第30話 冒険者登録
俺の言葉に反応して即座に拳が飛んで来たが、正面から額で受けてやる。
勿論頭突きの要領で加速付きだから、〈グキッ〉って音がして手首が変な方向に曲がり呻いている。
〈野郎! 舐めた真似をさらしやがって!〉
男達が身構えたが、サランに腹を蹴られてくの字になり、反吐を吐く奴が三人。
一瞬の出来事にチンピラ達の動きが止まる。
「続けるのなら、痛いじゃ済まなくなるよ。冒険者に見えないが、チンピラを気取るならそれなりの覚悟を持ってから来い」
歩き出すと左右に分かれて無言で通してくれたのでそのまま放置。
良い服を着ているところからみて、商家辺りの次男三男の部屋住みで燻っている奴等だろう。
ウプサラ通りの〔バルナク木工所〕作業場には作りかけの家具や完成したテーブル等がが置かれている。
年若い冒険者が二人、注文生産の店に来たので不審そうだ。
取り敢えず金貨の袋を取り出して見せ、支払い能力が有る事を示す。
「金が有るのは判った。で、何を作りたいんだ?」
「此処は、小さい家くらいは作れると聞いたんだが、組み立てる場所は有るのかな」
「有るが、話を聞いてみなけりゃ答えようが無いな」
確かに、欲しいハウスの概略を説明する。
入り口を入った左がトイレとシャワールーム、右手が作り付け向かい合わせのテーブルと椅子。
突き当たりの壁面は流しと調理場で入り口正面からテーブル一杯の幅で、その奥が左右に二段ベッドの細長い作り。
ベッドサイズは、クイーンサイズの二段ベッドで最大四人が泊まれるが、上段は普段物置かな。
小屋のサイズとしては3.5m×8mの高さが3m程度になる。
「物の大きさと内部は判ったが、此れを何処に作るんだ」
「此処で組み立ててくれたら、マジックバッグに収めるから大丈夫だよ」
「屋根はどうするんだ。真四角な木造なんぞ、雨が降ったらびしょ濡れになるだけだ」
「それは大丈夫、大きなタープを張るから、外壁と屋根も骨組み剥き出しで無く板を張ってね」
外壁は頑丈な板で、内装は木目の綺麗な物を選んだ。
概算で材料費が300万ダーラ、工賃が250万ダーラ、計550万ダーラを前払いする。
受け渡しは一ヶ月後と決まり、店を出て市場に向かった。
一ヶ月、ランゲル周辺でサランに風魔法と雷撃魔法の基礎を練習させる事にした。
この二つって、教えるのが面倒なんだよな。
火魔法や水魔法は、生活魔法からの応用でイメージ出来るし、アローやランスとかフレイムバレットも水球からの応用で教えるのが楽だった。
土魔法や氷結魔法も同様だったが、風ってどうイメージさせるのか悩んだが、サランがコップの中の水を掻き回しているのを見て思いついた。
雷撃魔法は雷様を参考にするしか無いかな、等と考えながら食料を買い込んでいると、先程の奴等が警備隊の者を引き連れてやって来た。
〈此奴等です! いきなり前に立ち塞がって金を貸せと言いだして、断ると蹴りつけ殴られました!〉
「お前達、警備隊詰め所まで来て貰おうか」
十数名の警備隊の隊員に取り囲まれて、隊長らしき男に命令された。
「そいつ等の言い分を微塵も疑ってないようだが、此方は二人で彼等は9人、話しに無理があると思わないのかな」
そう返事をすると、俺達二人と訴えた9人を見比べている。
冒険者になりたてに見える小僧と、多少肉が付いたとはいえひょろりとした少女に見える服装の二人が、二十歳過ぎた男達9人を脅すのは無理がある。
それに冒険者と言えども着ている物は上等だし、ショートソード一本下げただけで、荷物も持っていないのでお財布ポーチ持ちに思われるだろう。
警備隊の隊長が考え込んでいると、背後に控える兵の一人が隊長に耳打ちしている。
それを受けた隊長の表情が変わり、俺の顔をマジマジと見つめ頭の天辺から足下まで見つめ直している。
咳払い一つして、喉に痰が絡んだような声で話しかけてきた。
「冒険者の様だが、ギルドカードを見せろ」
「連れは未だ冒険者登録をしていない」
そう言ってカードを差し出すと、じっくり眺めて小さく吐息を吐いて返してきた。
「女も流民でないのなら、何処かの身分証を作っておけ。行って良いぞ」
そう言うと、俺を訴えた男達の方に向き直る。
振り返るとき、隊長の形相が変わるのが見えたのでお怒りのようだが、耳打ちをした男が俺達から目を離さない。
敵意がないので捕縛などの命令は出ていない様だが、隊長があからさまに態度を変えたのが気になる。
捕縛や強制召還される恐れがないのならと、食糧調達を続行する。
不安気に見ていた市場の店主達も、俺達二人の買いっぷりが良いので愛想良く応対してくれる。
最近は食糧調達の大半をサランに任せているが、調理前の肉なども塊で買い、左ポケットのお財布ポーチのみならず右ポケットのマジックポーチにもドンドン放り込んでいる。
この調子なら、持たせている銀貨200枚も遠からず無くなる気がする。
最近は魔法の練習と食事時以外でも話すようになり、市場での買い出しも安心して見ていられる。
食事の事以外にも結構口を開くようになり、小動物や鳥の解体と調理が出来ると判り任せた所、手慣れたもので調理の腕もそこそこ上手くて助かっている。
聞けば田舎で冒険者になった時の訓練の一環で、野営中食事の支度はサランの役目だったと話してくれた。
特に、念願のカラーバードを捌いて丸焼きにした時は絶品で、田舎料理だが貴族や豪商達が買い求めるのが理解出来た。
最も、調理されたカラーバードの大半はサランの腹に収まるのは、当然の成り行きだ。
お陰で訓練の合間に狩る獲物は、カラーバードかチキチキバードが中心で、序でにヘッジホッグとなってしまった。
金は腐るほど有るので、売るつもりも無く自家消費用に溜め込んでいるだけだ。
多分サランの空間収納は鳥とヘッジホッグに、買い込んだ食糧が殆どを占めている筈だ。
五日ほどランゲルの市場で買い出しをした後、食材店の小母ちゃんに暫く街を出るが、又来るからと言って別れを告げた。
警備隊に問いかけられてから常に尾行が付いて煩かったが、オルザが付けた尾行と違って一切の悪意が感じられ無かったので、街を出るときの悶着を避ける為の予防措置だ。
転移でジャンプするか隠蔽で素通りしても良いのだが、毎日街を出入りするのが面倒だし、変に勘ぐられたくもなかったからでもある。
* * * * * * *
二十日ほどで訓練を切り上げてランゲルに戻り、サランの冒険者登録の為にギルドに向かう。
前もって申請用紙には名前と生まれた街の名だけを書き、魔法は無しと書くように言い含めているので手続きは簡単に終わった。
サランも神様のエラーと言われたとおり、冒険者ギルドの聖刻盤は何の反応もしなかった。
ギルドカードをしげしけと見るサラン、カードにはサラン、ホムスク村生まれ・18才とだけ記されている。
そのまま買い取りカウンターに行き、獲物が沢山有るのだがと告げて解体場に行かせて貰う。
小僧と登録したばかりの二人に疑いの目を向けるが、二人がショートソード一つぶら下げただけの出で立ちに、お財布ポーチ持ちかと問いかけて来た。
サランと二人で頷くと顎で通路を示して行けと一言、愛想の悪いギルドだね。
何時ものカラーバードやチキチキバードを数羽ずつと、ヘッジホッグにホーンラビットを各10数頭ずつを並べ、サランのカードを渡しておく。
冒険者デビューを祝って食堂へ行きエールで乾杯、今まで冒険者登録をしてなかったので連れて来なかったが、これから冒険者としてのいろはを教えなきゃな。
俺の場合は、喧嘩の仕方とかが中心になりそうだけど。
しかし、金貨の袋を10個持たせているので、身分証以外にギルドには用が無さそうである。
現在俺の魔力が189、サランは魔力126になり全魔法を習得できている。
但し、風魔法はコップの中の水を掻き回して渦をつくり、それをイメージさせたので竜巻主体で、ラノベのウインドカッターとかエアーカッターの類いは苦手のようだ。
雷撃魔法は結界のドームの中から落雷を見てイメージさせて、任意の場所に落とす練習を自ら考えてやっていた。
此れからは、各魔法の磨きを掛ける方向で訓練しますと張り切っている。
今回で俺の魔力は189にまで増えたが、此れに伴い回復時間も4時間程で全回復する様になった。
サランも魔力50から126になり、回復時間も7時間から4時間半に短縮した。
此れは以前確認した、魔力が15増えると回復時間が約30分程度短くなるのが、俺だけではないと証明されたと思う。
サラン以外に教える気は無いし、サランには魔法の練習同様厳しく口止めしている。
「アラド様苦いですぅ~」
「この苦さが病みつきになるんだけど、サランには未だ早かったかな」
「でも、この串焼き肉は美味しいです」
皿に串焼き肉を10本ほど乗せて、スープの入ったマグカップ片手にパクパクと食べている。
新顔の二人連れ、ショートソード一本下げただけの俺達は凄く目立っているのに、サランの食欲が更に注目を集めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます