第44話 光の剣
あの時、名を呼ばれて少女が姿を現したので、アラドが結界魔法を解除したと思っていたが、あれは少女自身が自ら結界魔法を解いていたのか。
迂闊だった、余りにも堂々と目の前で行われた為に気付かなかったが、あの少女サランは、氷結魔法・風魔法・火魔法に結界魔法と四種の魔法が使える事になる。
冗談では無い、無敵に近い結界魔法使いが二人も居る事になる。
しかも、サランの氷結魔法と火魔法は、王国の魔法部隊の者より遥かに強力である。
万が一敵対する事になった時にどう対処するのかを考えていたのだが、一人でも倒せそうも無いのに二人同時に倒す方法等思いつかない。
グルマン宰相は痛む頭を押さえながら、国王陛下の執務室に向かった。
グルマン宰相の頭痛に追い打ちを掛ける知らせが再び舞い込んだ、サブラン公爵邸の地下牢に閉じ込められていた者の内、怪我をしたり病気の者50名近くを、アラドとサランがあっという間に治したと報告が来た。
アラドの治癒魔法は知る人ぞ知るだが、サランもアラドに劣らぬ治癒魔法使いだと判ったのだ。
国王陛下に報告に行く度に頭痛の種が増えていくし、サランを調査している者からの連絡が無い。
サランはランゲルの街で冒険者登録をしているが、生まれは辺境のホムスク村となっている。
人を派遣したからといっておいそれと全てが判り、連絡が取れる訳でも無い。
それに、サラン自身がカリンガル伯爵の四男セイオスに語ったところによれば、親から奴隷として売られている。娼館の地下牢で空腹で痩せ細り、死を覚悟していた時にアラドに助けられて奴隷からも解放された、と語ったそうだ。
問題は冒険者登録をした時の記録だ。
魔法は無しと申告され、聖刻盤にも何も現れ無かったので、サランの冒険者カードは魔法の記載が無い。
アラドの冒険者カードと同じなのだ、サランがアラドと同じ〔神様のエラー〕と呼ばれる者ならば大問題だ。
冒険者登録に際し、二人とも魔法無し聖刻盤も反応していない、なのに優れた魔法使いなのだ。
探せば、アラドの様な優れた魔法使いが見つかるかもしれないと思うが、神様のエラーは極めて希な現象なのだ、極めて希な現象故にその名が広く知られている。
セイオス自身もアラドから魔法の手ほどきと言うかヒントを貰い、格段に進歩したとの報告を受けている。
アラドは、奴隷商の地下牢で鑑定魔法を使い、サランの能力を見つけたのではあるまいか。
アラドとサランは、今までホーランド王国には居なかった、新しいタイプの魔法使いという事になる。
* * * * * * *
オルデンの街を抜け出して王都ハイマンに向かう為に、隣町のリンナで食糧を仕入れてからサブオリに向かっていた。
リンナからサブオリに向かう道は、疎らに木が生える草原地帯で野獣も多い危険な道なので、十分気を付けろと聞かされていた。
確かに疎らながらも大小の樹木が生え、丈高い草ぼうぼうの草原である。
こんな場所は草食動物が多く、それを狙って肉食獣が集まるので確かに危険だろう。
そんな考えに浸りながら歩いていて、フラグを立ててしまった様だ。
サランが、誰かが闘っているようですと言い出した。
駆けつけてみると、乗合馬車がプレーリードッグの群れに襲われている。
護衛の冒険者四名と、乗客らしき男に御者の六人で闘っているが群れの数が多すぎる。
プレーリードッグと言ってもウルフ並みの大きさで、ワンワン鳴くのでドッグと呼ばれているだけの奴だ。
ざっと見20~25頭のプレーリードッグに翻弄されて、長くは持ちそうもない。
「サラン、隠蔽だけ外してプレーリードッグを引き付けろ!」
走りながら指示し、俺も隠蔽魔法を解除して長剣を引き抜く。
乗り合い馬車に辿り着く前に、冒険者の一人が背後から襲われて肩に喰いつかれた。
それを助けようとした男が太股に牙を立てられて倒れると、プレーリードッグが殺到している。
ライトソードの長さを2倍に押さえて、男に群がるプレーリードッグを横薙ぎに斬り捨てる。
倒れた男の上を水平に斬ったので、上から襲い掛かっていた4~5頭のプレーリードッグが悲鳴と共に倒れたり逃げ出したりした。
サランは肩に喰いついた奴をライトソードで突き刺し、そのまま振り回して襲い掛かろうとしている奴に投げつける。
俺達の乱入にプレーリードッグの襲撃が一瞬止まる。
すかさずプレーリードッグの集団目掛けて飛び込み、ライトソードを突き立て光の剣を3倍に伸ばし振り回す。
魔鋼鉄の剣だけでも、振り回せばヒュンヒュン音がするのに3倍に伸ばせば剣先は音速を超えるので、刃先に触れた物を一瞬で斬り捨てる。
目の前の5頭を切り捨て周囲を見ると、プレーリドッグの群れは逃げだし、サランの周囲にも多数のプレーリードッグが斬り捨てられている。
プレーリードッグに襲われた男は傷だらけで、意識が無いが未だ死んではいない。
直ぐに治療を施してやると顔色は悪いが呼吸も安定した。
サランは肩を喰いつかれた奴を治療して、他の冒険者達の軽い怪我も治している。
「助かったよ、数が多すぎてもう駄目だと諦めかけていたんだ」
護衛の冒険者のリーダーらしき男が、礼を言いながら俺の剣をジロジロと見ている。
「魔鋼鉄の剣の様だが、何か特別な魔法が付与されているのか?」
「あんたも冒険者だろう。聞くなよ」
「悪かった。命の恩人に聞くべき事じゃ無かったな」
「おお、光の剣をふるう乙女は治癒魔法も熟すか」
何だぁ、変な事をほざくおっさんは。
振り向けば、馬車から降りてサランに歩み寄るのは神父様の様だ。
厄介な奴が乗っていた様だが、見られたものは仕方がないが惚けよう。
「神父様、光の剣って何ですか?」
「お前は?」
此奴、女にしか目が行かないスケベ神父の様だな。
「彼女の仲間ですが、彼女の剣が光って見えたのですか」
「あぁ、神々しい光の剣が振るわれる度に野獣が退治されていく様は、創造神ウルブァ様から使わされた使徒の様であった。教会の聖騎士に加わるが良いぞ」
「彼女の剣は俺のと同じ魔鋼鉄の剣ですが、特別に魔力を込めて切れ味を増しただけの物ですよ」
そう言って自分の剣を抜き、刀身を見せてから振り回すが、同時に刀身の片側のみに防御障壁を被せる。
振り回す刀の半分に淡い光が浮かぶが、高速で振り回して序でに手首を返しているのでキラキラ光って見えるだろうが、普通の者には判らない筈だ。
長剣を振り回すのを止めた時には防御障壁は消している。
「おお、まさしくその光であった。なるほどなぁ魔鋼鉄に魔力を込めているのか、無知故創造神ウルブァ様が助けに使わされたのかと思ったものだ」
隣で俺に礼を言った冒険者が、胡散臭そうな顔で俺を見ている。
黙ってろよ、余計な事を言うなと目で訴えるがもどかしい。
「俺達は急ぎの用が有るので、夕方までにリンナに行かなきゃならない。失礼します神父様」
苦しい言い訳をしてサランを神父様から引き離して、元来た道を引き返す。
このまま王都迄同行すれば、あの神父が面倒事に巻き込んでくれそうな予感がする。
2~3日暇潰しに魔石の浄化でもして、それからゆっくり王都に向かう事にした。
* * * * * * *
乗合馬車が見えなくなってから街道から外れて、小さなドームを作り夕暮れまで魔石の浄化をする事にした。
結界のドームの外に設えられた、小枝の三脚に置かれたブラックベアの魔石に、〈魔石を祓いたまえ、清めたまえ!〉と、全魔力の1/4を一気に送り込む。
現在俺の魔力は195、その3/4の魔力146を一気に魔石に中にぶち込んだのだず、結界の外に置いておかなきゃ恐くて出来ない。
ブラックベアの魔石はそれに耐えて、一瞬魔石内部が煌めいたがすぐに消えた。
転移魔法で手元に引き寄せると、ライトの明かりに内部を観察するがよく判らない。
ハイオークの魔石と並べると、黒くは見えるが漆黒とは違う黒に見える。
3日間、一日二度〈魔石を、祓いたまえ清めたまえ!〉とお清めの魔法を魔石に送り込み続けた。
総魔力876を使用して、ブラックベアの魔石は濁りの無い透明な魔石になり、その魔石を鑑定してびっくり仰天!
〔ブラックベア魔石・魔力少〕って何だよー。
お清め前は〔ブラックベア魔石・魔力大〕だった筈だぜ!
何なんだよ、900近い魔力・・・魔法を送り込んで魔力少だとぉーぉぉぉ。
まったく訳が判らんが、もうブラックベアの魔石は無いのでハイオークの魔石で実験する事にした。
3個のハイオークの魔石を並べて(鑑定!)、〔ハイオーク魔石・魔力中〕×3
次ぎに魔力を1/100使用して鑑定してみた。
〔ハイオーク魔石・魔力483〕
〔ハイオーク魔石・魔力521〕
〔ハイオーク魔石・魔力514〕
サランを鑑定した時と同じだ、あの時も普通に鑑定した時には〔女性、ドワーフ1/2エルフ1/2、空腹衰弱、*****〕と出た。
***を不思議に思い、魔力を2に増やして鑑定し、初めて全貌が判ったのだ。
鑑定魔法で詳細が知りたければ魔力の使用量を増やせば良いのだ。
だが、ハイオークの魔石の魔力が483~521となると、ブラックベアの魔石の魔力はそれ以上だが900より低い、俺の使用した魔力は計算上876で鑑定結果が魔力小ときた。
改めてブラックベアの魔石を鑑定する〔ブラックベア魔石・魔力93〕
此れって、俺がお清めに投入した魔力はブラックベアの魔力を消したときに、ブラックベアの魔力と共に消滅した事になるんじゃないのかな。
試しにもう一度透明な魔石に、魔力の半分を使ってお清めをしてみた。
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