第34話 サランの実力

 ギルマスの後に続いて訓練場に向かいながら、サランに訓練用の木剣を使えと指示する序でに、遠慮無く叩きのめせと言っておく。


 「お前は仲間なんだろう、女一人にやらせて良いのか」


 「ギルマス、心配ないのでお気になさらずに」


 俺の返事を聞いて、呆れた様に首を振るギルマス。


 訓練場に入るサランと別れ見物席に行く俺の後を、チンピラパーティーと呼ばれた6人が付いてくる。


 「あの娘は強いのか」


 「俺より遥かに強いよ。サランに賭ければ大穴だよ」


 そう答えると、呆れた様な全然信用していない目で見られた。

 群狼と名乗った奴等より強いのは間違いないが、そう言っても信じられないだろうから、それ以上は言わない。

 模擬戦が始まれば、何方が強いか判る事さ。


 サランは、ギルマスの注意を真剣な顔で聞き頷いている。

 群狼の一番手は、食堂でサランの腕を掴んでいてねじ伏せられた奴が出てきた。

 弱そうな相手を見つけて甚振るのが好きそうな奴だが、今回は相手が悪かった。

 サランがちらりと見てくるので、叩きのめせとジェスチャーで示して頷いておく。


 ギルマスの合図で、短槍に見立てた棒を構えてサランと向き合った男は、構えた瞬間に棒をたたき落とされ、呆気にとられているところを横殴りの一閃で叩き伏せられて昏倒した。


 〈ウオォォォ〉

 〈何だー、ありゃー〉

 〈弱ぇぇぇなあ〉

 〈群狼! 何をやってるんだぁー〉


 二番手は、8人の中で一番がたいの良い男でやる気満々だったが、此れも始めの合図と共に構えた木剣を振ることなく、横に踏み込んだサランに腕をへし折られて敗退。

 三番手がなかなか出て来ないので、見物の冒険者から野次が飛ぶ。


 〈偉そうに言ってたが、女一人にビビったのか!〉

 〈ヒョロガリの女に負ける群狼って、情けないぞー〉

 〈オラー、次の奴、さっさと出ろ!〉


 野次られて引くに引けず、三番手が出てきたがボス格の様で顔が真っ赤になり怒っている。

 女と侮ったら、手下二人が瞬殺された上に冒険者達から野次られるおまけ付きときた。

 頭にきたのは判るが、冷静にならなきゃ勝てないよ。

 まっ、冷静になっても勝てないだろうけど。


 木剣を斜めに担ぎ、横殴りに叩き付けて来たのを余裕で躱すと、伸びきった腕をサランの一振りで砕かれて膝をつく。

 見物席から大歓声が上がる。


 〈オイオイ、群狼のリーダーってゴールドランクの筈だぞ〉

 〈素人の姉ちゃん相手に、一発でやられるとはねぇ〉

 〈ありゃー両腕が砕けているぞ〉

 〈冒険者廃業だな〉


 残りの五人がギルマスの所に行って何かを訴えている。

 サランがギルマスに呼ばれ、話を聞いていたが困った様な顔で俺を見る。

 群狼の残りが模擬戦を放棄したのだろう、頷くとギルマスに何かを告げて戻って来る。


 出迎えて感想を聞くと、弱すぎますの一言で終わった。

 チンピラパーティーと呼ばれた面々が、呆れ顔でサランを見ている。


 改めてチンピラパーティーこと、〔暁の星〕の六人と向かい合い自己紹介を受ける。

 暁の星リーダー・ロンド、ヤロス、カザン、ゴスト、ボルゴン、紅一点リーナの六人。


 「見掛けによらず強いな。あんたより強いと言ったが、あんたはどの程度なんだ。それによって守り方も変わってくるから」


 「私と同じくらいには強いよ」


 サランの声に、疑わしげな目付きが俺に向かう。


 「信じて良いんだな」


 「ああ、サランより劣るが、いざとなったら自分の安全を優先してくれて良いよ。俺達もそうするので」


 翌朝、西門で落ち合う約束をして別れて、市場へ食料の買い出しに行く。


 * * * * * * *


 パーティー暁の星達と待ち合わせて森に向かい、真っ直ぐに奥に向かおうととして一悶着。


 「そりゃー森を案内するが、ある程度は従ってもらわねば安全は保証出来ない」


 「言いたいことは判るが、昨日の模擬戦を見ただろう」


 「サランの腕は認めるが、対人戦と野獣相手では全然闘い方が違うんだ」


 「それは認めるよ。俺は対人戦はともかく、野獣相手ではゴブリン以上はオークと一回しか闘った事がないからな。俺達が先頭を行くのは、あんた達より自分の身を守れるからさ。言っても判らないと思うので、森に入ったらそれを証明するよ」


 そう言って森に入り、開けたところで小さな円筒形の結界を作って見せる。

 隠蔽魔法は使わず、淡い光の結界を彼等に見せると、お口あんぐりで見とれている。

 ひとしきり攻撃させて強固なものだと判らせてから、今度は自分自身に防御障壁を張って見せるが、今度は防御障壁にのみ隠蔽を掛ける。

 身体の表面を淡い光が包み、次の瞬間消えたのを見て驚愕している。


 「身体の周囲に防御障壁を張り巡らせているが、判らないだろう。つまり俺達は常に守られているんだ」


 「俺達って?」


 「サラン」


 俺の呼びかけに、サランが防御障壁を張り隠蔽魔法を防御障壁にのみ掛ける。

 ロンド以下暁の星メンバー全員が、またまたお口あんぐりで俺達を見ている。

 驚かせ序でにもう一つ、サランに30m以上離れて立つ大木にアイスランスを撃ち込ませる。


 大木に向かって腕を差し伸べた瞬間、キラリと光が見えたと思ったら〈ドーン〉と大木から音がして氷の槍が突き立っている。


 「結界魔法と攻撃魔法持ちか。よく見えなかったのだが、何の属性だ」


 「氷結魔法のアイスランスです」


 「これで納得できたかな。サランは攻撃魔法も使えるので、先頭を行って貰うんだ」


 「アラドは?」


 「俺は攻撃魔法は無いよ、元々薬草採取と小動物を狩って生活していたからね、野獣なんて恐くて嫌なんだけど・・・」


 此処まで見せて漸く納得して、俺の希望通りサランを先頭に森の奥に向かった。

 先頭はサランと斥候役のリーナ、その後に俺が続き背後をロンド達が守る。

 サランはリーナから斥候のノウハウをあれこれと教わっている。

 村で狩りに同行していたとはいえ、経験不足は否めないので丁度良い教師だ。

 その日の夕暮れ、野営準備を始めようとするロンド達を止めて彼等用にドームを一つ提供する。


 「此れって、朝まで持つのかい」


 「放置していれば、24時間程度で崩れてなくなるよ。朝までだから十分大丈夫だよ。出入り口を塞いでおくので、見張りは要らないよ」


 そう言ってドームの外に出ると出入り口を閉じる。

 皆不安そうな顔をしているが、放置しても24時間もすれば崩れると言ってあるので黙って見ている。

 俺達は二人なので、4m程の小振りなドームを隣に作る。

 流石に森の中では、大きなドームを作り小屋を出すのは気が引ける。


 空が明るくなり、ロンド達のドームの出入り口を開けてやると、リーナがげっそりとした顔で挨拶してくる。

 どうしたのかと尋ねると、夜中にウルフの群れに取り囲まれて、一時は十数頭がドームの回りでウロウロしていたそうだ。

 それが気になって眠れなかったと、眠そうな目でぼやかれた。

 他の面々は、昼間の実験でウルフ程度なら大丈夫だろうと寝ていたそうだ。


 まぁ、内部からだと外が見える仕様だから、気になったら眠れないだろうなと可哀想になる。

 然し、内部から見えなきゃ敵が潜んでいても判らなくなるので見えなくする事は出来ない。

 そのうち馴れるだろうと放置するしかない。


 ドーム撤収後、再び森の奥に向かって歩くがリーナはサランを見ているだけだ、進むべき方向と帰る方角さえ判っていれば良いそうだ。

 後は野獣の不意打ちを受けない様に、気配を探り危険は犯さない。


 リーナが片手を上げて合図する。

 何事かも思えば、ラッシュウルフの斥候に見つかった様なので、迎え撃つ準備をと言う。

 他の五人が戦闘準備を始める間もなく、ウルフの遠吠えが朗々と森に響く。

 魔玉石にはウルフの魔石も有ったように思うのでサランに2~3個欲しいとお願いして、暁の星の皆には俺の周囲に集まってもらう。


 高さ約4m程の円筒形結界を作り、外部に隠蔽魔法を掛ける。

 サランは魔鉱鉄の長剣を手に、ラッシュウルフが現れるのを待っている。


 「サラン、三倍ほどの剣を使え!」


 俺の声に頷くと同時に、茂みからラッシュウルフが飛び出して来るが、剣先に届く前に斬り捨てる。


 〈えっ・・・〉

 〈何で・・・〉

 〈アラド、どんな手を使ったんだ〉

 〈サランって魔法も剣も凄腕ねぇ、羨ましいわ〉


 俺の結界を背に、ラッシュウルフと向かい合うサラン、背後に回ろうとするラッシュウルフが見えない結界に阻まれ戸惑っている。

 此れは俺の結界だ、戸惑うラッシュウルフに結界内から長剣を抜き、掌に剣の峰を乗せ刃を上に向けて構える。

 長剣をライフルのように構えて、刃の延長線上のウルフを結界の剣で突き殺す。


 ライトサーベルを考えたときから、使用方法を考えていたが短槍より扱いやすい。

 掌の上に乗せた剣の、延長線上に伸ばせば当たるんだから楽勝だぜ。


 〈嘘ぉぉ〉

 〈どうなってるんだ〉

 〈此れなら護衛は必要無いよな〉

 〈自分の護衛は必要無いって、此の事かよ〉


 見えない結界の剣で倒れるラッシュウルフを見て、暁の星メンバーがぼやいている間に、サランが4頭を斬り捨てて襲撃は終わった。

 倒したラッシュウルフは一カ所に集めて、魔石を取り出す準備をする。

 周囲を結界で守っているので襲われる心配はなし、ロンド達が毛皮が欲しいと言うので剥ぎ取って良いと許可する。


 彼等は金を出し合って買ったお財布ポーチを持っているので、毛皮を捨てる選択肢は無いのだろう。

 俺達は魔石が手に入ればそれで良いので異論は無い。

 毛皮を剥いだウルフはそのまま次の獲物の餌として放置する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る