第35話 再会
死骸からそれぞれ約15m離れて向かい合った場所に、サランと俺が円筒形の結界を作り籠もる。
遠くて話は出来ないが、四人ずつに分かれているので退屈はしない。
椅子とテーブルを出し、お茶を飲みながらの待ち伏せに皆が呆れている。
〈これで、ゴブリン以下の獲物しか狩った事が無いってんだからなぁ〉
〈俺達シルバーランクの冒険者としての誇りが・・・〉
毛皮を剥がれたラッシュウルフの死骸が7つ、周辺に血の匂いが漂っているはずなのに何も現れ無い。
二手に分かれたまま野営の準備をして、野獣が現れるのを待つことにした。
深夜、肩を揺すられて目覚めると、獣の唸り声と骨を噛み砕く音が聞こえる。
漆黒の闇の中、魔力を纏っていてもぼんやりとしか見えない。
囮の餌を置いたと思われる場所に、ライトの明かりを灯すと見えた!
熊のようだが、巨体が餌に夢中でお尻しか見えない。
確実に殺るには、サランの方から攻撃しなければならないが、通信手段が無い。
経験不足がもろに出たが見逃すつもりは無い、音声通信で指示をする。
「サラン、殺れ!」
俺の声に、食事中の熊公がびっくりして立ち上がる。
その熊公の背中から、結界で出来た槍が突き出る。
〈グオォォォ〉胸を貫かれた熊が咆哮を上げ身を震わせる。
槍を引け、と怒鳴ろうとしたとき〈キャッ〉と声がして結界の槍が消えた。
突き立ったままの槍を握っているところを、熊が体を揺らしたので反動で飛ばされたようだ。
素早く熊の横に回り、立ち上がっている熊の膝裏を短槍で突き刺し、崩れ落ちたところを狙い頭の横から結界の槍を射ち込む。
サランは、熊が身を捻った為に突き立っていた結界の槍ごと振られて、びっくり顔だ。
「油断したな。突き刺したら直ぐに抜くべきだったぞ」
マジックポーチに熊ちゃんを入れながら注意すると、恥ずかしそうに頷いている。
* * * * * * *
朝食後、熊ちゃんをマジックポーチから取り出し検分する。
朝の光の中で見る真っ黒な熊、ブラックベアだと言われて納得する黒さだ。
ロンドに魔石を取り出せるか聞いたが、こんな大きな奴の解体はした事無いし無理だと言われる。
前肢から尻まで3.5mはある巨体で、四つ足でいても馬くらいの背の高さがあると思われる。
皆であれこれ言っている最中、リーナの声に振り返る。
熊ちゃんの食い残しを狙って、オークより一回り大きい奴が現れた。
〈ハイオークだぜ・・・然も3頭もいやがる〉
〈俺達に気付いてないのか?〉
「大丈夫、俺達は見えてないよ」
〈つくづく便利な結界だよな〉
〈討伐任務に就いたら、あっという間にプラチナかミスリルランクになれるのに〉
「食うに困らない程度には稼いでいるので、気楽にやるのが一番さ。どうする、暁の星が討伐する?」
〈冗談だろう、ハイオーク1頭なら何とかなるが、3頭ともなると分が悪すぎる〉
〈私はお断りね〉
〈俺も死にたくないし、アラド達に任せるよ〉
「んじゃ、行きますかサラン」
皆の前で防御障壁を見える様に張り、直ぐに隠蔽魔法を掛けて見えなくしてから、結界の一部を開けて外に出る。
〈本当だ、結界の外側から見たら見えないんだね〉
〈これなら、ハイオークだろうとゴールデンベアだろうと勝てるな〉
〈ドラゴン相手でも闘えると思うけどなぁ〉
羨ましそうな声が聞こえるが、サランは左から、俺は右側の奴から殺る事にする。
お食事中のハイオークの背後に回り、心臓狙って見えない剣を突き立てる。
心臓に一撃食らったハイオークの動きが止まる、素早く結界の剣を消滅させると最後の一匹の背後に回る。
左右の仲間が胸から血を吹き出して倒れ込んだので、不思議そうな顔をしているハイオークの心臓を一突き、ものの十数秒で片付いた。
3頭をマジックポーチに仕舞うと、ロンド達の所に戻り街に帰ると告げる。
目的の魔石は手に入ったので、これ以上森に居る意味が無い。
〈何とまぁ、ハイオークをあっさりと・・・〉
〈此れでブロンズと、冒険者登録して間もない奴なんて誰が信じるんだ〉
〈しかもサランなんて、群狼の三人を叩きのめしてるからな〉
〈何にせよ、こんなに楽な依頼は初めてだよ〉
* * * * * * *
帰りもサランが先頭で、リーナが後ろから見ているだけだが、三日目の昼前には迷わずランゲルに到着。
冒険者ギルドに直行して、依頼書にサインをしてロンドに渡す。
そのまま全員で解体場に向かい、ブラックベアとハイオーク3頭を並べる。
「おいおい、誰が討伐したんだ? 殆ど傷が無いぞ」
「冒険者に手口を聞くなよ」
俺がそう返事をすると、ロンド達がクスクス笑っているが誰も何も言わない。 魔石は俺が受け取るが、残りは暁の星の取り分だから査定を宜しくと伝えて食道に行く。
「本当に俺達が貰って良いのか」
「あぁ、問題ない。依頼の間に見聞きしたことを、ペラペラ喋らない見返りだよ」
〈喋っても誰も信用しないわよ〉
〈見ていた俺達が信じられないんだからな〉
〈ほんと、世間は広いわ〉
〈ゴールドランクやプラチナランクでぶいぶい言ってる奴等が、哀れに見えそうだよ〉
「アラド殿、探しましたよ」
エールを飲んでいる後ろから、声が掛かる。
振り向けばセイオスが立っている。
「セイオス様、お久し振りですね。何か御用ですか」
「貴方から連絡が来るのを待っていましたが、音沙汰無し。父も王都の屋敷で、待ちくたびれていますし。それに以前申しましたが、魔法の手ほどきもお願いしたいのです」
話の内容から、セイオスが貴族の子弟と判りロンド達が固くなっている。
身形は貴族に見えないが、背後に控える護衛は背筋を伸ばして冒険者上がりの護衛とは趣が違う。
冒険者ギルドの食堂内では、セイオス達は非常に目立つ。
どうしようかと考えていると解体場の職員が査定用紙と魔石を包んだ袋を持ってきた。
セイオス達を見て怪訝な顔をするが、何も言わずに査定用紙と魔石の包みをテーブルに置く。
魔石をサランに渡し、査定用紙をロンド達の方に押しやり貴方達の取り分だと告げる。
「倒したのは、サランとアラドだけどなぁ」
「俺達は魔石が欲しくて森に行ったんだ、それ以外は必要無い。また案内を頼むこともあるだろうから、手付けと思ってくれ。俺は客人と話があるので、失礼するよ」
ロンドと握手をして別れ、セイオスの後に続いてギルドを後にする。
〔トゥルクホテル〕の食堂でセイオスと向かい合い、サランは俺の隣に座りセイオスの護衛は隣のテーブルに座る。
「未だ王家が何か言ってきているのかな?」
「いえ、以前王国騎士団のジュアンデ殿の無作法を、父から宰相閣下に申し入れて以来静かな筈だよ」
何事かと目で問えば、セイオスが笑って教えてくれた。
「ジュアンデ殿の一件で懲りたのですよ。何しろ君がその気になれば姿を隠してしまう。敵に回せば厄介極まりない、要らぬ刺激をしないように父が抗議しました。王家の希望は、臣下に迎えたいがそれは適わないと理解した。だから何か有ったときに、貴方に依頼できる繋ぎが欲しいわけです。その役目が私と父に命じられて、各地の領主や冒険者ギルドには、貴方を見掛けたら連絡だけを王城と父と私に知らせるように決められたんだ」
「なんとまぁ、迂遠なことをするもんだね」
「貴方の治癒魔法と結界魔法は、それだけの価値が在るんですよ。特に治癒魔法はね」
「治癒魔法使いって、結構いるはず何だけど・・・」
「貴方のように、ヒールの一言で瀕死の者を次々と治せる者は、教会の光の魔法を使える者と同等か、それ以上かも知れないのです。その貴方を追い回して他国にでも行かれたら大損失です。それと教会の事ですが、貴方を取り込む為に画策していると、父から連絡がありましたのでお気を付け下さい」
以前警備隊の尋問で途中から態度が変わったのや、冒険者ギルドで依頼を出したときのあの顔は、そういうことね。
「アラド殿がランゲルに現れたと連絡がきて、このホテルに投宿して待っていたんです」
「じゃあー、冒険者ギルドで依頼を出したのを知ってたの」
「連絡を受けて、翌日冒険者ギルドに出向いたのですが会えなかったので、そろそろ帰って来る頃だと来てみたのです」
「教会が俺を取り込もうとしていると言ったが、誰かの配下になる気は無い。教会は金蔓にするつもりだろうから簡単に引き下がらないと思うけど、俺と教会が揉めたらどうなる?」
「貴方が派手にやらなければ、王家は静観するだろうと父が言ってました」
「そう、表だっての抗争は控えろって事ね」
セイオスが微妙な顔で俺を見つめてくるが、頬がピクピクしている。
「それより、風魔法は未だ使えないのですか?」
「風魔法を授かった者に聞いても、何ともあやふやでしてね。魔法を見せて貰ったが、突風で相手の動きを抑える程度で微妙なんです。私の風魔法は、精々冬の嵐程度なんですよ」
セイオスの前にコップを置き、目の前で水を掻き回して渦を作って見せる。
きょとんとコップを見ているので、判らない様だし一度草原に出て風魔法を見せてもらう事にした。
セイオスと同じホテルに部屋を取ったが、受付で微妙な顔をされた。
最低でも一泊銀貨3枚の高級ホテル、一介の冒険者がおいそれと泊まれる場所ではない。
それが貴族の子弟と気楽に話して、部屋はあるかと問いかけてくる。
隣にセイオスがいなければ多分断られていただろう。
ツインの部屋で一泊銀貨5枚、取り敢えず五日分を支払い夕食まで別行動とする。
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