第51話 雷鳴の牙

 ギルマスの声が弱気になるのにつけ込み、近くまで案内出来るパーティーの紹介を頼んだ。


 「近くまでと言っても、そうそう行けるパーティーは居ないぞ」


 「だから、目的地まで10日掛かるのなら6~7日の距離まででも良いのさ、要は大体の方角へ案内してくれたら、後はレッドビーを探して巣を見つけるから」


 「それでも、お前達を護衛しながら行くとなると、それなりのパーティーじゃなきゃ無理だしなぁ」


 「俺達の護衛は必要無いが、信頼出来るパーティーの紹介を頼むよ」


 「また大きく出たなぁ。そうは言ってもお前達を危険に晒すのは・・・」


 「そっち方面は気にしなくて良いよ。俺達が何をしようと、口出しはしてこないから」


 王国の事を気にしているのだろうが、俺達は危険な事をする気は無い。

 ギルマスに、マジマジと顔を見られて恥ずかしいぜ。


 「じゃー俺が依頼を出すから、応募してくる奴等の品定めをしてくれると有り難いな」


 結局森の奥に向うのに、6日前後の場所まで案内出来るパーティーを雇う事になった。

 その程度なら、シルバーランク以上で6人で構成されたパーティーを雇う事になり、一人一日銀貨2枚の手当を出す事で受け付けて貰えた。


 依頼の受け付けカウンターで72万ダーラを預けて、カールス通りのカールスホテルに泊まっているので、ギルマスの認めるパーティーが見つかったら連絡くれと頼んでおく。


 其れ迄は食糧確保に市場や商店を巡り、序でに壺を多数と寸胴に木桶も二つ追加購入しておく事にした。

 ギルマスから連絡が来たのは五日後で、翌朝ギルドに来てくれとの事だった。


 * * * * * * *


 ギルマスに紹介されたのは、サランより大きくがっしりしている女性と、サランより少し小さい魔法使いタイプの女性を含む女二人に男四人のパーティーだった。

 男四人もサランと同じ位の身長で、俺が完全に埋もれてしまう。


 俺の身長が167cmに対し、サランが頭一つ大きいので多分190~195cm・・・考えたくもない。

 男達も皆精悍な顔立ちと筋骨隆々を絵に描いたような体つきだ。

 まぁ、そんな中に167cmのひょろい俺が混じるのだから、無遠慮な視線が痛い。


 「〔雷鳴の牙〕のリーダー〔ブリムス〕だ。依頼を受ける前に確認したい、何が有ってもあんた達を守る必要は無いんだな」


 「ああ、それで良い。俺達は自分の身を守る術を持っているから気にしないでくれ。理由は森に入ってから教えるよ。それと俺達が狩る獲物は魔石以外はそちらに進呈するよ。1~2頭くらいは、お肉も欲しいのでそれは勘弁して貰うよ」


 「あんた達が狩るって事は・・・」


 「皆は安全な所で見ててくれたら良いよ」


 疑わしげな目が突き刺さるが、言っても仕方がないので後はサランにお任せだ。

 彼等雷鳴の牙も、リーダーがお財布ポーチをぶら下げているので荷物は無し、直ぐ森に向かう事にする。


 王都の南門から出て街道を横切り、草原を真っ直ぐ南に向かうと昼過ぎには広大な森が見えてくる、

 道中リーダーから紹介されたが、バスキラ、カスタド、ボルレンが男ベネスとフロムが女性でフロムは火魔法使いでリーダーの奥さん。

 ベネスもバスキラと同棲しているって聞いたが、リア充死ね! と、叫ぶのは思いとどまった。


 斥候役のボルレンとサランが先頭を歩き、その後ろを俺が続く魔石集めの時と同じ並びになる。

 森に入って暫く歩き、開けた場所で最初の野営となるが、サランと俺がそれぞれ結界のドームを作り即座に隠蔽魔法で見えなくする。

 出入り口を作り、呆気にとられる雷鳴の牙のリーダーに一つを進呈する。


 「あんた達は此方を使ってくれ。ブラックベアくらいまでならびくともしないので安心して良いよ」


 「これは何だ!」


 「結界魔法だよ。24時間程度は持つから、入り口を塞げば見張りも必要無いよ」


 〈ブリムス、来て見ろよ!〉

 〈凄えぞ、外からだと何も無いのに〉

 〈中からだと、外が丸見えだわ〉

 〈これっ・・・本当に大丈夫なんだろうな〉


 「気になるのなら、一度外から攻撃してみなよ。フロムも魔法で攻撃しても良いよ。壊せたら金貨を一枚進呈するよ」


 暫く剣や槍で攻撃していたがどうにもならず、フロムと交代してファイヤーボールの炸裂音が響いたが、それも直ぐに静かになった。


 〈いったい、どうなってるんだこれって〉

 〈結界魔法って初めて見たわ〉

 〈こんな物の中に籠もってしまえば、野獣を気にしないのも当然だな〉

 〈でも、野獣を狩るって言っていたから、結界とは別に攻撃手段を持っている筈だぞ〉

 〈こりゃー、野獣と出会したときが楽しみだな〉


 * * * * * * *


 ブリムス以下雷鳴の牙の面々は、野獣と出会して楽しみよりも呆れ果てていた。

 何せ、欲しい魔石を持っていない野獣を狩る気が無いので、オークやウルフにホーンボア等をアイスバレットを叩き付けて追い払うだけなんだから。


 獲物を何故追い払うんだと文句を言われたが、レッドビーの蜜を採りに行くのであって野獣を狩りに来たんじゃないと答えたが、納得しかねる表情で引き下がった。

 ブラックベアやブラウンベアにハイオークは、出会った瞬間サランがアイスランスを使い一撃で仕留めてマジックポーチ行き。


 余りにも簡単に仕留めるので、楽しみにもならず『何が有っても守る必要は無い』ってのが良ーく判るよと、ぼやかれた。

 しかも同一の野獣は、三頭目以降はアイスバレットやアイスランスを使って追い払うだけなので〈冒険者の風上にも置けない奴〉と愚痴られた。


 一夜キャンプの夕食時、フロムがサランに魔法の事で熱心に訊ねていたが、聞かれたサランが困った顔で俺を見る。


 「サランの魔法もそうだけど、アラドは全然野獣を狩ろうとしないのは何故?」


 「あっ、言って無かったっけ。俺は攻撃魔法を授かって無いんだ、短槍と長剣が俺の武器だよ。結界魔法で身を守る事は出来るので、本来は薬草採取が基本なの」


 「それにしちゃー、レッドビーの蜜を採りに行こうと良く思いつくね。確かに美味しくて、貴族や豪商達が高値で買い取るのが良く判るけど」


 フレイムの炎で炙り、レッドビーの蜜を塗ったパンをパクつきながらフロムが言う。


 「グランデス領アスフォールの街に居たときに、薬草採取の最中にレッドビーを見つけたのさ、街から半日程の場所で草原と森の境界でね」


 「そんな近くなら、誰かが採りに行きそうなものだけどなぁ」


 空間収納にレッドビーを2~3匹入れていたのを思い出したので、テーブルの上に一つ置いて見せる。


 「こんなのがブンブン飛び回っていて、巣に近づけば大群で襲って来るんだぜ。アスフォールの街でも、欲を出した冒険者が時々死んでるって言われたな」


 「でも、アラドは採ってきてるじゃない。お茶に入れたり、パンやビスケットにつけて食べるなんて、そこいらの金持ちには無理な事よ」


 「俺達は結界魔法が使えるからな、蜂に刺されることはないのさ」


 「うーん、私も毎日美味しい蜂蜜を食べたいけどなぁー」


 「蜂蜜の為に死にたくはないわね」


 フロムの言葉にベネスが答えるが、此方は蜜を塗ったビスケットを黙々と食べ、時々蜜をたっぷり入れた甘いお茶を目を細めて飲んでいる。


 * * * * * * *


 森に入って7日目に、レッドビーが飛んでいるのを見つけた。

 蜜を求めて飛び回っている一匹だが、後は俺達二人の仕事だ。

 サランに、風魔法で蜂を捕まえろと言ったが首を捻って考え込んでいる。

 蜂の周囲を、小さな渦で包んで持って来いと言って漸く理解した。

 理解したからと言って、直ぐに出来るかと言えばなかなか難しい。

 何度も失敗しては逃がし、ほぼ半日がかりで一匹を捕らえたが、見ていたボルゾン達が呆れている。

 転移魔法で引き寄せても良いのだが、そこまで雷鳴の牙に手の内を教える気はないし、風魔法の練習をしてもらわねば蜜の採取の時に役に立たない。


 〈風魔法で、こんな使い方を思いつく奴なんて初めて見たぞ〉

 〈言われて出来る奴もなぁ〉


 此処からは俺とサランだけで行動する事になる。

 彼等には此処から自分達だけで引き返すか、俺達が帰ってくるのを待つかの選択をさせる。

 勿論、道中捕獲した獲物は俺達が帰ったら、魔石と欲しいお肉の分以外は引き渡すと伝える。


 ブリムスを囲んで相談していたが、あっさり俺達を待つ事で意見が一致した。

 彼等の安全の為に、魔力を三つ程使って直径8m程のドームを作り、十日程度は充分に持つと伝える。

 出入り口は、一番身体が大きいバスキラが何とか抜けられる大きさにしておく。

 太めの逆茂木でも突っ込んで置けば、いきなり野獣に襲われる事もないだろう。


 用意ができたら、レッドビーの足に目立つ白い草の穂を括り付けて離す。

 蜂の飛び去る方角が、巣の在る方角とみて間違いないだろう。

 ブリムス達と別れて、蜂の飛び去った方向に歩き出す。

 彼等のキャンプ地が見えなくなったら防御障壁に隠蔽魔法を掛けてから、転移魔法で蜂の向かった方へとジャンプを繰り返す。


 授かって良かった転移魔法、歩きだと倒木や岩などを避けて行かねばならないが、川も谷も一直線に移動できる。

 しかし、魔力を1使ってのジャンプは精々100m程度なので、旅には不向きなのが欠点かな。

 一度に数百mをジャンプすれば、魔力の使用量が跳ね上がるので使いどころを考える。


 蜂の姿を見失なうと新たな蜂を探しては捕獲して、目印を付けては放り出す事を繰り返す。

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