第43話 依頼完了

 同時進行で、ブレッドや執事達から融通が利かない奴と思われて、冷や飯を食わされている連中の名を申告させる。

 それを使者の従者が書き取り、リヤラインやその部下に差し出す。

 そのメモに従い、各所に居るブレッドの息の掛かっていない者達を集めるのに忙しい。


 執事が騎士団宿舎や警備兵詰め所に直接現れて、指名してブレッドの居る執務室に出頭するように命じると、続々と不満げな顔の男達が集まって来る。 中にはいよいよ首を宣告されるのかと諦め顔の男達も居るが、俺やリヤライン他数名の見知らぬ顔を見て不思議そうだ。


 その彼等に、リヤラインが王家とサブラン公爵発行の身分証を見せて、王家とサブラン公爵様の命によりブレッド以下の不良分子を捕縛に来た事。

 現在、この屋敷は王国騎士団と王国防衛軍の兵によって占拠されていると告げる。


 「その身分証が本物だと認めるし鎧の紋章も王家の物だが、この屋敷を占拠っているなんて・・・そんな寝言を聞かせる為に呼び付けたのか?」


 「信用できないのは判る。然し、お前等には見えないが周囲を取り囲まれて居るんだぞ。今それを証明してやるので右手を出せ! 但し、絶対に声を出すなよ」


 リヤラインがニヤリと笑ってそう告げると一歩下がる。

 投げやりに出した右手が掴まれる感触に、ビクッとしたり驚愕の表情で手を引っ込めようとしたりと室内が騒めく。


 「今から手を引いて隣の部屋へ連れて行くのでそれを見て此れからの行動を決めろ! 俺の命に従うか、今までどおり不承不承でもブレッドの命に従うかを。まっ、ブレッドからは命令は出ないけどな」


 見えない手に引かれて隣室に入ると、ブレッドのお気に入りや取り巻き連中が、猿轡をされ後ろ手に縛られて数珠繋ぎになっている。

 此処にも王家の騎士団の紋章入り軽鎧を着た数人の男達が居て、入って来た男達を見てニヤニヤと笑っている。


 「言っておくが、お前達に見えているのは4人だけだが、お前達の手を引いてきた者と同じ様に数倍の者が居るので迂闊な事はするなよ。王家とサブラン公爵に従う者は執務室に戻って指示を受けろ」


 そう言われると、集められた男達は笑みを浮かべて執務室に戻っていく。

 日暮れ前には、公爵邸内にはブレッド派の人間は全て拘束され、王家とサブラン公爵に従う者だけになっていた。


 人数は減ったが生き生きと指示に従う公爵家の騎士や警備兵達により、街で捕縛した人間の受け入れ体勢が整えられる。

 夜も更けて人通りのないオルデンの街並みを、数珠繋ぎにされた幽霊達の行進が始まる。

 目的地はサブラン公爵邸内の警備兵屋内訓練場だ、到着すると先に帰っていたサランによって隠蔽魔法が解除される。


 数珠繋ぎにされて連れて来られた不良分子達は、此処で初めて捕まったのが自分達だけでない事を知る。

 奴隷商のボスから娼館の主にスラムの大物や裏家業の集団と、雑多な一団だが皆それぞれ脛に傷持つ連中なのは間違いない。


 そして彼等を見張っているのは、公爵家の警備兵に混じって多数の王家の騎士や兵が居る。

 此の後に待ち受けるのは犯罪奴隷の一生だと理解して、絶望的な顔になる者が多数いる。


 夜明けと共にサブラン公爵邸より、ブレッドに友好的な領主に対して王家の書簡が早馬で届けられる。

 王城へ片道切符の招待状だ。

 ブレッドが奴隷の首輪を嵌められて、裏の繋がりや違法な彼此を素直に話してしまっていては、彼等に逃れる術は無い。


 王城に出頭すれば、某かの罰を受けるのは間違いないが、叱責程度で済めば良いが降格や爵位剥奪も有りそうだ。

 ブレッドに友好的な領主に早馬を送ると同時に、彼等の罪状をブレッドが供述し署名した書類が王城に送られているからだ。

 今現在、サブラン公爵の屋敷で起きている事を知る事無く、のこのこ王城に出向いて仰天する事だろう。


 彼等以外の領主にも急送文を持った早馬が送られたが、此方はサブラン公爵領オルデンの街へ兵200を率いて急行し、サブラン公爵邸に居る王国騎士団の指揮下に入れとの命令書だ。

 国王陛下の署名入りの命令書が届くのだから驚くだろう。


 一連の作業が終わったのは、ブレッドを捕獲した翌日である。

 頭を押さえたら、後は王国騎士団と王国防衛軍の兵に丸投げしたので思ったよりも早くて楽に済んだ。

 大変だったのは、サランとリヤライン派遣軍隊長の二人だが、サランはお役御免。

 リヤライン隊長には、集まって来る周辺領主群の兵士を指揮して、捕縛した多数の虜囚を王都に送る任務が待っている。


 夕刻、サブラン公爵の執務室に陣取るリヤラインの所に行き、王家と公爵家の身分証を渡す。


 「王家の依頼は達成したので、此れをグルマン宰相に返しておいて貰えるかな」


 「確かにブレッドの捕獲と協力者や裏の繋がりが有る連中を多数捕らえましたが、地下牢に居た多数の被害者達をどうすれば良いのですか」


 「あれねー、俺にはどうしようもない。貴族の尻拭いは王家のお仕事だろう。まさか、領民は泣き寝入りさせようって魂胆じゃ無いよね」


 「いえっ、決してその様な事では御座いませんが、私の一存では如何ともしがたく・・・」


 「そりゃそうか。上の裁可を仰いでいては時間が掛かるばかりだな。よしっ、ブレッドを連れて来てくれ、奴の宝物庫から謝罪金を出させよう。俺もオルト・サブランの治療代を公爵から貰い損ねたので、此処で貰っていくよ」


 〈はぁ~〉とリヤラインが気の抜けた声で返事をする。

 ブレッドに開けさせた宝物庫は、お約束通りお宝の山だがオルトの治療代として金貨の袋10個をサランに渡す。

 予備に持っているお財布ポーチに、金貨の袋を50個ばかり入れて執務室に戻る。

 リヤライン隊長の目の前に50個の革袋を積み上げ、地下牢に居た人達には謝罪金として金貨30枚を渡して、家に送ってやれと命令する。

 死亡した者の家族には、金貨60枚を見舞金として配れとも言い置く。

 何せ、未だ身分証を受け取っていないのだから俺が総指揮官だもんね。

 足りなければ、地下の宝物庫にたっぷり有るので、気前よく配れと言ってウインクすると呆れていた。


 怪我をしている者や病気の者は、俺が治してやると言って保護されている部屋に案内させる。

 保護されている40~50人の人々の、ほぼ全ての人が何かしらの怪我や病気になっているので治療が大変だ。

 俺一人で治療するのが面倒なので、サランにも手伝って貰う。

 サランが治癒魔法を使える事を知られるが、今更サランに手出しをしようとは思わないだろうから気にしない。


 サランが全魔法の使い手と教えても良いが、大騒ぎになるだろうから小出しに知らせた方が騒ぎも小さくて済むだろう。

 どうせ何時かは知られる事だし。


 俺とサランが怪我人や病人に(ヒール!)と唱える度に、淡い光に包まれて治っていく様を王国騎士団や防衛軍の者達が目を丸くして見ていた。

 結局その夜は公爵邸にお泊まりして、朝食後再度リヤラインの前に身分証を置き、依頼料は冒険者ギルドの口座に振り込んでくれと告げ、防御障壁に隠蔽魔法を掛けて姿を消した。


 慌てるリヤラインを置き去りにして、サランと二人公爵邸を後にする。

 魔石の浄化と、魔力を込めて様々な魔玉石を作る遊びの途中なんだよね。

 気楽に生きるつもりなのに、何が悲しくて放蕩息子の捕獲なんて仕事を何時までもしなきゃならんのだよ。


 サランの憧れの地でもあるし、食糧を仕入れる為に王都に向かう事にした。


 * * * * * * *


 アラド達が王都を後にして9日目、オルデンの街から急送文を携えた早馬が王城に到着した。

 グルマン宰相宛の急送文、差出人はランダ・リヤライン派遣軍隊長。

 即座に宰相執務室に届けられたが、書簡を開いたグルマン宰相は二度三度読み返す事になった。


 ブレッド・サブラン捕獲とサブラン公爵邸の制圧完了。

 オルデンの街に巣くう、ブレッドの心酔者や協力者に破落戸共をほぼ捕縛し公爵邸にて監禁中、と書かれている。


 日付を見れば王都を出発して7日目に書かれた物で、オルデンの街に到着して2日目には任務を完了して居るではないか。

 幾ら大人数を付けて送り出したとはいえ早すぎる、アラドはどんな手段を使ったのか知らないが背筋が寒くなる。


 急ぎ急送文を携えて、国王陛下の執務室に向かう。


 「此れは事実か?」


 「アラドに付けた、リヤライン派遣軍隊長からの報告です。事実に間違いないと思われます。詳しい事は次報を待たなければなりませんが、この様子だと、ブレッドに友好的な周辺の領主達は、後数日で王城に出頭するだろうと思われます」


 「あの男は、その為にあの様な書状を用意させたのか」


 「はい、耳達からの報告に従って名の上がった領主に、王城への出頭命令書を用意してくれと言われて、何をする気かと思いましたが・・・」


 「あの男の中では、王城で魔法部隊の実力を試した時には、既に計画が出来上がっていたのだろうな」


 「カリンガル伯爵が、彼と敵対しないと言うのも無理はないと・・・」


 * * * * * * *


 翌日駆け込んで来た早馬からの急送文には、100名以上を捕縛しサブラン公爵邸にて監禁中であり、ブレッドと無関係な領主に兵の派遣要求書を送り待機中と書かれていた。

 然し注目すべき点は、追記に書かれていたアラドとサランの事であった。

 サランはアラドの指示に従い、騎士や兵を従えてオルデンの街を縦横に走り、ブレッドに友好的な者達の捕縛に協力したが、瞠目すべきは其の結界魔法の技だと書かれていた。


 サランが結界魔法・・・そんな報告は受けていない。

 そう考えて、初めてアラドと会った時の事を思い出した。

 あの時アラドに少女の事を訊ねたとき、アラドは少女の名を呼んだだけだった、と。 

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