第50話 成長期

 「困りましたね『その程度には王国を信用してますので』と、言われてしましましたよ」


 「彼の望む様に、事を運んだ方が良かろう。教会から解放された者を、王国が雇うのは自由だからな。これ以後は授けの儀で有益な魔法を授かった者を、教会が囲い込んでしまう事が出来なくなったのは大きい。治癒魔法師ギルドも、法外な値段を要求しにくくなるので市井の者達も助かるだろう」


 「解放されて、各地に散らばる彼等の保護についてはどうします」


 「各地の領主に、通達を出し保護を命令するしか方法が無いのだが、何か良い案は有りませんか」


 「彼等に、王家か王国発行の身分証を与えればどうです。その身分証を有する者の保護を義務づけ、その身分証を有する者は年一度誕生月に領主の所に出頭する。そして自由で安全だと判る様にすれば宜しいかと、さすれば必要な人材が何処に居るのかも判りますし」


 「成る程、万が一の時に彼等の居場所が解れば、依頼料を提示して治療を要請する事が出来ますな。アラドの要求にも添えますし、陛下に進言しましょう」


 「それと気がつかれましたか、回廊の手すりの隙間から倒れている者が数名見えました。中には手すりの隙間から手が垂れている者もいましたよ。護衛の騎士達に確認しなければ確たる事は言えませんが、アラド達が大聖堂に足を踏み入れた数分の間に戦闘が行われたと思われます」


 「彼等が大聖堂に入ってから、我々を呼び寄せるまでに5分と立っていませんよ」


 「つまりあの二人は、その間に回廊に駆け上がって闘い、潜んでいた敵を殲滅したと言う事です。あの広い大聖堂で待ち受けて居た者は5人や10人ではないはずです。教皇と大教主を護衛する者なら相当な数が居たはずです」


 「アラドの示した光の剣も驚きだったが、未だ何か有りそうだな」


 「あんな光の剣は聞いた事も無い物ですし、しかも伸びて突き刺し切り上げました。あの二人の戦闘力は、底が知れませんね」


 * * * * * * *


 カールスホテルに部屋を取り、市場巡りで食料調達をするが、以前の様なよそよそしさが無くなっている。

 教会が何もしてこないとは思うが、仕入れる食料や調味料は全て鑑定してから買えと言ってあるので大丈夫だろう。


 食糧確保が終わったら、久方ぶりに魔玉石を使っての遊び・・・研究開始だと思ったが、どうもサランの服が合ってないと感じる。

 結構お肉が付いてきていると思うが、だぶだぶなのは変わらないが袖やパンツの丈が短くなっている気がする。

 地下牢から救い出して1年3ヶ月、そりゃー成長するよな。

 それにボラベの野郎が、俺を165cm位でサランを俺より頭一つ高いと言いやがった。


 俺も身長は伸びている筈だが、サランが頭一つ高いとは気に入らない。

 上着の袖を引っ張って見ても短くなっている様に見えないが、サランのは手を伸ばせば何となく短い。

 気に入らないが商業ギルドに出向き服の調整をする事にした。


 俺は立派に成長していて167cmですねと、優しい言葉を掛けられたが嬉しくない。

 冒険者登録をしてから丁度2年、2年で2cm・・・俺は未だまだ成長期だぁ~。

 気を取り直してサランの袖とパンツの裾を直して貰う事にした。


 なんだかんだで王都を出たのは一週間後、荒れた草原にドームを造り久々に小屋を出してのんびりとする。

 何時もの様にドームの外に小枝の三脚を作り、鑑定結果〔ブラックベア魔石・魔力822〕の魔石を置いた。


 此奴は元の魔力が推定876、以前サランが火魔法を入れた魔石は1.5倍ほど入れたはずだから、追加で492の魔力を込めて魔力1,314迄はいけると思う。

 そこから先は未知の領域なので、魔力を100程度ずつ上乗せしていく事になる。


 乳白色の中に金色が煌めき踊る魔玉石は、夜の草原に浮かび上がり目立つ事この上ない。

 急いで魔玉石に隠蔽魔法を掛けて存在を隠す。

 現在俺の魔力は197、最近魔力増強が出来なかったので微増に留まっているが、半分の魔力を送り込むのには丁度良い感じだ。

 感覚的に半分の魔力を魔玉石に込めれば、単純計算で魔力を+100として計算できる。


 結果として、推定魔力2,200を超えた所で大爆発を起こして、夜の草原に閃光が走った。


 ざっと計算して2.5倍の圧力って事になる。

 此れはハイオークの魔石三つでも似たような結果になった。

 ハイオーク魔石魔力483が、魔力1,300で爆散、2.6倍。

 ハイオーク魔石魔力521が、魔力1,200で爆散、2.3倍。

 ハイオーク魔石魔力514が、魔力1,250で爆散、2.4倍。

 結論として、元の魔力の1.5~1.8倍程度が安全だろうとなった。

 まあ、無理をしても、ギリギリ2倍が限界だと思う。


 手元の魔石が無くなったので実験は終了する。

 これからどうしようかと悩んだが、手持ちの蜜が少なくなっている。

 近くにレッドビーの巣がある所を知らないので、王都の冒険者ギルドでレッドビーの生息地を尋ねる事にした。


 * * * * * * *


 「なに~いぃぃ、レッドビーの生息地だぁ~」


 暇そうにしている、買い取りカウンターの親爺に訊ねたら、思いっきり舐めた餓鬼だって表情で喚かれた。


 「ちょっとギルドカードを見せてみろ」


 差し出したカードをひったくり、それを見て笑い出した。


 「ブロンズ・・・冒険者になって2年のブロンズが、レッドビーだってよ」


 「そんなに可笑しいかな」


 「おお、馬鹿が教えてやるよ。レッドビーの蜜はな、シルバーやゴールドランク以上で、10日程度は森の奥へ行ける奴が専門の装備で採取に行くもんだ。それをお前は薬草採取と勘違いしてるだろう」


 そう言って馬鹿笑いしやがる。

 大声で馬鹿にするから食堂の方からも笑い声が上がるし、態々俺達の顔を見に来て、笑っている奴さえ出てきた。


 「でも俺はレッドビーの蜜を持っているんだ、少なくなってきたから取りに行きたくて聞いてるんだよ」


 そう言ってカウンターの上に、蜜で満杯の壺を一つ〈ドン〉と音を立てておいてやった。

 寸胴に入れていた蜜は無くなっが、壺は未だ六個ほど有るんだよ。


 馬鹿笑いしていた親爺が凍り付く。

 お目々まんまるにして壺を見ていたが、慌てて鑑定持ちを呼んで鑑定しろと喚きだした。

 一々大仰な親爺だ、煩いったらありゃしない。

 呼ばれた鑑定使いも面倒そうに壺を鑑定していたが、壺を睨んで唸りだした。


 「間違いない。レッドビーの蜜だ」


 買い取り係の親爺の目が光るが、素早く壺をお財布ポーチにしまう。


 「ちょっ、其れを何故しまい込むんだ!」


 「売り物じゃないんだよ、此奴はお茶を飲むのに必要だから持ってるんだ。手持ちが少なくなってきたので、採りに行こうと思って場所を聞いただけだよ」


 「てめえは馬鹿か! その壺一つで幾らすると思っている。お貴族様やお大尽が金貨を山積みして買ってくれるんだぞ!」


 「んな事は関係ないね。俺はお茶にはレッドビーの蜜と決めてるんだ」


 それにサランが気に入ってしまい、時々熊さんみたいに舐めているから減りが早い。


 「じゃー、その蜜を採取した所に行けば良いじゃねえか」


 「アスフォールの街は遠いんだよ」


 埒があかないなと考えていると、カウンターの奥から男が出てきて声を掛けられた。


 「お前か、レッドビーの蜜を持っているって奴は」


 「そうだけど、王都の冒険者ギルドって、人の質問や持ち物を大声で喚き散らすのが慣例なのか? 見ろよ食堂が静まりかえっているし、俺達を品定めしている奴等も居るぞ。低ランクの者が金目の物を持っていると知られたら、どうなるのか位ギルドの職員なら判るよな」


 「低ランク? ギルドカードを見せろ!」


 「あんたは?」


 「王都冒険者ギルドのギルマスをしている、ボルゾンだ」


 ギルマスの銅鑼声は地声のようだが、一々煩い。

 ギルドカードを差し出すとジロジロとカードと顔を見比べサランにも手を差し出す。

 サランのカードを一瞥し俺達二人を見ながら二,三度頷き、返して寄越すが何やら考え込んでいる。

 こういうときって、碌な事を言われないんだよな。


 「お前達この周辺の森の事を知っているのか、方角を教えたからってレッドビーの巣まで探し出せないだろう。採取した蜜の一部を、オークション用としてギルドに差し出すのなら案内人を世話してやるぞ」


 「どれ位出せと?」


 「壺で持っているんだろう、見せてみろ」


 お財布ポーチにしまった壺を取り出してカウンターに乗せる。

 以前、アスフォールの街でギルドに出した物と同じ、外径約15cm高さ20cm少々の壺だ。

 内径は一回り小さいので、多分2リットルに少し足りない位だと思う。


 「此れなら壺10個でどうだ」


 「あのなギルマス、案内人の日当払って蜜の壺10個も寄越せって強欲すぎないか」


 「勿論、蜜をオークションに掛けた代金は払うさ」


 「金が欲しくて、レッドビーの蜜を採りに行くんじゃないんだよ。それに巣の大きさは判っているのか、行ったら小さな巣しか無かったなんてなったら阿呆らしくてやってられないからな。そんな無駄な事をするのなら、アスフォールの街に戻った方が確実だよ。彼処の巣はでかいから、蜜もたっぷり採れるからな」


 「それは保証出来ないなぁ・・・、森の奥にレッドビーが飛び回っている場所が有るのは有名なんだが、誰も巣に近づけない。そもそもその場所は高ランク冒険者達のパーティーじゃなきゃ近寄れない所だからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る