第32話 魔玉石

 面白そうな話を聞いたが、先ずはマトラの要望を聞こう。


 「魔玉石を見た以上、此れは外せませんね」


 「マトラさん、済みませんがそれは次回以降にお願いします」


 「何故です? 此れほどの魔玉石を見せながら駄目だと言われるのですか」


 「私も箱の中を初めて見ました。此れは少し調べてみたいのですよ。宝石類であれば、お望みの物を値段の折り合いが付けば幾らでもお譲りします。と申し上げたいが宝石の相場を知りません、提示された価格が相応のものか判りませんので、予備知識なしでの商談は無理ですね」


 その道のプロが、俺の様な素人を相手に商売をすれば思いのままだろうが、金には困ってない。

 エコライ伯爵への嫌がらせの為にお財布ポーチに放り込んだ宝石箱だ、死蔵するつもりだったが声が掛かったから興味本位で付いてきただけなんだよ。 それに、気に入らない事が一つ、どうも視線を感じる。

 然も壁から、高額商品を扱うので警備の者でも潜ませているのだろうが、それなら堂々と背後に侍らせろよと思う。


 俺の言葉に気分を害したのか表情が強ばり、結局宝石を手に取る事もなく改めてお話しをとなり、店を後にした。

 余程機嫌を損ねたのだろう、帰りは送ってもくれなかったので歩く事になった。

 宝石のプロだが、商売人としては三流だな。

 時間つぶしになったし、有益な話も聞けたから良しとする。


 * * * * * * *


 ウプサラ通りのバルナク木工所に出向き、注文の小屋を検分する。

 サランがワクテカ顔で内部を見て回り、嬉しそうだ。

 小さいながらも厨房が有るのが嬉しいのか熱心に見ている。

 然し、この小屋がマジックポーチに収まる様は手品を見ているようで、我ながら呆気にとられた。


 バルナク親方に礼を言って、そのまま街を出て小屋の住み心地を試す事にした。

 住み心地は良いのだが失敗した、折角クイーンサイズのベッドにしたのにマットと布団が無い。

 木製のベッドに寝袋で寝るという情けない事になった。


 翌日再びランゲルの街に戻り、ベッドマットに布団とシーツを買いに行く。

 序でに食器や魔道コンロや魔道ランプを買いに、魔道具店に出向きコンロやランプと共に手に入る一番魔力の高い魔石を購入しようとしたが、漆黒とは言いがたい物で諦めた。

 結局ランゲルに二日滞在して、食器類や茶葉にマット等を買い込んでから街を出た。


 直径12mのドームを作っても魔力使用が1/189とは、魔法とはいえ呆れる。

 食後サランと二人で魔玉石の鑑定をする。

 ゴールデンベア・ブラックベア・ハイオーク・アーマーバッファローって何だよ! こんなのを狩りに行けるかよ!

 一際大きい魔玉石の鑑定は・・・嫌な予感がして止めた。


 「アラド様なら、この程度の野獣は倒せるんじゃないですか」


 気軽に言ってくれちゃってるが、俺は攻撃魔法が無いので基本小動物相手の冒険者だ。


 「サラン、俺が強いと思うか」


 「はい! アラド様は強いです」


 「俺が強いのは人間相手だからだ。野獣相手なら死ぬ事はないと思うが、勝てるのは精々オークかウルフ系までだな。結界魔法を利用したライトランスやライトサーベルで多少は行けるかもだが、野獣がうようよ居る森の奥に行く気は無いぞ。野獣に強いのはサランの方だな、お前が結界のドームの中から魔法で攻撃して見ろ、勝てない相手はいないぞ」


 「えっ、でも、ドームの中からだと魔法が使えないのでは」


 「そう思うだろうが使えるんだよ、何時も使っているだろう」


 はて? って顔をしている。


 「ドーム内から転移魔法でジャンプして出入りしているだろう。条件次第では使えるんだよ。自分の結界内からの魔法攻撃は出来るんだ、何時も俺が作るドームの中からだから、魔法攻撃が出来なかっただけさ」


 「ちょっとやってみます」


 そう言って外にジャンプしてドームを作り、アイスランスとウォーターボールを試し射ちして帰って来た。


 「出来るだろう。俺なら結界内からだと、ライトサーベルやライトランスを使って精々20~30m程度が攻撃範囲だな。練習すればもう少し伸びるだろうがその程度なのさ」


 「でも、魔法障壁を張っていればライトサーベルで闘えますよね」


 「近くの奴を一匹ずつならな、それでも一発喰らえば吹き飛ばされるぞ。以前、魔法付与された服の性能を確かめる為に魔法攻撃をさせただろう。あの時腕を出して居た場所に、攻撃を受けた衝撃で振り回されたからな。怪我はしなかったが、吹き飛ばされるのは間違いないんだ。それより魔玉石を試してみよう」


 色々魔玉石を鑑定した結果、色合いのしっかりした光の強い物の方が魔力が高い事が判った。

 魔力を込めていると聞いたが、込められた魔力量までは判らないが〔ハイオーク魔石・魔力大〕とか〔ブラックベア魔石・魔力小〕と読み取れた。


 その中から〔ブラックベア魔石・魔力極小〕と鑑定された光も淡く色彩も薄い物を実験に使う事にした。

 問題というか疑問は、同じブラックベアの魔玉石なのに大きさが違うって事だ。

 ブラックベアの個体差だとは思うが、魔玉石を鑑定すると魔力大と魔力小では、ほぼ全てにおいて魔力大の方が魔玉石も大きい事だ。


 その為に、実験で魔力を込める前に同程度の大きさの魔玉石を用意して、変化の確認もする事にした。

 魔力切れに備え、ベッドに横になって魔石に魔力を込める。

 と言っても経験した事がないので考えた末に、両手で魔玉石を持ち魔力操作の要領で掌の中で魔力を送り込む方法を採用した。


 魔力切れの要領で右手から魔力を放出し、魔玉石を通り抜けて左手で止めるイメージだ。

 止めた場所に魔玉石が有るので、水の流れのように魔力の流れが蓄積されると期待したが、見事にスルーされた。


 魔玉石の周囲をすり抜けた魔力はそのまま拡散していく。

 魔力放出の要領でやったから、あっという間に魔力切れ寸前になり、怠い身体を引き摺ってベッドに倒れ込んだ。


 目覚めて反省、魔力の拡散を抑えるのをどうしようかと考えていて、魔力が内部に入らない原因はなにかと疑問に思う。

 方法と結果・・・何故そうなったのか、魔石に魔力を込める話は聞いた、なら魔石に魔力を注入する方法はなにか。


 昼間、サランの魔法攻撃の練習を見ながら弄んでいた魔玉石、淡く炎の様な文様を見ていて閃いた!

 サランを呼び寄せドームを作らせるが、何時もの倍の魔力を込めさせた強固なドーム、そこから5m程離れた所に小枝で三脚を作る。

 三脚には弄んでいた魔玉石を乗せて、サランと二人ドームの中に入る。


 「アラド様、何をするんですか」


 「ちょっとした実験だよ。サランに手伝って貰わないと出来ないからな」


 俺の意図がさっぱり分からないが、俺の指示には無条件で従うサランに魔玉石を火魔法で攻撃しろと命令。但し、射ち抜くのではなく魔玉石の中に火魔法を出現させろと言いつける。

 意味の判らないサランが戸惑い、俺を見て首を傾げる。


 「言い方が悪かったかな、つまり魔玉石の中にファイヤーボールを出現させてみろ。狙った所にファイヤーボールを作れるだろう、だから魔玉石の中にファイヤーボールをイメージしてみろ!」


 サランの俺を見る目が疑わし気と言うか、可哀想な子を見る目になっている。

 しかし、言われたことをやる為に意識を集中し〈ハッ〉と小さな掛け声を出す。

 それと共に、魔玉石が少し明るくなった気がした。


 「魔石の中に、ファイヤーボールが入ったと思うか?」


 「そう思います。魔石が少し赤くなったように見えました」


 「だよな、俺もそう見えたし・・・次は分割している魔力を、10位使ってやってくれ」


 サランの〈ハッ〉と言う掛け声と共に、魔玉石に炎が見えた気がした。


 転移魔法で魔玉石を手元に引き寄せて、じっくりと観察し鑑定する。

 〔魔玉石、魔力小〕鑑定結果は変わらないが、確かに炎が見えたように思う。

 サランの感想も同じなので間違いなかろう。


 「サラン、今日から魔力放出は止めて、この石にファイヤーボールをとことん入れてくれ。多分それで色も鮮やかになると思うから」


 そう言って魔玉石をサランに渡す。

 こりゃー攻撃魔法が使える者でないと出来そうにない、俺が出来るのは治癒魔法を使って魔力を浄化する事だけだろう。


 その実験の為に適当な大きさの魔石が必要だ、ゴブリンの魔石は幾ら(ヒール!)と魔力を込めても何の変化も見られなかった。

 野獣を求めて森を徘徊するのは嫌なので、ゴブリンを倒して撒き餌に使い野獣を呼び寄せる事にした。

 ブラックウルフ・ラッシュウルフ・オークの魔石を手に入れたが、どれも治癒魔法では何の変化も無かった。


 マトラの言葉を思い出し、教会の光の魔法と浄化の魔法が知りたくて一度教会に行ってみる事にする。

 俺が真剣に試行錯誤している間、サランはせっせと魔玉石に魔力を流し込み、今では綺麗な炎の揺らめく魔玉石に育て上げている。


 この間、約5日間、一日二度魔力切れ寸前まで魔力を送り続けいたので相当な魔力を注ぎ込んだ事になる。

 最初は1/10程度の火魔法を注入していたが、段々一回の魔力量を増やして最後の頃には、ほぼ90%の魔力を一度に注入出来る様になっていた。


 現在サランの魔力は133、90%の魔力として120近い魔力を一度に魔玉石に注入している。

 単純計算で1,200の魔力を注入した事になり、その結果、魔玉石は炎の様な真紅の煌めきを放っている。

 鑑定結果も〔ブラックベア魔石・魔力大〕と出る。


 考えると恐ろしくなるほどの魔力が、小さな魔玉石に込められているので近寄りたくないのが本音。

 然し見ていると綺麗なだけのただの石ころ・・・と言うには語弊があるが宝石より貴重なのは理解出来る。

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