2頭倒して、雷鳴の牙達が待つキャンプ地に戻ったのは7日目の昼過ぎになった。
「よう、どうだった?」
「たっぷり集めてきたよ。誰も近寄った形跡が無かったので、巣が大きかったからね」
* * * * * * *
その夜の食事時に疑問を聞いてみた。
「ブリムス、青い頭の蜥蜴ってなんて名前なんだ」
俺の問いにブリムスが〈ブッ〉と食いかけの肉を吹き出してむせ込んでいる。
「出会ったのか?」
「出会ったって言うか、襲って来たので倒したんだが魔石は取れるよな」
「ブルーリザルドって結構なお値段で、魔石も取れるぞ」
〈ねねっ、ちょっと見せてよ〉
〈ブルーリザルドなんて、話でしか聞いた事が無いぜ〉
〈マジかよう~〉
「お肉は美味いのかな」
「ブルーリザルドなんて全てオークションに出されるけど、肉は極上らしいぜ。然し獲物を貰う約束だが、それは貰えねえなぁ。森の案内だけにしては、報酬が多過ぎるからな」
「もう一つ教えてよ。綺麗な金色の熊さんはなんて呼ばれているの?」
〈だぁー、話しについていけんわ!〉
〈まさか、ゴールデンベアも討伐したのかよぉー〉
〈あんた達何者なの?〉
〈アラドとサランって、ブロンズとアイアンだよね?〉
フロムとベネスが引き気味に聞いてくるが、青い頭の蜥蜴と金色熊さんって、そんなに大層なものなのか。
金色熊さんなんて、蜜の絞りかすに突進して来て夢中で蜜蝋を舐め回している所を、ライトソードでプスリだからなぁ。
討伐なんて大層な事はしていないのだが、そんな話は信じて貰えそうもない。
夕食後、蜥蜴を見たいと煩いフロムとベネスにせっつかれて、新たに直径12m程のドームを作り蜥蜴と金色熊さんを並べて見せる。
蜥蜴は、頭の先から後肢の付け根までが8m程度で、尻尾が同じ位長い。
改めて見ると鼻先から首の付け根あたりは青光りしていて胴体と尻尾はくすんだ青色で四肢の先には鋭く長い爪が有り、口には鋭い歯が乱立して一対の鋭い牙も生えている。
出会った時には思わずジャンプして、木の上に逃げたものだ。
魔石が欲しいので、サランと二人で木の上からライトソードの串刺し攻撃で倒したけど。
〈凄いわねぇ〉
〈良くこんなのと闘えるわねぇ〉
〈プラチナ、ミスリルランカーがパーティー組んで討伐する奴だぜ〉
〈こんなに森の浅い所に居たなんてなぁ〉
「此処から5日くらいの所の崖下に居たんだよ」
レッドビーの巣を追ってジャンプを繰り返していたら、谷底に降りて行くから付いて行って出会ったんだよね。
場所を聞かれても困るので、稼ぎの元を話さないと言って押し通すつもりだ。
ゴールデンベアも体長4m以上、象さんみたいに大きな胴体に金色に輝く毛がふさふさしている。
こんな化け物相手に闘おうなんて、冒険者って命知らずの無頼漢が多いのも納得だわ。
* * * * * * *
何時もの一悶着の前に受付カウンターに向かい、前回散々喚き散らしたおっさんに静かにギルマスのボルゾンを呼べ、騒ぐならレッドビーの蜜をギルドに卸さないからなと告げる。
俺達の後ろには雷鳴の牙6人が立っていて、クスクスと笑っている。
俺がレッドビーの蜜を求めて案内人を募集したのを知っているので、俺と後ろの雷鳴の牙を交互に見て頷き、カウンターから離れて奥へすっ飛んでいく。
暫くするとドヤドヤと足音荒くギルマスがやって来る。
「おう、蜜は取れたか!」
「ギルマス、煩いんだけど。ギルド中に聞こえるように騒ぎ立てるのなら渡さないよ。良くそれでギルマスなんてやっていられるな、新人冒険者を潰すのがギルドの仕事か?」
俺に突っ込まれてギルマスの顔色が変わるが、手前の都合だけで冒険者の事は知った事じゃないって言うのなら、蜜の一滴も渡すつもりは無い。
元々自家消費のために森の奥へ行ってきたのだから。
「俺の言っている事が可笑しいか? 何処のギルドでも、冒険者の獲物や稼ぎの額を大声で喚き散らす所などないぞ。気に入らない様だから、王都の冒険者ギルドには渡さない」
後ろに居る雷鳴の牙を誘って食堂に行き、エールを飲みながら狩った獲物の分け前について交渉する。
「聞いたとおりだ、此処のギルドには獲物一匹渡す気が無くなった。悪いけど約束の獲物の分け前代わりに、一人金貨三枚で勘弁してくれ」
「そんなに貰う謂れは無いと思うぞ。それにアラドの言うとおり、此処の職員達は何でも大声で喚くから、被害を被った奴は山ほどいるしな」
「俺が狩った獲物の口止め料も含めてだよ、永遠に黙ってろなんて言わないよ、10日も黙っていてくれたら良いよ。それで良いなら依頼書にサインするよ。金はギルドの口座に振り込んだ方が良いだろう」
「ああ、そうしてくれると助かるよ。見ろよ、ギルマスの声が聞こえていたんだろう、目の色が変わっている奴もいるぞ」
ブリムスがそう言いながら食堂を見回すと、目をそらす奴がちらほら見受けられる。
まぁ、何処のギルドにも居る奴等を気に掛けるのは面倒なので、気にしない事にする。
揃って受付カウンターに行き、依頼書にサインをしてブリムスに渡し、受付カウンターの男に雷鳴の牙の口座にと言って金貨18枚を渡す。
彼等と別れてギルドを出ようとするとギルマスに呼び止められたが、何も売る物は無いと言ってさっさとギルドを後にする。
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