第33話 お約束
食糧補給と教会に行く為に、一度ランゲルの街に戻る事にした。
サランが食糧を仕入れながら、仲良くなった店主から教会の場所を聞き出してくれた。
俺達の食糧買いだし量の多さを知る者達から、サランに味見と称して色々差し出されるが、片っ端から口に入れて嬉しそうに食べている。
気に入れば大量に買い込むので、店主も稼ぎ時とサランに声を掛ける。
四次元胃袋は健在なり、大食い王選手権に出れば優勝間違いなしと思われる。
調理済みの食糧から果物に野菜、菓子から香辛料までマジックポーチに入れて満足し、教会に向かう。
夕暮れ時の教会は人の姿も無く静まりかえっている。
創造神ウルヴァ様、綺麗な顔立ちだが女とも男とも見えない、胸は絶壁に近いが腰のラインは何だか艶めかしい。
不謹慎なことを思いながらも、授かった魔法に関しては深く感謝を込めて祈る。
何せ魔法を授かるという御利益を受けているので、祈りは真剣である。
「おや、こんな時間にお祈りに来られたか」
声に振り向くと、好好爺然とした神父様が立っていた。
断りもなく祈りの場についたことを謝罪して、喜捨として金貨を差し出す。
愛想良く受け取り、ウルヴァ様に俺達の加護を祈ってくれる神父様に質問してみる。
「神父様、つかぬ事をお訪ねしますが、光の魔法とか癒やしの魔法って何の事でしょうか。無知なもので治癒魔法の事だと思っていたのですが・・・」
「おお、光の魔法とは浄化の魔法じゃよ。悪しきものの汚れを祓う事じゃ。授けの儀で治癒魔法を授かり、魔力が80以上の者が習得できる御業でな、毒素を取り払ったり汚れた物を清めることが出来るのじゃよ」
「では癒やしの魔法が治癒魔法の事ですか」
「まぁそうじゃが、魔力80以上の者はどちらも使えるぞ」
神父様に礼を言い、再度ウルヴァ様に祈りを捧げてから教会を後にした。
「アラド様、私達は光の魔法も使えるって事ですよね」
「理屈の上ではそうなるな」
浄化か・・・神主の様に悪しきを払い清らかなる事を願ってみるか」
* * * * * * *
手元にある・ブラックウルフ・ラッシュウルフ・オークの魔石を取り出して考える。
治癒魔法のヒールでは何の変化も無いのは判っている、祓いたまえ清めたまえでは、自分自身を清めるという意味なので駄目だ。
魔石を祓いたまえ清めたまえなら効果があるかも、魔物の魔石を掌にのせ(ウルヴァ様、此の魔石を祓いたまえ清めたまえ)と祈りながら魔石を光で照らし清めるイメージで、治癒魔法を送り込む。
使用魔力はサランのときを参考に1/10を使って見る。
「アラド様! 魔石が光りましたよ!」
「中心で何か光った気がするけど・・・」
サランも見たのなら間違いあるまい、今度は残り1/4の魔力を使ってやってみることにした。
イメージの詠唱は簡単に(清浄であれ、光あれ!)そう念じて魔力を送り込むと魔石の中に光が見え段々と小さくなっていく。
魔石も濁った黒色が薄れているのが判る、魔力を1/10と残りから1/4使った、残魔力が131と出ている。
魔力195からだと、魔力を64使って少し色が薄れた程度とは、並みの魔法使いに作れない訳だ。
魔石のお清めと魔力注入に、途轍もない魔力量を必要とするのだから、最初に浄化と魔力注入を思いついき実行した奴には感服する。
色が少し抜けた魔石を見ていて〈ゾッ〉とした、魔石にヒビが入っていた。
元の魔石の魔力がどの程度か知らないが、そこへ俺の魔力を詰め込んだので耐えきれなくなったのだろうが、高圧縮された物が壊れたら爆発して大惨事になる。
下位の野獣の魔石が、魔玉石に使われていない理由がこれか、危ない危ない。
残りの魔石をドームの外に置き、その一つに残魔力から9/10を一気に送り込んでみると、見事に爆発した。
こうなると、ハイオーク以下の野獣の魔石は使わない方が良さそうだが、手に入れるには魔道具屋に行くか冒険者ギルドに依頼か・・・
俺が冒険者ギルドでハイオーク以上の魔石を頼んだら笑い者になるのは確実、後は自力救済となるのか。
俺一人で森に入れば、確実に迷子になってあの世行き、ランゲルの街で魔石を購入できることを祈って戻る事にした。
セルギエ通り〔ゴルスク魔道具店〕商業ギルドで紹介して貰ったが、ハイオーク以上の魔石が欲しいと伝えると、俺達二人を見て吹き出していた。
冒険者なら、欲しい魔石は自分で手に入れるものではないのですか。
と、上から目線で抜かしやがった。
売る気が無いのなら仕方がない、無い物ねだりは趣味じゃないので諦めて店を出る。
こうなると野獣を狩って魔石を手に入れるのが一番の近道か、他の街に行って魔石を求めるのが良いのか見当がつかない。
「アラド様、売ってくれないなら森に行きましょう。村に居た頃には、訓練で野獣狩りにも付いていってましたから、今なら一人で野獣を狩ることが出来ます!」
「今のサランなら出来るだろうが、問題は見知らぬ森に行けば迷うって事だ。迷子になって森を彷徨うってのはぞっとしないからな」
「それなら大丈夫です、方角さえ判れば帰って来られますよ」
方角か・・・確かに方角が判れば迷わないだろうが、俺にそんな野生の勘はない。
何時も俺の言うことに黙って従うサランが、自信満々で言うのは初めてなので、冒険者を雇って4~5日森に入り試してみる事にした。
冒険者ギルドに行き、依頼受け付けカウンターで4~5日森の案内を頼めるパーティーを募集したいと申し込む。
「森の案内だと?」
「ああ、知らない森で迷いたくないんだ。自分の身は自分達で守れるので案内だけて良いんだ」
「坊主、冒険者カードを見せろ!」
カードを差し出すと〈ブロンズか〉と呟きながらも顔が微妙に引き攣り、サランに向かって手を差し出す。
サランが黙ってカードを差し出すと、眉間にしわが寄る。
「案内人が欲しいのは判ったが、5人パーティーを5日雇うと最低25万ダーラは必要だ。護衛は要らないと言うが、冒険者になって2年にも満たないブロンズと、登録して間のない奴には護衛付きでないと紹介できないな。そうなると料金は最低でも倍になるぞ」
「其れでも良いよ。但し、俺達の邪魔はしないってのが条件になるけど、質の悪い奴は要らないからその辺は宜しく」
「それじゃー、前金で50万ダーラ払ってくれ。連絡先は何処にする?」
「毎朝食堂に来るので、その時カウンターに顔を出すよ」
金貨5枚を預けた、食堂に行って久し振りのエールを堪能する。
サランが、たっぷりのスープで3人前ほどの食事をおやつ代わりに楽しんでいるのを見ていると、先程の職員がやって来た。
「アラドだったな、一組依頼を受けても良いと言っているパーティーがいるのだが、6人組みのパーティーになるがそれでも良いか?」
「会ってから考えるよ」
サランに食事を続けていろと言い置き、職員の後に付いて行く。
待っていたのは女一人、男五人で25,6~30才くらいのパーティーだった。
悪意はないが好奇心丸出しの目付きや、こりゃーお守りが大変だといった表情が出迎えてくれる。
不意打ちされる恐れは無さそうなので頼むことにして、一人追加の10万ダーラを預けて、打ち合わせの為に食堂に戻る。
* * * * * * *
アラドが席を離れると、間を置かずに隣の席からサランに声が掛かる。
〈よう姉さん・・・というか、その細い身体でよくそれだけ食うよな〉
〈止めとけ、女の魅力の欠片も無い奴は放っておけ〉
〈女も、さっきの餓鬼も丸腰だぜ〉
〈それに森の案内を頼んでいたんだ、お宝はたっぷり持っている筈だぜ〉
〈餓鬼と飯を食っても美味くないだろう。俺達と商売の話をしようや〉
そう言ってサランの隣に座り腕を掴んでくる。
サランは戸惑っていた、奴隷に売られてからもアラドに付き従っている間も、こんな経験は初めてだった。
食べるのを邪魔されて、不機嫌な顔でどうしようかと考えている所へ、アラドが帰って来た。
「兄さん、俺の連れに何か用かい?」
「おう、森の案内は俺達〔群狼〕に任せろと交渉しているんだ。それで文句は有るまい」
「サラン、嫌なら遠慮せずにぶん殴れよ」
「面白い小僧だな、俺達と遣り合う気か。後ろのチンピラパーティーも一緒に遣るかい」
「あっ、後ろは未だ契約してないからね。遣るなら俺達二人が相手をするよ」
俺がそう言っている間に、腕を掴まれていたサランが逆手を取り男を押さえ込んでいた。
〈野郎! 模擬戦をやりたい様だな〉
〈久し振りに、痛めつけてやるか〉
〈泣くなよ、ぼくちゃん〉
「それっ、そっくり返してやるよ。やる気ならギルマスを呼んで来なよ」
〈あちゃー、群狼8人とド素人二人の模擬戦だってよ〉
〈こりゃー、賭けにもならんな〉
〈しかし、二人ともショートソード一本だけだが、ド素人には見えねえし・・・〉
〈勝負は水物、やってみなきゃ判らないってね。俺は群狼に賭けるけど〉
周囲で飲んでいた冒険者達が、好き勝手に品定めをしてくる。
後ろにいる6人に、暫く待っててもらうことになると断りを入れると、サランと俺を興味深そうに見ながら頷く6人。
彼等が呼んだギルマスが、俺の前に立って模擬戦を受けるのか確認してくる。
「あっ、ギルマス、俺は見物だよ。やるのはこのサランとそちらの8人ね」
〈おいおい、ひょろがりの女にやらせて自分は逃げるのかよ〉
〈なんてぇ餓鬼だ!〉
〈さっきの大口はどうした!〉
〈情けない、女の尻に隠れるとは冒険者の面汚しだ!〉
あ~ぁ、ボロクソに言ってくれるよな。
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